60 アリーヤ/オーランド
オーランドサイドをまるまる加筆しました。
★アリーヤサイド
「どこ、ここ?」
自分は確か薄気味悪いピンクの怪物へと自ら落ちていった、そのはずなのに。ああ、ピンクの怪物の腹の中か。食べられたらそこで終わりだと思っていたが。腹の中までピンクかと思いきや、真っ黒だから分からなかった。
「消化とかは無いのかしら?」
あくまで夢の中の話だ。化け物自体も自分が作り出したものなのだろう。だが、あれに食べられたら死ねると「確信」していた。そう、死ねば執務からも王太子の婚約者からも、レオナルドからもリリアーナからも、何よりオーランドから逃げられる。
夢の中で何度も見た細く鋭い刃のように自分の心臓を貫くオーランドの冷めた瞳を思い出す。もし、これから先あの視線でオーランドに見られたら……自分はどうしたら良いのだろう。
対してリリアーナを砂糖にチョコレートと蜂蜜をかけたように甘く熱く、愛おしく見つめる瞳。オーランドが優しげに誰かを見つめる。
それはきっと相手がリリアーナじゃなくても、オーランドが自分以外の誰かのそばに居るのが嫌なのだ。想像するだけで死んでいるのに窒息しそうだ。
普段は社交界一の美丈夫と称し「愚かなアリーヤよ」と嫌味を言いながらも、どこか楽しげにおどけて見せる彼。そして、自分を「可愛いアリーヤ」と呼び、優しく微笑む時の甘い声。世界を敵に回しても味方でいてくれるような、その真剣な眼差し。
時に呆れるほど掴みどころがなく、時に甘く包み込む彼の態度。その全てに振り回され、もはやどうしようもない。
『オーランド様の愛はとても重そうなので』
『女好きのヒーローが実は一途と言うのが恋愛小説の定番』
ミリーの言葉が頭に響く。あの時は否定したけど、本当は自分もそう思う。きっとオーランドは深く妻と子供をあの蕩けるような瞳で愛するだろう。これから先、生きてそんな彼らを、オーランドの家族を見て笑える自信がない。
「変ね。血の繋がったお兄様なのに」
もう、どうでも良い。ここに居ればそれを見ることもない。オーランドの冷たい視線を浴びるより、幸せそうな日々を見るより、死んだ方がずっと楽だ。
「なのに、なかなか死ねないわ。それともここが死の世界かしら?」
自死した自分には、真っ黒な世界に独りと言うのはお似合いだと思う。ただ、オーランドの事だけは忘れたかった。これからもずっと意識のあるままなら、きっとオーランドを何度も思い出しては傷つくだけだ。死んだ今でさえ自分を振り回す――
「お兄様なんて嫌いよ……」
「それはあんまりでは無いか、死にたがりのアリーヤよ」




