表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/94

55


★アリーヤサイド


 

(!!!)

 

アリーヤは執務室であって本当の執務室ではない場所に立っている。けれど、今日は今までと違って、執務室に甘く粘つくような、おぞましいピンク色の空気が充満して見える。 


(もう見ないと思っていたのに……) 


オーランドとリリアーナの婚約の夢を見たあの日から毎日同じ夢。最初の頃は鍵を閉めて机をドアの前に置いたりして抵抗もしたが、気がつけば机は消え、鍵も空き、リリアーナが不躾に執務室に入っては、小さなパパラチアサファイアで囲まれたパライバトルマリンの指輪を見せてくる。


抵抗しても無駄だと気付いてからは自分から茶も出している。そして、それは今も。


「見て、アリーヤ様!」

「もう何度も見てます。」 


考えた事と反対の言葉が口に出るなら、正確にはオーランドとリリアーナを否定するような事をすると、それとは真逆の言動を取らされるので、今では最初から否定も肯定もせず事実だけを口にし、ただ従う。それなら引き裂かれそうな喉の痛みも何も無い。……なのに


「私ね、今日オーランド様と結婚するの!」

「…………けっ……こん?」


そう言うと派手な色を着ていたリリアーナのドレスはいつの間にかウェディングドレスになり、執務室は式場の控え室らしき所になっている。


「う……そよ」  

 

その言葉に思わず、否定の言葉を口にして喉に激しい痛みとそれと同時に口から血が出る。大きなパライバトルマリンが嵌っていた左の薬指には今はそれよりも幾分かシンプルな指輪が嵌っている


「ほら、ちゃんと見て?」


目の前にズイッと左手を見せてくる


(嘘よ!見たくない!そんなの見たくない!)


そう思えば思うど体は正面を向き、目を瞑ろうとしても目は見開かれたまま、薬指から視線が離れず、


「そう、素敵な指輪ね。」 

 

いつの間にか笑顔を作らされている。今や涙を流す事も出来ない。


(……お兄様……みんな……)


いつしかリリアーナの隣には、リリアーナのピンクブロンドの髪と同じ色のネクタイとポケットチーフを付けた白いタキシードに身を包むオーランドがいた。今日はレオナルドは居ない。その代わりアルバートとオリヴィエにハロルドが、控え室で嬉しそうに二人を祝福している。


(嘘!こんなの嘘!お兄様はリリアーナ様と結婚なんてしない!)

「お兄様、素敵な方を妻になさいましたね」

「だろう?私の自慢の妻だ。そして今日からお前の姉だ」 

 

オーランドがリリアーナの腰をそっと抱きリリアーナの額に優しくキスを落として、今度は優しく自分を見る。リリアーナを見て欲しくない。でも、オーランドに冷たい視線を向けられるよりずっとマシ。

 

「よろしくお願いします、お義姉様……」 


今度は自分からカーテシーをしていた。いつしか自分は教会の席に座っており、二人の誓いのキスを見ている。


(やめて!お兄様!)

「もっとよ!お兄様!」 


自分の声に一度オーランドが微笑むと、リリアーナにオーランドは誓いのキスとは思えぬ深い淫靡なキスを、何度も角度を変えて長い時間をかけてしている。リリアーナは見せつけるように自分に視線を向けオーランドのキスに酔いしれる。


「いや!もうやめて!!」

  

口から血がドバドバとこぼれ、それを手でおさえていると、アリーヤは上も下も右も左も自分がどこにいるのか分からない、黒い、重い粘つくような世界に立っていた。初めてこの場所に安堵する。あんなシーンを見せられるならずっとここに居たい。アリーヤは蹲る。

 

なのに次の瞬間、自分は二人の初夜の前にいた。二人が何をしているかはよく分からない。ただ、初夜だと言う事は理解できた。 耳の奥では幸せそうな二人の声が不協和音のような囁きが響く。

 

「やめて!やめて!お兄様!やめて!」


アリーヤは口から血が溢れようと泣き叫び、動かない体を必死に動かし、オーランドを止めようと近づこうとする。


なのに、動いても動いても距離は縮まらない。叫ぶたびに喉も四肢も引き裂かれるような痛みを覚えるが、オーランドとリリアーナの二人を見る胸の痛みに比べたら些細な事だ。


「お兄様、お兄様――!!」 


気付けばねっとりとしたピンク色の霞が、甘美な香りを放ちながら、首を締めるように、頭を掴むように絡みつく。このまま殺されるのだろうか。


(ああ、でも死ねば二人を見なくて済むわ……)


「そうね、このまま殺して……」 


ふと足元からぬるりと得体の知れない薄気味悪いピンクの色をした怪物の何かが、深淵へと自分を引きずり込もうとしている。甘美な香りは怪物のものなのだろうか。それならそれで悪くない。


「今、行くわ」 

 

アリーヤは抗うこと無く自ら落ちていく。

その意識が途切れる寸前、彼女の脳裏には、ミリーの首元で輝いていた、可愛らしい花の形をしたピンクのペンダントが、鮮烈な残像となって焼き付いていた。 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ