52 アレンサイド
★アレンサイド
「君ねぇ……毎回唐突すぎない?」
「何を言う。今回は昼間に手紙を出したじゃないか」
「それが唐突なんだよ!」
アレンは今とある娼館に来ている。と言っても女性を買う為じゃない。オーランドとの密会の為だ。
『愛するティターニアへ』と宛名に綺麗すぎる文字で書かれた手紙が送られた時は「またか」と思った。中身は情熱的な愛の言葉がズラリと並んでいる。良くもまぁ、ここまで書けると思う。
勿論ここで大事なのは中身ではない。文章の中にわざと汚く書かれた文字がある。そこを繋げて読むと本来の意味になる。文字が美しいオーランドだから出来る芸当だ。因みに『ティターニア』は今来ている娼館の名前で、他にも幾つか密会場所はあり、宛名に場所を指名してくる。
密会場所が多々あるのは、さすがはオーランドだなとアレンも思うが、この手紙で送ってくる時は面倒事しかない。何より
「何が『愛する君の奴隷より』だよ。」
差出人の名前だけは気に食わない。奴隷のように扱き使われているのはこちらの様な気がしてならない。
「……そんなに気に入らないか?ならば次からは『君の愛するランディより』とでも書こうか」
「……冗談でもやめてよね。まぁ、この間の事で僕も君に話したい事があったから良かったけどね」
「それは僥倖。では行こうか」
いつもなら、その場で話し合いを始めるのだが、今回はアリーヤ嬢が心配らしいオーランドがウィルソン家の図書室に招いている。確かに悪夢を見続ける彼女を放っては置けないだろう。けれど、こんな形で自分と会うと言う事は、知られたくない事があるのだろう。例えばドーソン伯爵家の監視だ。
「君の屋敷で話して良いのかい?」
「かなり迷ったが、仕方あるまい。防音魔法と姿を隠す魔法をお前にはティターニア(あそこ)を出る時から使っている。それにここは死角だ。仮に姿を見られても俺一人で本を読んでいるように見えるはずだ」
「そんなに前から!?まぁ、君がそう言うなら良いんだけど…」
***
「これが例の宝石ね……僕にはただの見た事ない宝石に見えるけど?」
オーランドが侍女を言いくるめて奪い取ったネックレスを見ながらアレンは呟く。おっかなびっくりに宝石を指でつついてみるが特に何があるでもない。
「でも……本当に使用人(彼女)がこれを持ってたのかい?」
「ああ。伯爵家の騎士の恋人が隣国から取り寄せたらしく、誕生日に貰ったらしい」
使用人のあれこれをサッと聞いてしまうオーランドにアレンら少しだけ引きながら
「なるほど。一応隣国に伯爵家の取引先はあったよ。採掘されると言われている場所もあったし、そこには鉱夫らしい人も居たよ」
「……らしい?」
アレンは頷き口を開く。影からの連絡ゆえに自分も確認はしていないが、格好は確かに鉱夫なのだが、鉱夫と言うには柄が悪いらしい。
「……?犯罪者の刑罰では無いのか?」
自分も同じ事を考えたが、影いわく「見張り」が居ないとか。
「伯爵家がここ10年くらい犯罪者の更生に力を入れているのは知ってる?」
「知っている。人格者ばかりの歴代ドーソン伯爵の中でも随一と言われる所以だろ?職の斡旋場所の一つでは無いのか?いや、でも……なぜ隣国に?」
勿論自分もオーランドの思った事は直ぐに思いついた。だが実際隣国にあるその場所は斡旋場所の一つなのだ。
「さぁね。ただ、中に入っていった彼らが出てきた所を影は見ていないらしい」
「……見ていない、だと?」
勿論、まだ調べて数日だ。「鉱夫らしい男達」がこれから坑道から出てくる可能性も有るかも知れない。が……チラリとアレンは緑の宝石を見つめる。オーランドも同じ結論なのだろう。
採掘場と言われる場所で一体何が行われているのか。仮に最悪な事が起きていたとして何故伯爵家はそんな事をしているのか。この緑の宝石がどうやって作られているのかは分からない。だが、ろくでもない物なのは確かだ。
実際新しい鉱石だとしても、希少なのか隣国にも出回っていなかった。そんな中に流通経路は伯爵家だけ。影に男爵だと身分を偽証させて伯爵家に買いに行かせたが門前払いだったらしい。
「そんな中で騎士が取り寄せね……」
オーランドの視線が冷たく光る。自分に向けられたものでは無いと分かっていても、オーランドの美しすぎる外見も相まって迫力は凄まじい。
「余程覚えがめでたいのだろうね」
「マーチンというらしい。ミリー曰く実直で口下手で、その代わり態度で表すらしいが………」
そう言ってオーランドはミリーの誕生日の出来事や、ミリーとマーチンとの出会いも話す。良くもそこまで聞き出せるものだ。社交界一の美丈夫もいいが、社交界一口が上手い男、と謳った方が合っているなとアレンは内心思う。
「まぁ、確かに。絡まれていた所を助けるのは納得できるけど……誕生日の祝い方は『実直』と言うより『熟れてる』感じがするなぁ」




