50 オーランドサイド
★オーランドサイド
(やはりか……)
もし、仮にミリーの言葉が全て本当だとしたなら、彼女はただ利用されているだけだ。けれど、愛する人の為なら何でも出来るのも人間だ。それは「アリーヤの為なら何でも出来る」自分が一番理解している。
(利用されているのか、自ら動いているのか…)
「貴族でも人格者と名高いドーソン伯爵家の騎士なのか!ならば、身元も安全だな。君を暴漢から守ったと言うのも納得だ。それにその宝石はドーソン伯爵領でしか買えないのだよ」
オーランドはふむふむと余程そのネックレスを物珍しそうに見つめては頷く。
「そ、そうなのですか?」
「ああ。この宝石は最近隣国で発見されたものでね。かなり貴重なもので、私がその大きさの宝石を見たのは見栄っ張りな『王太子殿下』だ」
「え……そんな貴重なものを」
嬉しさでぎゅっと宝石を握るミリーにオーランドはなんとも言えない気持ちを隠し
「そう、そんな貴重な宝石なのに、君のマーチンとやらはそれを購入している。実直な騎士が、わざわざ『隣国産』の珍品を贈るだなんて。まぁ、これは伯爵領にいれば知る事が出来たのかもしれない。しかし、こう言ってはなんだが、まだ公爵令息すら手に入れていないものを、伯爵領の騎士如きがそう簡単に手に入れられる代物ではないはずだが?」
「それはっっ……」
ミリーは反論しようとしたが、少し口ごもってしまう。オーランドは内心申し訳ないと思いつつもさらに続ける。
「勿論、ミリーの愛ゆえに今までの全財産をはたいて買った可能性は大いにある!だが、偽物を掴まされた可能性は?王太子殿下はこれみよがしに毎日それをつけている。そう。見せびらかしたくなる程この宝石は貴重なものだ。それを一介の騎士が買えると?」
「殿下が…見せびらかす……」
アリーヤに仕えているミリーにはレオナルドがその指輪をしている事に見覚えがあるのだろう。勿論あの童貞王太子が見せびらかすように付けているのは、童貞王太子が愛する「阿婆擦れ」──相変わらず女性の趣味は理解できないが──に貰ったからで他の意味は無い。
しかし、今から俺はこのペンダントをどうしても取り上げなければならない。これがアリーヤの悪夢に直接関係しているかはまだ不明だが、ミリーに持たせて良い代物ではない。王太子の癖に阿婆擦れに現を抜かし、いつも役に立たないのだ。ミリーから取り上げる嘘の役にくらい立ってもらわねば。
「マーチンは君を想って購入したかもしれないが、君のペンダントの宝石は大きさも色も王太子殿下が持っているものと遜色がない。正直に言えば王宮の近衛騎士の隊長クラスでも購入は難しい。これが偽物だったら?マーチンの君への愛も無下にされたとは思わないか?社交界一の美丈夫の私の使命は麗しい淑女達を幸せにする事だ。何より、可愛いアリーヤの大切な侍女であるミリーとマーチンの恋が偽物に汚されているなどあってはならない!一度でいい。私の知人にこの手に詳しい者がいてね。鑑定させてはくれまいか?」




