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★アリーヤサイド



「さて。今日の仕事はこれでおしまいかな?アリーヤ。こんなところ早く帰ろう」


こんなところとは自分の執務室に対して失礼ではないだろうか、アリーヤはそう思いつつも早く帰りたいのは同意だ。「そうですわね」と自分も席を立ち執務室を後にする。 


「お前!その男は誰だ!」

 

あと少しで王宮を出ると言うところで、聞き覚えのある男性の大声が背中から聞こえてしまった。が、気付かないふりでそのまま足を進める。


「おい!アリーヤ!待てと言っている!」


名を言われてしまった。今日は声を聞くことなく屋敷に帰れると思ったのに…アリーヤは内心大きく肩を落とす。


そこではたと思い出す。そう言われてみれば、今日は一日彼らの声が聞こえなかった。一瞬、オーランドが昨日消音魔法を使ったことから、消音魔法が頭を過ぎったが、一日中魔法を使うなど上級魔道士でなければ無理だ。


だいたい初級の3の魔法だ。仮に執務室に上級魔道士がいたとしても、略式とはいえ詠唱は必要だが、アリーヤは詠唱すら聞いていない。


(街にでも出かけていたのかしら?) 


だとすれば毎日出かけて欲しい。いやしかし、毎日出かけられては、街では予算など関係なく散財されるし、彼の仕事が全てこちらに回ってくる。それはそれで、かなり困る。


(まだ、散財しない分、出かけない方がマシなのかしら……) 

 

感覚が麻痺しているな、と思いつつくるりと声の方を向けば案の定レオナルドがおり、その隣には婚約者(アリーヤ)の前でも平然と胸を押付け彼に腕を絡めるリリアーナもいる。   


「レオナルド殿下、本日もご機嫌麗しく」


アリーヤが丁寧なカーテシーをすれば「これのどこが機嫌がよく見えるのだ!」とまた大声で怒鳴る。確かにアリーヤを見ればいつも怒鳴るレオナルドは自分の前に限っては機嫌は麗しくないのかもしれない。


「それで!?後ろの男は誰だ?婚約者(おれ)がいながら他の男と2人きりとはお前は俺の婚約者だと言う自覚がないのか!?」


それをお前が言うのか…チラリとリリアーナの方に視線を向けては心の中で淑女の口調が崩れてしまう。


「……殿下、こちらは私の兄のオーランド・リュクソンですわ。以前ご紹介させて頂きましたし、何度か夜会でもお話したかと思いますが…」 


婚約者の兄であり、未来の公爵を覚えていないとは。それを除いてもオーランドの外見は一度見たら忘れれない程の美丈夫だ。そんな簡単な事も忘れるとは、レオナルドはここまで物覚えの悪い男だったろうか。アリーヤは心の中で少しだけ頭を傾げる。


「ああ、愚かなアリーヤよ。婚約者としてそのくらいは察して差し上げなければ。殿下は婚約者を放置し代理で執務を行わせた挙句、感謝の言葉も言えない程『色々とお忙しい身』だ。『婚約者のお前』ですら感謝の意を伝え忘れられていたのだ。私の名を忘れられたのは致し方ない。では、改めてレオナルド殿下に御挨拶申し上げます。リュクソン公爵が長子、オーランド・リュクソンにございます。リュクソン公爵家の次期当主でごさいます。次にお忘れになられたら、私は悲しさで発狂してしまうやも知れません。」 


オーランドはそれはそれは楽しそうに舞台俳優のように長台詞を吐いては恭しく礼を取る。要は「これ以上アリーヤを放置して女にうつつ抜かしたら、自分が公爵になった時何をするか分からない」と言いたいのだろう。いきいきと嫌味を連ねるオーランドを見て、アリーヤはオーランドの趣味の欄に「嫌味」をそっと付け加える。


用は済んだとばかりにオーランドはリリアーナには目もくれず「御前失礼します」と淡々と口にすると、アリーヤの腰を支えエスコートをしてその場を離れる。


(本当にリリアーナ様のこと嫌いなのね…) 

 

女性に甘いオーランドが全くリリアーナに目もくれない。オーランドのリリアーナへの対応に未だに慣れないが、一刻もこの場を離れたいので何も言わずについて行く。


――はずだった。


「オーランド様!お待ちください!」


可愛らしくもキンキンとする耳障りな声が廊下中に響く。衝動的に声を上げるリリアーナに、アリーヤはぎょっとする。


(仮にも令嬢が大声をあげるなんて…)


「え?」と言う声がアリーヤの耳に聞こえる。顔は見えないがリリアーナはきっと大きな瞳を更に大きくしているだろう。それはそうだ。名を呼んだのにオーランドは止まらないのだから。  


「おい!オーランド!貴様止まらんか!リリアーナが呼んでいるのだぞ!」


オーランドは悪びれもなく大きく溜息をつき、


「申し訳ございません殿下。私は知り合いの女性は顔も声も全て覚えておりましてね。しかし、先程のお声のご令嬢は私の知り合いでは無かったもので。別の『オーランド様』を呼んでいたのかと…」


(リリアーナ様は自己紹介もしていないのに勝手に名前を呼んだの!?) 


貴族社会に置いて名前を呼ぶのは本人が許可した場合のみだ。オーランドが知り合いじゃないと遠回しに言えば「ずっと俺の隣にいただろう!」とレオナルドが顔を真っ赤にして反論する。


「はて?私には見えませんが…まさか殿下の隣には娼婦にも劣る、下品に胸を押し当て腕を絡めるご令嬢が居るのですか?おやおやおや!もしそうだとしたら大問題です!婚約者を差し置いてを連れ歩くなど殿下こそ不貞を働いている事になります!となれば、殿下の有責で婚約破棄に慰謝料……いや、しかし!尊き殿下が私の可愛いアリーヤへそんな事をするはずが無い!…そう。ですから『私には見えない』のです」


またも、いきいきと大きく声を張り上げて話すオーランドに、アリーヤは内心ため息をつくが、実際その通りだ。娼婦にも劣ると言ったり見えないと言ったり、余程リリアーナを目に入れたくないのだろう。


オーランドが大きく声を張り上げたせいで、人集りが出来近くからクスクスと笑い声が聞こえる。レオナルドとリリアーナはそれに気づくと顔を赤くしてはその場を去った。


(ほんとなんだったの……)


オーランドに助けられたとは言え、そのオーランドが不敬罪で罪に問われないかひやひやしながら、アリーヤは帰りの馬車に乗った。  

 


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