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★アリーヤサイド
あれから3日が経った。あの日から眠くてたまらず仕事も出来ずベッドで寝ている。眠ると必ずと言って良い程夢を見るから眠りたくないのに。
あの日をきっかけに声が出なくなった。医者に看てもらったところストレスだと言われた。夢の中で喉を掴む緑の霞のせいではと一瞬思ったが、夢に何か出来る訳でもない。
それからオーランドが一度顔を出してくれたが、彼に拒絶されるのが怖くて追い返してしまった。声にはならなかったのにオーランドには全て伝わっているような気がした。
夢はあれからは良くも悪くも内容が変わる事はなかった。まるで何かがこれ以上の深い悪夢に落ちないようにギリギリで保っていてくれているようなそんな気さえしてくる。
ただ、おかげで、オーランドとリリアーナ様がウェディングドレス楽しそうに話し合っている姿も慣れてしまった。けれど二人の結婚式の夢を見なくて済んでいるのでそれだけが救いだ。
少し分かった事だが、今の夢の中では否定の事を考えていると、真逆の言葉が口に出る。否定の言葉を口にすると、喉が引き裂かれるように痛む。
喉の痛みは構わない。ただ、それを言うとオーランドのナイフのような鋭い視線がこちらを向く。その視線に耐えられない。言うことを聞けばオーランドは微笑む。ならば、全て言う通りにした方がいい。
そう、全ては言う通りに……
***
「いかがですか?お嬢様」
僅かに起きている時間、ミリーは紅茶を淹れてくれる。オーランドが譲ってくれたあの茶葉だ。この紅茶を飲むと嫌な事も何処かに溶けて行くような気がする。
結局、オーランドにはこの茶葉がどこで買えるのか聞けないままになってしまった。今の自分には必要な飲み物なのに。
ミリーに聞いてもらおうかとも思ったが、拒絶した兄を頼るのは違う。アリーヤは美味しいと言う代わりにふわりと微笑む。
するとコンコンとノックの音が聞こえる。ミリーに頷き代わりに入室の許可を言ってもらうと、お父様とお母様が様子を看に来てくれた。二人は日に何度か自分が寝ている時も来てくれているそうだ。
アリーヤが微笑めばいつも2人には泣き崩れそうな顔をする。
「オーリーにも貴女に酷い事をしてるわ。酷い親でごめんなさいね」
お母様はいつもそう言う。何故そこでオーランドが出てくるのか全く分からないけれど。オーランドに酷い仕打ちをしているのは、心配してくれたのに追い返した自分の方だと思う。
「私達のアリーヤ、どうかオーランドを信じてくれ。あの子はいつだってお前の味方だ」
アリーヤはなんとも言えない顔で笑う。信じたいけれど、無理なのだ。あの瞳で見られると思うとオーランドに会いたくない。もし、現実であの目で見られたら自分はどうすれば良いのか……




