43 アルバートサイド
★アルバートサイド
オーランドが自分の執務室にオリヴィエも呼び、アリーヤの状況を話してきた。昨日に続き倒れたらしい。今回で二度目。
「父上、母上…いえ、公爵夫妻。俺には……もう無理です。アリーヤを見ていられません。」
オーランドが、爪の後が残るほどに強く拳を握り閉めているのが、アルバートとオリヴィエにも分かった。自分達とて同じだ。だが
「だが『今』じゃない」
「俺の事などどうでも良い!アリーヤが苦しんでいるんです!お二人の実の娘が!俺を養子にしたのもその為でしょう!?」
アルバートとオリヴィエの目が見開く。聡い子だとは思っていたがそこまで理解していたか。
「オーランド、私だってオリヴィエだって本当なら今すぐにでもお前に魔法を使って欲しい。アリーヤとお前が…子供達が苦しんでいる姿を見てなんとも思わない親がいるとでも!?……これはお前やアリーヤを思ってではない。『リュクソン公爵家当主』としての命令だ。」
「なっ!どうしてですか!!!」
普段は誰よりも冷静なオーランドが強くアルバートの机を叩く。オーランドが乱れる時はいつだってアリーヤだ。それが彼の『使命』ゆえなのか『愛』ゆえなのか。どちらでも良い。アリーヤを唯一救えるのはオーランドだけなのだ。けれど
「今はそれを言えない。分かってくれ……」
「なら、俺は何の為にいるんですか!貴方達にどんな目的があって俺を養子にしたのかは分かりません。ただ、俺が貴方達には必要だった事は分かります!それが今じゃないんですか!?」
オーランドは右手を大きく広げアルバートを睨みつけるように話す。仮面を被ったオーランドの似たような仕草をアルバートも何度も見た事がある。けれど今のオーランドは見ていられない。彼は自分達以上にアリーヤを愛しているのかもしれない。
しかし、それだけでは足りない。せめてもう少しだけオーランドに『使命』の自覚があれば……今のオーランドでは魔法の制限を解放したあと、この世界がどうなるか分からない。
「……違う『今のお前』ではダメなのだ」
「今?何を仰ってるのか……」
「それが分からない時点で『今』じゃない。もう一度言う。これは『ルミニス王国筆頭公爵家当主・アルバート・リュクソン公爵』としての『命令』だ。ただの嫡子でしかないお前に否やを唱える資格は無い」




