42 ミリーサイド
★ミリーサイド
お嬢様がまた倒れられた。いきなり『急ぎ馬車に来るように』とオーランド様から言伝を貰い、淑女として許される範囲できるだけ早く馬車に戻ると乗り込むように言われる。
オーランド様は女性にお優しい。普段なら侍女の私にもエスコートをして下さる。そんな彼が顔を青くして乱暴に「乗り込め」と言う。しかし
「……あの、お嬢様は?」
「ここにいる。中庭で倒れた」オーランド様はそう一言だけ言い、馬車が走り出すと魔法を解く。お嬢様の顔色は青白いを通り越して真っ白だ。昨日の倒れ方が可愛いと思えるほどに恐ろしく白い。冷や汗がつたい身震いしてしまう。
「お嬢様、オーランド様、申し訳ありません」
お嬢様がオーランド様を探しに行くと執務室を出てすぐ、私は彼女を見失った。公爵令嬢として有るまじきお嬢様の焦り具合に少し驚いて一瞬体が動かなかった。侍女として何たる失態。いや、私がもっと強く執務室から出ていくお嬢様を止めていれば……ミリーは後悔する。
声が震え今にも涙を零しそうになるが、お辛いのはお嬢様とオーランド様だ。自分が泣いては行けないと、ミリーは目をギュッと瞑り泣くのを我慢する。
オーランド様は自分に気にするなと言うように首を振るが、不安なのだろう。いつは一番お話になるオーランド様が、お嬢様の状況を話してから一言も喋らない。身じろぐお嬢様の肩を優しく支える姿が痛々しい。
その後オーランド様は昨日と同じように優しくお嬢様をベッドに横たえると、自分に後をまかせ旦那様と奥様に状況を伝えに行った。
ミリーは少しでもアリーヤの体が温まるようにお湯につけたタオルで体を拭き、手を握る。自分に出来る事の少なさに涙が出そうだ。
「なぜ、お嬢様だけがこんなお辛い目に……どうか、どうかお嬢様に『分け隔てない幸福が永遠に続きますように』」
ただ、ミリーは祈った。




