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★アリーヤサイド



「静かね……」


いつもなら外から聞こえるレオナルドとリリアーナの笑い声も、山のような書類も、ひっきり無しに来ていた役人も、レオナルドに伝え忘れた事があると執務室を出ていった舞台俳優のような兄も今はいない。体も軽く気分もとても良い。こんな穏やかな日はいつぶりだろうか。


「本当ですね。オーランド様が少し居ないだけでこんなにも違うと寂しく感じますね」

「お兄様は外見も内面も煩すぎるものね」


オーランドは自分の一週間分を一日で話しているとアリーヤは本気で思う。良くもまぁ、あんなに口が回るなと毎度感心してしまう。


「オーランド様の外見を煩いと仰るのはお嬢様だけでしょうね」     

  

ミリーが小さく笑いながら、今朝オーランドから貰った紅茶を淹れる。そういえばレオナルドの登場でこれを何処で購入したのか聞くのをすっかり忘れてしまった。


静かに口に含むと更に体が楽になる気がする。あくまで「気がする」だけなのだが、疲れている自分は美容に関係なくついつい飲んでしまう。 


「お兄様の髪って光に当たるとそれだけで眩しいのだもの。それに最近は余計にキラキラしているし」

「『キラキラ』ですか?」

「ええ。表現が難しいけど無駄に光って見えるわ」


ミリーは「なるほど」と一つ納得したように頷き


「私にもそう言う方が1人だけいます」

「まぁ!どなた!?」

「恋人のマーチンです」


ミリーの言葉に、アリーヤは思わず淑女にあるまじき苦々しい顔をしてしまう。好きな人が光り輝いて見えるのは小説で読んだ事がある。体験はした事は無いが、ミリーの言いたい事は何となく分かる。自分がオーランドに恋をしているとでも言いたいのだろう。だが


「ミリー、私とお兄様は血の繋がった兄妹よ?」

「そうでしょうか?血が繋がっていようとオーランド様のような方が自分を気にかけて下さっていると分かれば、私は妹でもときめいたと思います」

「『そうでしょうか?』……って。」       


ミリーは実の兄妹での恋愛を、まるで肯定するかのように言う。それには呆れはするものの、内心、ミリーの言葉にアリーヤは少しだけ安堵する。最近、特に調理場で会った時のオーランドには心臓が大きく跳ねた。昨日も執務室で倒れたあと、目が覚めた時オーランドが居てくれた事がどれ程心強かったか。


兄に依存しているような気がしていたが、オーランドの美貌は規格外だ。実の妹でも何らおかしくないと言われたようでほっとする。


「お兄様の事はいいわ。それよりマーチン?様?の事を教えて?」

「い、今は執務中では!?」

「その執務が無いのだもの。今までの分の休憩を纏めて取ってると思えば、ね?」


そう言われてしまうとミリーは断るに断れず、苦笑しては話す。街でミリーが変な男に声をかけられていた所を、マーチンが助けてくれた事が出会いだったらしい。そんな話は聞いた事がない、と言ったら心配かけたくなかったと言われてしまった。        


ミリーは確かに外見こそ平凡だが、自分が男なら結婚したいと思う程に素敵な女性だ。ミリーに声をかけた男は腹立たしいが、見る目があると賞賛はしてやってもいいかなとアリーヤは思う。


その上、おかげでミリーには素敵な恋人が出来たのだ。恋のキューピッド役として役に立った。褒美として今回だけはリュクソン家からの礼は無しにしておこうと心の中で頷く。


「ミリーに声をかけた男は許せないけど……小説みたいでロマンチックね!」

「マーチンは実直で口下手な所もありますが、誕生日の時のように態度には一生懸命出してくれて……そこが少し可愛らしいんです」

「まぁ、強い騎士様を捕まえて可愛いだなんて!ふふ、彼に会ってミリーを助けてくれた事や、ミリーの恋人になってくれた事のお礼が言いたいわ」

「お嬢様ってば。私の母親みたいですね」


静かに微笑むミリーを見てアリーヤも笑みを返す。恋をすると女性は綺麗になるとは小説で読んだことがあったが、その通りなのだなと思う。彼女の周りだけ温かく輝いて見える。まるでオーランドのように。


(──!!!それってつまり……)


「お兄様にも、とうとう春が!?」


首を傾げるミリーに、恋する女性は綺麗で輝いて見える。それは男性にも言える事で、アリーヤがオーランドが輝いて見えたのは、つまりはオーランドが誰かに恋をしているからだと説明する。


「なるほど。一理ありますね。しかし、オーランド様に愛される女性は大変でしょうね」

「お兄様がおモテになるから嫉妬で大変と言うこと?」

「それもありますが……オーランド様の愛はとても重そうなので。下手をすれば公爵家の権力を使ってでも恋敵を排除しそうです」


さすがにそんな事は無いだろうと思うも、最近の恋愛小説には少し過激な愛情を持つヒーローが流行って居るらしいし、妄想するのは好きにさせておこう。


「お兄様がねぇ……そこまで一途には見えないわ」

「あら、お嬢様。女好きのヒーローが実は一途と言うのは恋愛小説の定番ものですよ」


ミリーがあまりにもくすくすと楽しそうに話すので、少し想像したら、夢の中のようにリリアーナを熱い瞳で見つめるオーランドを思い出して胸が痛む。


「何にでも例外はあるわ。お父様もお母様もお兄様には甘いから、誰を選んでも問題はないでしょうけど……」


自分も兄の選んだ人なら祝福したい。けれどリリアーナだけは絶対に嫌だ。リリアーナに取られるくらいなら自分がそばにいたい。が、それが叶わない事にまた胸が痛んだ気がした。

     

***


「……にしてもお兄様遅くないかしら?殿下を追いかけてから、もうかなり時間が経つわ」


どこかで女性を口説いてでもいるのだろうか。無い話ではない。秘書となった初日「大手を振って王宮で働く女性口説ける」と言っていたのは何を隠そう本人だ。


「それとも殿下と難しい話でもしているのかしら?」


嫌味を楽しそうに言うオーランドとそれにビクつくレオナルドは想像できても、二人が難しい話をしているのは想像できない。


(殿下はそもそもだし、お兄様もやる気が無いものね)


寧ろ二人がリリアーナを囲んで楽しそうに紅茶を飲んでいる想像ならできてしまった。ああ、ダメだ。気がつくと夢の中のリリアーナとオーランドの関係に引っ張られてしまう。


(そんな事はないわ!お兄様はリリアーナ様だけは嫌っていたもの!きっと殿下にまた要らない嫌味を言って懲らしめてるだけよ!)


アリーヤは必死にそう言い聞かせた。しかし、その慰めも虚しく、胸に得体の知れない不安が襲い、ガタンと席を立つ。


「お嬢様!?」


慌てて叫ぶミリーの声が聞こえるが、アリーヤは何も無い事を確かめたくて執務室を急いで出ていった。             

 

 

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