34 オーランドサイド
★オーランドサイド
オーランドはレオナルド片眉をあげたのを見逃さなかった。本当にレオナルドは「王国の未来」はどうでも良いらしい。まぁ、今日はそんな話をしに来た訳じゃない。
レオナルドの指輪を観察しに来たのだ。レオナルドが自分を苦手としているのは分かっていた。どうやったら二人きりになれるか考えた末、理由を作ったまで。
「ええ、実は……」
いかにも続きを話す素振りを見せたところで「おや?」とオーランドは初めて気づいたかのように、指輪の一つを見て目を大きくする。
「殿下のその緑の指輪……先日の影武者殿の隣にいた『艶やかな女性』がつけていたネックレスと同じ石ではありませんか!この石は、常識に囚われず、見る者の目を奪う強烈な輝きを放ち、社交界で噂の的となるような危うい色香を纏っておりますな。ふむ。俗な言い方をすれば、『男を惑わす』とでも申しましょうか。ああ、いえ、影武者殿の下品な恋人にはこれ以上に無いほど相応しく素晴らしい品でしたが……」
オーランドは「常識外れで目障りで男好き」だとリリアーナの性格と重ねて褒めるように嫌味を言う。
「オーランド!リリアーナを下品などと!これはリリアーナが俺に贈ってくれた物だ!リリアーナは器量も気立ても良い可愛らしい女だ!お前の妹とは大違いでな!」
「ええ。全く大違いです。アリーヤは傍から見れば『王族でも手に入れるのが難しい希少な宝石』のようにお高く見えますが、存外可愛いところもあるのでね。しかし、それを愛でられるのは真実『懐の豊かな男』のみ。ですが、殿下。私は『かの女性の名』など挙げておりません。なのに殿下よりその名が挙がるとは……やはり、殿下も影武者殿の恋人を下品だと思っていらしたのですね。」
アリーヤの良さが少しも引き出せ無いのは己の度量故だと言うのに、本当にヤツには阿婆擦れが似合っているなとオーランドは思う。
「なっ!!う、うるさい!もう、どうでも良い!さっさと出ていけ!」
「ああ!なんとお詫びしたら良いのか。本意ではないにしろ、私は殿下のご機嫌を損ねてしまったようです。今日のところは御前、失礼いたします」
オーランドは悪びれもなく大袈裟に礼を取り、ドアノブに手をかけたところで足を止め、静かにレオナルドの方へ顔を向け
「そうでした。本来の話ですが……私の言う『王国の未来と王家の尊厳』とは貴殿の事です。レオナルド・ルミニス王太子殿下」
オーランドはいっそ見とれてしまうような笑顔でそう言い放ち、レオナルドの執務室を出てドアを閉める。途端何かが割れる音が部屋の中から聞こえた。
(壺か、ティーカップか、一体何を割ったのやら……)
レオナルドの執務室は成金の部屋のようで煌びやかで目に痛かったが、部屋にあるものは皆高価なものばかりだった。それを簡単に割るなど。それで今日を過ごせる国民がどんなにいるだろうか。やはり、王国の未来は暗いな、オーランドは執務室の扉を背にしてため息を着くと廊下を歩いていく。




