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★アリーヤサイド
「殿下、それで一体どんなご用向きでしょうか?」
ちらりとレオナルドが脇に抱えた書類を見ては問う。大方、オーランドに二度も仕事を突っ返されているから困っているのだろう。リリアーナと遊び呆けて期日が迫っている、もしかしたら過ぎている書類を自分に片付けさせたいのだ。
しかし、オーランドを何度も気にするレオナルドを見るに、レオナルドはオーランドが怖くて言い出せないらしい。
(受け取りたくないけど……ここで滞らせては他の方が困るわね…)
アリーヤは嘆息し、レオナルドの抱える書類に静かに手を伸ばそうとした所で
「おや。もしや、優秀な殿下の仕事を愚鈍なお前が手伝うというのか?まぁ。殿下は『いつもお忙しい』からな。野良猫の手でも借りたいと言うやつだな」
(……今日は一日野良猫設定なのかしら?)
アリーヤがどこか呆れていると、オーランドが口を開いた事にレオナルドの肩がびくりとなる。しかしオーランドは意外にも
「承知致しました。『殿下の婚約者』のアリーヤは勿論、未熟者ではありますが、私も微力ながらお手伝いさせていただきましょう」
あっさりと頷く。その言葉にアリーヤは勿論、レオナルドも一瞬目を丸くし、「本当か!?」と口を開きかけると
「しかし、その前に!」
オーランドの言葉に遮られ、レオナルドはまたびくりと体を跳ねらせる。オーランドが何を言い出すか怖いのだろう。
「どの書類を何枚殿下からお預かりしたかを一緒に確認し、サインを頂きたいのです」
「なぜ、俺がそんな事を!」
「私達の方で提出する際、資料が一枚足りず『書類が全て揃っていないではないか!全てやれと言っただろう!』だの、頼まれた物を終わらせていなければ『これもやれと言ったのにやっていないではないか!』と私達の責任だのに、殿下に叱責が向かう可能性もありますゆえ。」
誰が遊び呆けているとは言え「王太子」のレオナルドにそんな事を直接言えるのか。と言うより、オーランドのセリフがレオナルドの真似だ。つまり、確認と言いつつ、後からレオナルドが言いがかりをつけて、さらに仕事を押し付けない為の保険だろう。
レオナルドは後からアリーヤに押し付ける事も考えていたのだろう。予めその計画を対策されショックを受けているのが分かる。それでも嫌々でもオーランドと一緒に書類を確認しているあたり、どれだけ執務を溜めたのか……アリーヤは冷めた目で2人を見つめていた。




