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1の最後から書いています。


★アリーヤサイド


「ふむ。落ち込む女性を慰めるのは、社交界一美丈夫な私の義務だと思うのだが……あまりにみすぼらしと慰める気持ちも萎えてしまうぞアリーヤ。」

「――お兄様…」


薄い金色の柔らかな髪をゆるりと肩の辺りで一つに纏め、新緑と海とが混ざったようなパライバトルマリンの瞳に、スッと通った鼻筋に甘やかな声を持つ薄い唇。長い足を組んで我が物顔でいつの間にやら執務室のソファーに座る彼の名は、オーランド・リュクソン。リュクソン公爵家の嫡男でアリーヤの2つ上の兄だ。


社交界一美丈夫なのは認めよう。レオナルドも美青年だったが、オーランドは彼が凡庸に思えるほど美しく気品もあり、むしろオーランドが王太子と言われた方が納得する人は多いだろう。


しかし、顔だけだ。ナルシストで女好きでアリーヤに嫌味を言わないと死んでしまう病気にでもかかっているのかと思うほどに一言が多い。


どうやらそんなオーランドが呪文唱え魔法を使って音を消してくれたらしい。


この世界には魔法がある。貴族、平民関係なく生活魔法――簡単な風や火を起こしたり、水を出したり物を冷やしたりなど――は誰もが使える。


また魔力の多さや熟練度によって使える魔法は多くなり、攻撃魔法や回復魔法、無属性なども使えるようになる。貴族と平民の違いはこの魔力の差だろう。


平民にも魔力の多い者もいるが、魔力が多い人間は貴族の方がその出現率が高い。その辺りは建国物語にも出てくる初代ルミニス国王と精霊の関係が関わっていると言う人もいるが、実際の所は不明だ。


因みに。事実は兎も角、そんな訳でこの国では他国で言う神が「精霊」とされ、例えば「神に誓って」と言う表現は「精霊に誓って」のようにとなる。


話は戻るが、生活魔法以外の魔法は初級、中級、上級と別れており、その中でさらにレベルが5段階に別れる。大体の貴族は良くて中級の1か2。殆どが初級だ。中級後半を扱えればかなりのもので、上級魔法となると、国に仕えるその名の通り「上級魔術師」と呼ばれる魔力が人並み外れた人物のみだ。


しかし、魔法の詠唱は難易度に比例して長くなる。特に上級魔法となると、一説では中級魔法が児戯に感じるほど難易度に差があるらしく、威力はあるがその分詠唱がとんでもなく長い。その為実践には不向きなので、魔術師たちは専ら中級魔法の詠唱を略して使っているらしい。   


詠唱の簡略化。これができるのはセンスは勿論、魔力の多さと熟練度が必要だ。さらに上の無詠唱という方法もあるが、失敗すれば魔力だけ大きく減ったり、生活魔法以下の使い物にならない魔法になったり、逆に周囲を巻き込む暴発もある。そんな訳で魔術師達でさえ無詠唱は生活魔法から初級の1、2段目くらいまででだ。

 

そして初級の3に当たる――

 

「消音魔法ですか?ありがとうございます。」

「全くお粗末だなアリーヤ。お前も使えるだろうに…なぜ使わん。そんな考えも出来ない程、仕事の疲労で脳が鈍ってしまったか?それともずっとあの耳障りな声を聞いていたかったのか?あの声を好むのは理解不能な趣味だが、それなら済まない事をした。今からでも魔法を解除しよう」


本当に口を開く度にこの兄は自分を貶さないと気が済まないのだろうか…そう思いつつも解除されるのは困る。


まぁ、解除されれば自分が魔法をかければ良いだけだが、それでもオーランドを含め、この手の無属性の魔法は大抵の貴族は1回の魔法で2時間程度だ。


普段ならそれで十分使えるのだが、まるで2人は自分にその笑い声を聞かせるかのように一日中、外に居座っている為、2時間毎に長い詠唱をすると思うと、面倒だ。


それでも。確かにそんな単純な考えすら思いつかなかった事にアリーヤはまたため息が漏れる。疲労のせいで頭が回っていないのだろう。


「……それよりお兄様、此処に来たという事は、私に何か用事があったのではなくて?」

「ああ、そうとも。実は昨日恋人を怒らせてしまってね。存外気が強いご婦人故に公爵家に乗り込んでくるかも知れないと思って避難しに来たのだよ。」

「避難ってまさか、王宮の執務室にですか?」

「当たり前だろう。その為にここに居る。」


オーランドは外見だけは良いからか恋人が「多い」。嫡男と言う事は理解しているのか、手を出しているのは未亡人や娼婦だ。後腐れない女性と言う事だけは百万歩譲って褒めても良いが、何故怒らせたかは兎も角、自業自得だろう。妹の仕事場を避難所に使わないで欲しい。そうでなくてもレオナルドとリリアーナの事で頭が痛いのに更に頭が痛くなる。


「何をなさったのか存じませんが、大人しく殴られてくださいませ」

「なんて事だ。私のアリーヤはいつからそんな非情な女性になったのだ?あの阿婆擦れ女なら『私が恋人ならオーランド様にそんな事しないのに!』位は言ってくれるぞ?」

「あ、あば!?」


オーランドが一瞬でリリアーナと分かる口調を真似て話す。女性に対しては誰にでも甘すぎる程に甘いオーランドにしては珍しい。


「女性と見れば見境のないお兄様が、女性をそんな風に言うなんて珍しいですね。」

「人の男を獲る女など阿婆擦れで十分だろう?殿下も可愛いアリーヤに仕事を押し付けてあんな下心ミエミエの下らない女と…これだから童貞は…」

「!!!」


アリーヤは流石のオーランドの言葉に顔が真っ赤になる。妹とは言え上級貴族の令嬢なのだ。少しは気を遣って欲しい。アリーヤは恥ずかしい言葉に恨めしそうにオーランドを見ると、オーランドは気を良くしたのかふわりと微笑み


「ふむ。その顔はなかなかに私好みだな」


と優しくアリーヤの頭を撫でる。アリーヤは時々見せるオーランドのこの優しい笑顔が苦手だ。実兄なのに何故か胸が高鳴り緊張してしまうのだ。


7歳の時にレオナルドと婚約してから異性とはあまりに関わりがなかった。そんな異性に免疫のない自分に顔だけは社交界、いや世界一の美丈夫が微笑むのだから仕方ないのかもしれないが、どうしても慣れず、赤くなった顔を見せないように俯く。


オーランドはそんなアリーヤを見て更に優しく笑みを深め頭を撫でる。


「い、いい加減にしてくださいませ!」


アリーヤは恥ずかしさからついつい淑女として有るまじき声を上げてしまう。しかしオーランドは悪びれもせず「どんな時でも淑女の仮面を被ってこその貴族だと思うがね」などと宣うから腹立たしい。


「さて。照れて怒るアリーヤもなかなかに見ものだが、そう怒っていては顔にシワが増えると言うもの。唯一の長所の美貌が損なわれては困る。私が茶を淹れてやるから少し休むと良い。」

 

誰がそうさせているのかと内心反論するが、オーランドがいてはどうせ仕事にならないとアリーヤもソファーへと座る。


(決してお兄様の淹れる紅茶が、一番美味しいから釣られたとかじゃないわ)


アリーヤはそう自分に言い聞かせながら、紅茶を口に含み味わっていれば、いつの間にか心地よい眠気に誘われていった。




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