28 オーランドサイド
★オーランドサイド
「そんなに!?」
アレンの声が聞こえたが、俺には「そんなに」じゃない。俺にとってはアリーヤを護る事が全てだ。別にアリーヤに気持ちを返して欲しいとは思わない。アリーヤにとって自分は一生「鬱陶しい実兄」でもいい。ただ「俺」が自分勝手に愛する女性を護りたいだけだ。
「アリーヤが悪夢を見た時の共通点は阿婆擦れだ。あれと直接対面した時アリーヤは悪夢を見ている」
「なるほど。君はリリアーナ嬢のしている緑の宝石が原因だと考えているのか」
「ああ、そうだ。伯爵の意図も阿婆擦れもアリーヤの悪夢も何も分からない。ただ関係はしていなくとも、少なくともヒントはあるんだ……!」
オーランドは、両手で顔を覆い隠して俯いて座り、聞いているこちらまで切なくなるような悲痛な声で話す。一体どんな顔をしているのだろう。アレンはそう思うが想像する気も起きない。それほどにオーランドは切々としている。
「僕も個人的に伯爵家を調べたくなったから手伝うよ」
「……個人的に?」
「もう少ししたら教えるよ」
* * *
オーランドはその後もアレンとあれこれ議論をしていた。気付いた時には日が昇り始めていた。
「……なぁ、一つ頼みがあるんだが」
「いきなり殊勝になってどうしたの?逆に怖いんだけど」
「何も無い。ただ、適当な茶葉を譲ってくれないか?」
「茶葉を??」
不思議に思いつつもアレンは調理場へ行き、直ぐに一つの茶葉の缶を差し出す。なかなかに良い茶葉だ。多分これは特別な時に使うものだろう。「いいのか?」と聞けば「公爵令息に渡す適当な茶葉」はこれしか無かったとアレンは肩を竦め、その後、公爵令息に恥じない礼を期待された。
(要はもっと高い紅茶を用意しろと言う事か。人畜無害な顔をして、相変わらず抜け目がないな)
オーランドは少しだけ口角を上げ、缶の蓋を明け静かに手をかざす。すると、アレンが何をしているのかと聞いてきた。
「茶葉が持つ『癒やす力』や『リフレッシュさせる力』を、俺の魔力で引き出し増幅させ、アリーヤがそのお茶を摂取すると、体内で作用し、本来持っている回復力を後押しさせるようにしている」
「それと同時に、風味が完全に引き出されていない茶葉には『熟成』を逆に劣化している茶葉には最高の状態に魔力で呼び戻す、簡単に言えば『風味の最適化』をしている」
と淡々と説明すれば
「茶葉一枚一枚に!?」
「そうでなければ意味が無いだろう?」
缶の中にどれだけの茶葉が入っていると思っている。魔法ではなくただの魔力操作だ。たったの一枚なら皆出来るだろう。
しかしそれを同時に丁寧かつ正確に何千、何万とある小さな茶葉一枚一枚に魔力を流し込むなど、魔力操作も繊細だが、単純な処理能力も人間離れしているとアレンが思ったのは秘密だ。
「これで少しはアリーヤが元気になると良いのだが……」
オーランドと言えば特に疲れた風もなくただ、そう一言言うと缶の蓋をそっと閉めた。




