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★アリーヤサイド
朝食を終え、王宮へ向かう準備をして馬車に乗り込もうとしたその時、門から馬車が入ってきた。案の定降りてきたのは朝帰りのオーランドだった。
「やぁ、眩しい朝だね、アリーヤ。今日も王宮に行くのかね?」
オーランドはキラキラと朝日を受け輝く金に、昨日自分が倒れる前と同じ服。しかしジャボ(フリルのネクタイ)はしておらず、ブラウスのボタンを2、3開けたまま腹立たしい程の爽やかな笑顔向けてくる。
(昨夜は随分楽しまれたのですね…)
いつもならオーランドの見慣れた服装なのになんだか今日は少しイライラしてしまう。悪夢のせいで色々神経質になっているのかも知れない。
「そうですが、何か?」
「『そうですが、何か?』ではなかろう!私は眉目秀麗で聡明叡智(多くの知識を持ち、物事を深く理解する能力があること)なお前の秘書だぞ?その私を忘れたとは言わせない!ああ、でも、そんな寿命を迎えた野良猫よりも弱々しい今のアリーヤなら忘れても仕方ないかもしれぬな。うむ。今回だけは豁達大度(心が広くて度量が大きく、ささいなことにこだわらないさま)な私が許そう!さて、私は直ぐに着替えてくるから茶でも飲んで待っていろ。ミリー、美容に効く茶葉が手に入った。分けてやるからくたびれたアリーヤに飲ませるが良い。」
オーランドは1人勝手に朝から楽しそうに長々と話しては、茶葉を渡すためミリーを連れて屋敷の中へと入っていく。ミリーまで連れていかれては仕方ない。オーランドの準備を待つ為にアリーヤも屋敷の中へと入っていった。
* * *
「いかがですか?お嬢さま」
アリーヤは、オーランドから分けてもらった紅茶を静かに飲むと、ささくれだった心が落ち着いていく。香り高くフルーティーでほのかに甘い紅茶はそれだけで気持ちが楽になる。そのうえ美容に効くとなれば正直何杯でも飲みたくなる。
「とても美味しい紅茶よ。凄く気に入ったわ。これで美容に効くのでしょう?さすがはお兄様ね。社交界一と自称するだけあって、美容の良い物はお詳しいのね」
アリーヤは嬉しそうに何度もカップに口をつける。
「だろう?美というのは外見だけでなく、内面を整えてこそなのだよ」
ふと満足気な声が聞こえる。
「お兄様、ノックはしてくださいませ」
「今日はしたぞ?私は紳士ゆえアリーヤのように大きな音は立てないがね」
音を立てずに叩いたのなら、それはノックとは言わないのではないだろうか。アリーヤがいつものように冷めた目で見ていると、並外れた美しい顔がずいっと自分の前に現れ、穴が開きそうなほど不躾に自分の顔を見つめてくる。あまりの近すぎる距離にアリーヤは顔が熱くなる。
「ふむ。寿命を迎えた野良猫から、寿命が近い野良猫くらいにはなったな。まだまだ見れたものではないがね。茶葉は気に入ったのならやろう。私のように、心に余裕を持ち、心根を美しくしてこそ肌ツヤは良くなり美貌は輝く!美貌はお前の唯一の長所なのだ。好きなだけ飲めばいい。そうすれば婚約が破棄になっても1人くらいは物好きな貰い手が現れるやもしれんぞ?」
アリーヤはオーランドの嫌味でナルシストな台詞にまたかと思うが、そんないつもと変わらないオーランドに内心とても安堵したのは秘密だ。




