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説明回です
★アリーヤサイド
「……はぁ…」
柔らかい銀色の髪に、アメジストを嵌め込んだ少しきつい目つきの蠱惑的な体つきの美少女は、行儀が悪いと分かりつつも部屋に誰も居ない事をいい事に、何度目かの大きなため息をついて机に突っ伏す。
彼女の名はアリーヤ・リュクソン。ルミニス王国の筆頭公爵家の令嬢で、薄い茶色味がかった金のウェーブの髪に、同じ色の瞳と甘いマスクを持つ王子然とした美青年、王太子レオナルド・ルミニスの婚約者だ。まだ17歳。本来なら王太子の「婚約者」がする仕事量ではない山のような書類を前に、アリーヤは毎日を過ごしていた。
ここは王宮に与えられたアリーヤの執務室。仕事をするはずのレオナルドは、どこか幼げなふわふわとしたピンクプロンドの髪に、大きな胸を携えハニーブラウンの大きな瞳で愛くるしい庇護欲をそそる小柄な美少女、ドーソン伯爵家の令嬢、リリアーナ・ドーソンとの逢瀬に夢中で、執務など一切顧みない。
リリアーナの父であるハロルド・ドーソン伯爵は、穏やかで高潔な人格者として知られており、領民からも慕われている。彼は長らく娘が恵まれず、深く心を痛めていた。そんなある時、倒れそうだった孤児のリリアーナを見つけ、哀れに思い養子として引き取ったのだという。
その慈悲深さと、実直に職務を全うする姿は、貴族社会の手本として広く称賛されていた。だからこそ、リリアーナがあれほど無作法に振る舞うのが、アリーヤには理解できなかった。伯爵の評判が傷つくのではないかと内心では案じていた。
「まぁ、別に構わないですが……」
アリーヤが7歳の時、レオナルドは彼女に一目惚れをし、リュクソン家に婚約を申し入れたが、辞退された。しかしレオナルドはアリーヤを諦めきれず再度婚約を申し込むも、またしても断れた。何度もそんなやり取りが続き、痺れを切らしたレオナルドは、父である国王に勅命を出させ無理やり婚約を結ばせた。
顔とは裏腹に真面目で純粋なアリーヤは、嫌々でも婚約者に決まったからには、レオナルドを支えるため、マナーも歴史も語学もダンスも社交スキルも考えられる全てに血のにじむ努力をした。
しかし、アリーヤが努力すればする程、レオナルドの心はアリーヤから離れ、今ではアリーヤ自身が「愛し合う二人の間に割って入った悪役令嬢」のような態度をとられている。昔は腹立たしさも覚えたが、今では諦めの境地だった。
再び、はしたなく大きな声で笑うリリアーナとレオナルドの声が聞こえる。アリーヤが大きくため息をついていると、その耳障りな笑い声がいつの間にか聞こえなくなっていた。
それは二人が笑うのを止めたのではなく――
「ふむ。落ち込む女性を慰めるのは、社交界一美丈夫な私の義務だと思うのだが……あまりにみすぼらしと慰める気持ちも萎えてしまうぞアリーヤ。」
「――お兄様…」
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