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17 オーランドサイド

★オーランドサイド



王宮に再度戻ってきたものの、リリアーナからいつも訪ねてきたから、彼女が今どこにいるか見当もつかない。当然、会いたくもない相手を探し回る気も起きない。しかし、一刻も早くあの歪みの元に近づく必要があった。

 

(いや、アリーヤの為にもこんな事で嫌がってはいられない。)

 

結論、人に尋ねるのが一番だと判断し、オーランドが廊下で適当な人物を探そうとしていると


「これはこれは!リュクソン公子様じゃないですか!」 


前よりグレージュの髪に深い灰色の瞳を持つ、優しそうな中肉中背の柔和な紳士が、書類を抱えてやってくる。


「ドーソン伯爵ではないか。相変わらず貴殿は忙しそうだな」

「仕方の無い事です。最近は特に増えましてね…ですがリュクソン公女様の方がお忙しいでしょう?」

「あれは人が好すぎる。請け負わなくて良いものまでしていたからな。それらの書類は全て持ってきた本人がやるように私が返したのだが、もしや貴殿忙しさの一因には私が関係しているかもな」


オーランドがそう笑えばドーソン伯爵は少しだけ引き攣った顔をしつつも


「左様でしたか。私の知らない所でそんな事があったのなら、リュクソン公女様にはなんとお詫びを申し上げれば…なんでも先程過労で倒れたと耳にしました」  

「……耳に?」 

  

アリーヤが倒れた事は、それをきっかけにレオナルドやリリアーナが何か仕掛けてこない様にと、ミリーとオーランドだけの秘密にした。


そしてオーランドはアリーヤを運んで歩く時、周囲の人間に気付かれないように「無詠唱」でアリーヤと自分の周囲に水魔法で乱反射させる為の極めて細かい水滴の霧を作り、自分達を隠した。


また念の為、音を吸収・拡散する水の膜も張り、歩く音も聞こえなくした。 


霧と水。どちらも簡単な魔法ではあるが、たとえ無詠唱だろうと、化け物と呼ばれる自身の魔力と技術で完璧に隠蔽できたと確信していた。実際すれ違う人間は誰一人オーランド達には気づかなかったはずだった。

 

(なら、何故――?) 


一瞬、リリアーナがアリーヤが倒れた事を伯爵に話したのかと思ったが、既にあの時執務室には居なかった。執務室には常時アリーヤが外の音を気にしなくて良いように消音魔法と、こちらの会話が聞かれないように防音魔法をかけている。(勿論アリーヤに気付かれないように無詠唱だ)部屋の外にいたリリアーナが気付くはずがない。


「公子様?どうかなさいましたか?」


オーランドはハッとする。考えるのは今じゃない。   

 

「いや何。伯爵のクラバット(スカーフのようなネクタイ)にある緑の宝石のブローチが美しくてね。公子の私でも見た事のない宝石で、なんとも神秘的で深く見入ってしまった。そう言えばご息女もやはり緑の見た事のない宝石を付けていたな…」


オーランドはいかにも興味があると言った体でしげしげと宝石を見つめる。なんとも気持ち悪い宝石だ。

 

「公子様のお眼鏡に叶うとは嬉しゅうございます。こちらは隣国で最近発見されたものでして……この神秘的な緑が売りなのです。有難いことに王国では我が伯爵家のみ買い付けを許されておりまして」

「貴殿からしか買えないのか!それはいいな!社交界一美丈夫な私にこそ相応しい逸品だ!俄然欲しくなったぞ!私にもひとつ売ってくれないだろうか?」 

「公子様がお付けになればより一層輝きも増し良い宣伝にもなります。良ければ贈らせて頂きたく」


伯爵は少しだけ茶目っ気を出しては、優しい笑顔で笑う。本当にこうして見ると人の良さそうな何処にでもいる貴族だ。


この宝石の放つ気持ち悪い「淀み」に気づかず、伯爵は宝石を売っているのだろうか。なんにせよこんな物に金を出さなくて済むなら有難い。


「それは願ってもない申し出だ!その際には社交界一美丈夫な私が約束通り大いに宣伝塔となろう!」


伯爵はオーランドのナルシストな発言に、どこか苦笑しながらその場を去ろうとするので、ついでと見えるように引き止める。 


「ああ、そう言えば!先程ご息女にお茶を誘われたのだが、その時は手が離せず泣く泣く後ほどとお断りしてしまって……直ぐにお受け出来なかった悲しみのせいで待ち合わせするのを忘れてしまって……貴殿はご息女が何処におられるかご存知か?」

「え、ええ。この時間なら多分中庭に。ですが……その……」


ドーソン伯爵は口篭る。なるほど。レオナルドと一緒というわけか。それは確かに婚約者の身内には言いにくいだろう。正直レオナルドの指輪も確認したいので二人一緒にいた方が楽だが、隣にレオナルドがいるといちいち自分に突っかかって話が進まなそうだ。


(しょうがない、呼び出すか……)


「気にするな。教えてくれて感謝する。ああ、それと。アリーヤが過労で倒れたと言うのは嘘だ。そのせいで私も同様に虚弱体質などと思われたら、レディに気遣われ熱い夜を過ごせなくなるかも知れん。聞かれた際には貴殿も訂正しておいてくれ」


(まぁ、知っているのは伯爵だけだろうが…)


オーランドは心の中でそう付け加えてその場を去った。 

   


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