16 オーランドサイド
★オーランドサイド
アリーヤが倒れた。やはり王宮に連れていくべきじゃなかった。自分がもっと強ければ……。自分がもっときちんとした人間だったなら、あるいは執務室で「自分を家で看病しろ」と言った時、彼女は自分の言うことを聞いてくれただろうか。
今となってはもう遅い。アリーヤを守ると決めたあの日から「適当で女好きでナルシストで嫌味な道化」になろうと決めたのは自分だ。
「俺がついていながらすまない……」
オーランドは小さく呟いては、そっとアリーヤの涙を人差し指で優しく拭う。アリーヤが寝ている時、何らか魔力の「歪み」を感じた。しかしそれはとても分かりにくい。
オーランドは後のことをミリーに頼むと、アリーヤの部屋を後にした。
「王宮へ行ってくれ」
オーランドは馭者に一言頼むと馬車の中で深呼吸する。アリーヤが倒れた事で、感情が抑えられず自分の魔力がざわついているのが分かる。自分が仮面を被ってきたのはアリーヤを守る為だ。今こそ冷静になるべきだ。
「あの阿婆擦れめ。」
好意を抱く男性に擦り寄りあざとく媚びるのは、女性なら普通の事だ。オーランドの相手も皆そうである。そしてリリアーナ・ドーソン伯爵令嬢はその最たる女だ。
オーランドは女好きを演じているものの、基本的には女性には優しくあれと言う考えの持ち主だ。だが、どうしてもリリアーナだけは受け入れられない。媚びの売り方がオーランドの相手と違い低俗なのは勿論、一番の理由はアリーヤを追い詰めて楽しんでいるからだ。
決してリリアーナはレオナルドが好きな訳でない。ただ成り上がりたいだけの強欲な阿婆擦れだ。その上で自分の方が上なのだと皆に知らしめたい承認欲求の塊。その下品さが滲み出て居るのだろう。いくら外見が良くてもオーランドには醜い人間にしか見えない。
ドーソン伯爵が孤児を娘にしたと聞いた時は、偽善だと思うと同時に流石だなとも思ったものだ。王宮でも指折りの人格者。彼の下で育てられるなら立派な淑女になるだろうと漠然と思っていた。
しかし実際はどうだ。ずっと娘が欲しかったから甘やかされて育ったのかもしれないが、簡単なマナーのひとつも出来やしない。
いや、ドアをノックするなんてマナーを学ばない平民ですら出来る事だ。名前を呼ぶ事に関しても貴賤問わず誰であろうと許可を取るのが常識だ。
それが出来ない時点で人として終わっている。そんな女をあの人格者のドーソン伯爵が放置などするだろうか。普通に考えれば礼儀を覚えるまで領地に引っ込めるだろう。
リリアーナには伯爵も手を焼いており頭を抱えているらしいが
「本当にそうなのか?」
どこかドーソン伯爵の言動は矛盾して見える。親バカと言ってしまえばそれまでなのだが、それでも違和感を拭えない。
「なんにせよ、まずはあのネックレスだ」
今日、リリアーナが執務室に来た時に胸元に輝いていた緑の宝石のネックレスは、何か違和感を感じた。会うのは気が進まないが、そうは言ってられない。




