15
★アリーヤサイド
「見て、アリーヤさん!私オーランド様からこんな大きな指輪を貰ったの!」
いきなり執務室に現れたリリアーナが、大きな新緑と海とが混ざったようなパライバトルマリンの指輪を見せてきた。ふわふわとした幼いピンクブロンドの髪とハニーブラウンの瞳を持つ可愛らしいリリアーナにそれはとても良く似合……
(いいえ。全然似合わないわ…)
毎日見せびらかしに来なくて良いのに…そんな事より今は彼女を注意しなくては。
「その指輪は貴女には似合わない!『返して』──!!」
声が出ない。アリーヤは何度も声を出そうとするが音にすらならない。リリアーナは、そんなアリーヤを見てクスクスと指輪を見せびらかしては、いやらしげに嗤っている。
(殿下……お兄様まで……)
いつの間にかリリアーナの両隣には、二人がおとぎ話の騎士のように立っている。レオナルドはいつもと同じように自分を嘲笑するが、オーランドはアリーヤに見向きもせず、指輪とおなじパライバトルマリンの瞳で甘やかにリリアーナを見つめる。
(どうして、どうして…お兄様……!!)
いつしか3人は消え、アリーヤは上も下も右も左も自分がどこにいるのか分からない、いつもより暗く粘つくような世界に立っていた。その中でレオナルドの嗤い声と、リリアーナと甘く名を呼び合うオーランドの声がアリーヤの頭の中に木霊する。同時に灰緑色の靄が視界の端を這い回る。そしてやはりどこかで見たような光が一瞬きらめく。 耳の奥では不協和音のような囁きが響く。
「やめて!やめて!呼ばないで!!」
アリーヤは耳を塞ぎながら喉が痛くなるまで泣き叫ぶ。しかし声が音になることは無い。それどころか、叫ぶたびに喉が引き裂かれるような錯覚に陥り、霞は先程よりもを更に纏わりついているような気さえする。気のせいか色も少しだけ……いや明らかに鮮やかになって気色悪い。
「呼ばないで、呼ばないで!お願い呼ばないで!お兄様!!」
喉が引き裂かれるような痛みを覚えても、纏わりつく霞がどんなに気色悪くても、オーランドに「その名を呼ぶな」と叫ぶ
ふと足元が消えたのが分かった。このままでは落ちる──!!得体の知れない薄気味悪い「最近」どこかで見た色の渦が、深淵の底から自分を飲み込もうと迫ってきていた。
何かを掴もうとして手を伸ばした瞬間、アリーヤはハッと目が覚める。
「アリーヤ!?大丈夫か!?」
そこには自分を心配そうに見つめる2つのパライバトルマリンがあった。どうやらいつの間にか、自分はベッドに寝かされていたらしい。
「お…兄様……」
良かった。まだ彼はここにいる。アリーヤは安堵からぼろぼろと涙をこぼす。ふと「どんな時でも淑女の仮面を被ってこその貴族」とオーランドに言われたのを思い出す。分かっている。分かっているが涙が止まらない。
アリーヤは無意識にオーランドへと震えるように手を伸ばす。オーランドは躊躇いなくその手を掴む。
「大丈夫だ。アリーヤ、俺はここにいる。」
(――俺?お兄様は「私」じゃなかった?)
ああ、別にどうでも良い。オーランドが今ここにいればどうでも良い。アリーヤはまぶたを閉じた。
夢のシーンはまた少し変化してます




