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14 ミリーサイド

★ミリーサイド



「お嬢様…!」


アリーヤが椅子から転げ落ち、そのまま気を失ったのを見て、ミリーは血の気が引くのを感じた。オーランドが素早く駆け寄り、まるで壊れ物を抱えるように優しくアリーヤを抱き上げた。


オーランドが女好きなのは周知の事実で、妹であれ優しく抱き抱える事は何も不思議では無い。それなのにミリーにとって、アリーヤを「壊れ物を抱えるように優しく抱く」オーランドの空気はいつもとまるで別人に見え、内心驚きそしてそれゆえに冷静になった 


「誰かに見られてはだめだ。ミリーは馬車を裏口につけるように先に馭者に伝えに行ってくれ」


オーランドの真剣な声に、ミリーは迷わず頷き、リュクソン家の馭者に王宮の裏口に馬車を回すよう伝えに部屋を出る。アリーヤもその後すぐにオーランドに横抱きにされ、屋敷に運ばれた。熱は無いものの、魘されるように苦しそうな表情で眠っている。

 

「倒れた事がばれたら、あの男と阿婆擦れが何か仕掛けてくるかも分からん。ミリー、この事は絶対に口外するな。私は父上と母上にこの事を話してくる。」


先程、オーランドはそれだけ言うとこの部屋を出ていった。ノックもなしに入ってきた今朝のオーランドとは全く違う冷静かつ的確な指示。ミリーは彼に未来の公爵を垣間見た気がした。


ミリーは冷たいタオルを額に乗せ、そっとその銀色の髪を撫でた。

  

(お嬢様……どうか、早く元気になってください…)


ルミニス王国の建国物語。その最後の言葉が、ミリーの心の中に自然と浮かび上がった。幼い頃からアリーヤが眠る前に必ず紡いできたおまじない。


ミリーがアリーヤに言うようになったのは、子爵家では当然のように母が必ず言ってくれたからだ。それは公爵家に奉公に行く16歳の年までずっと続いた。勿論、姉二人にもミリーの母は同じようにしていた。きっと父にもしていたのだろう。


喧嘩をしても必ず母はそれだけは言いに来た。「もう子供では無いのに」と思わない日が無かった訳ではない。それでも母のその言葉に安らぎを覚えた。 


だからミリーはアリーヤにも母と同じ事を自然としていた。心から願うたびに、不思議と心が安らぐ、温かい響きを持つ言葉。


ミリーは、アリーヤがぐっすりと眠れるように、そして、あんな苦しそうな顔を二度と見ることがないようにと、ひたすらに願いを込めて、優しく、何度も何度も繰り返した。


「お嬢様に『分け隔てない幸福が永遠に続きますように』」


それは、アリーヤの健やかな眠りを願う、ミリーの心からの祈りだった。   

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