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★アリーヤサイド
「呆れるほど頑固なアリーヤよ。お前が実は心優しい女性だと私は知っている。だからこそ今一度言おう。私の調子はすこぶる悪い!お前の顔色も見てられない程にだ!だから私を休ませ、お前は私の看病をするが良い!」
これで何度目だろう。今日のオーランドは馬車に乗った時からずっとこうだ。しかし、執務室の今も、胸を張り心地よい甘いテノールの声も大きく張り、まるで今から魔王に挑まんとする勇者のように勇ましく言われては
「残念ながらお兄様、そんな元気な病人を私は見たことがありませんわ…」
「愚かなアリーヤよ。見た事が無いからと言って有り得ないと判断するのは流石に浅慮と言うものだ。まさに!今の私は!その症例の1人目なのだからな!!」
オーランドの正論に内心唸るものの、明らかに嘘の人間に指摘されるのは悔しい。しかし、適当で享楽的なオーランドはいつか必ず秘書の仕事に飽きるだろうと思っていた。予想を遥かに超える早さだが。
(……?まって?私の顔色?……まさか私を休ませる為…?)
いや違う。飽き性なだけだ。アリーヤの顔色が悪いと言ったのも、そう言えばアリーヤが「オーランドが自分を気遣っている」と思い込み、アリーヤに怒られる事なく休めるからだ。
そう思い込めば、当然自分も一緒に休むのだ。アリーヤも巻き込んで休めば、オーランドのあるのか分からない罪悪感は更に消える。オーランドは自分に甘く、その為なら頭が回るいい性格をしているのを忘れていた。
とは言えこの2日のオーランドの仕事ぶりはかなりの物だ。おかげでしなくても良い仕事が大幅に減った。
「そんなに休みたいならお兄様お一人でどうぞ。2日間とは言えお兄様の仕事ぶりは感謝してもしきれない程の貢献ぶりでしたわ」
「ああ、なんと冷たいんだアリーヤ!お前が看病しなければ治らない病気なのだよ!」
立ち上がり舞台俳優さながら動くオーランドをアリーヤはどこか冷たい目で見つめ、ミリーは抑えた声でクスクスと見ている。それが聞こえたのか、オーランドはミリーの方へ顔を向け
「ミリー!お前の主人はなんと冷たい事か!主人を甘やかしすぎたのではないか?主人が間違った方向へ進む時、それを諌めるのも侍女の務めだぞ!」
と大袈裟に嘆いてみせる。
「申し訳ありません。オーランド様。私はお嬢様を第一に考えておりますので。」
ミリーは少しも申し訳なくなさそうに、にこやかな笑顔で謝る。それはそうだ。勿論これはオーランドの冗談なのだから。
「社交界一美丈夫の言葉を聞かぬのは、母上とアリーヤとお前くらいだ。私は麗しき淑女達の奴隷だと言うのに。3人も気持ちを返してくれないなど不公平過ぎないか?」
オーランドはドサリと自分の椅子に座ると、背もたれに寄りかかり背中をずるずると下げていく。行儀は悪いのに、オーランドがするとそれすら洗練されて見えるから外見がいいとは得だ。




