10 オーランドサイド
★オーランドサイド
最近アリーヤがおかしい。
ベッドにそっとアリーヤを横たわらせ、オーランドは自分もアリーヤのベッドに腰掛け、アリーヤの頭を優しく撫でる。美しく柔らかい銀糸に今は閉じられた少しきつめのアメジスト。澄んだ声に凛とした姿勢。自分の態度に冷たい視線を投げかけるも、本来は優しく純粋で頑固で真面目でそれ故に不器用で危なっかしい。
社交界、いや、全世界探してもこの世で一番美しいのはアリーヤで、自分など足元にも及ばないとオーランドは思う。
そんな彼女の雰囲気がここ最近おかしい。正確にはアリーヤを取り巻く空気だ。昔からどこかこの国は大袈裟でなく淀んでいて気持ち悪かった。それは自分にしか感じられない微々たる物で、自分ですら時々忘れてしまう程だ。それが何かは分からない。けれど。愛しい彼女の生きる世界にそんな物があってはならない。
そう。「愛しい」のだ。
オーランドはリュクソン家の傍系の子爵家の三男だった。
しかし彼は異質だった。オーランドの魔力は4歳になる頃には、この国の上級魔術師のトップである、筆頭魔術師40人分の魔力をゆうに超え、上級魔法を誰に教わるでもなく詠唱もなく簡単に扱え、子供では知りえない知識を持っていた。当時から整いすぎた顔立ちも人間離れに拍車をかけ、子爵家はそんな彼を「化け物」だと冷遇した。
幸い暴力などの虐待をされなかったが、それも「化け物」のオーランドの報復を恐れての事だった。皆に蔑まれオーランドは孤独だった。
そんな折り、その話を聞きつけたのがオーランドの養夫妻、つまりはリュクソン公爵家だった。公爵夫妻は当時2歳の娘がいたがルミニス王国の法では、女性は家を継ぐ事は出来ない。故に冷遇されているなら嫡子にほしいと養子になった。
アリーヤは実兄だと思っているが、本来は今となってはあるかも分からない、リュクソン家の薄い血が流れてるだけの「血の繋がらない他人」だ。
公爵家でも同じような待遇になるかと思ったが、夫妻は優しかった。何より義妹を紹介された時、オーランドの体中に電撃が走った。
2歳の幼児が自分にてらいなく微笑みかけた。それだけの事に、オーランドは心が満たされた。まるで、自分の半身を見つけたかのように打ち震えた。勘違いでもなんでも良い。オーランドはその時初めて「化け物」から「人間」になれた気がした。そしてその瞬間から「義妹」は「大切な女の子」に変わった。
自分の孤独な力を受け入れ、安らぎを与えてくれる存在。実際アリーヤの近くにいるだけでざわついている魔力が落ち着く気がした。けれどそれだけじゃない。世界を敵に回そうと何を犠牲にしても護りたい愛しい女性。自分の光。
オーランドは、愛おしいそうに優しくアリーヤの髪を撫でては寝顔を愛でる。そこにはナルシストで適当で女好きで嫌味を言う彼はいない。
何が起きている分からない。けれどアリーヤに何かしらの異変が起きているのは分かる。体調不良も顔色の悪さも。王宮の執務室に居るのが更に悪い。王宮の気持ち悪さは異常だ。レオナルドとリリアーナの周りは特にだ。
訳あって今は強い魔法が使えない。弱い魔法でしかアリーヤを護る事が出来ないのがもどかしい。
「ゆっくり休んで、明日は元気な顔を見せてくれ。」
オーランドはそう言うと額にキスを落とし部屋を出ていった。




