第34話:試練の大樹①
「遅いぞホウショウ! ネモフィラ殿! ミモザ殿!!」
ブンブンと手を振るエルスリリア、その姿に俺達は何とも言えない顔になる。
「「「…………」」」
すみません、なんかここに呼んだ覚えのない人が居るんですが……。
「私は何も知りませんよ? 妹たちもです」
ルルカさんが真っ当に返してくる
「それなら違うかぁ……」
「えっと、エルスリリア、何でここに?」
「ホウショウ達を手伝いに来たんだが?」
「どこに行くのかわかってるの?」
「あぁ、【試練の大樹】だろ? あぁ、私の身を気にしてるのか。大丈夫だ、私がここを〝最初に〟踏破した時は17の時だ!」
(17歳で踏破できるの? それじゃあ結構難易度低いのでは?)
気になってルルカさんを見ると意味深に頷く。
「あーはい、エルスリリア様がこのダンジョンを最初に踏破されたのは17歳、お二人のお師匠様とご一緒に踏破されております」
「師匠とか……ならまぁ大丈夫か」
あの師匠の事だ、下手な野営や攻略の仕方は教えてないだろうし。
「でも、エルメガリオス様の許可は?」
「無論!」
エルスリリアが見せて来た手紙には、俺宛の封がされた便箋が入っている、一応中身を確認すると「すまない」と一言だけ書いてあった。
「——うん、じゃあ一緒に行こうか……」
どうやら父親としても諦めたようだ。
「やったー!」
「旦那様!?」「え、本当に!?」
「うん、大変だけど……二人共お願い……」
「チッ、折角のイチャラブ野外プレイを楽しめると思ったのに(ボソッ」
「何か作戦を立てないといけませんわね……(ボソッ」
「何それ、私も参加したいです(ボソッ」
何か三人が呟いてるけど、聞こえなかった事にしておこう……。というかルルカさんまでついてこないでよ?
「ま、まぁ。とりあえず踏破済みのエルスリリアが居るから。エルメガリオス様から貰ったこの魔力だまりのスポットに案内してもらおうか」
「そう……ですわね、前向きに考えましょう……」
「そうだね、とりあえずサクッとクリアーしちゃおうか」
「すみません、ホウショウ様……私もいいですか?」
「アナタは帰って下さい」
気落ちしてるルルカさんを帰らせた後、装備の最終確認をする。
「二人にはこの剣を渡しておくよ」
空間収納から取り出したのは、この間見つけた竜剛鋼製の武器である。ちなみに普段から魔力を吸い過ぎるので保管は、時間が停まる空間収納に入れてあるのだ。
「ありがとうございます旦那様」
「やっぱり、魔銀よりも軽いわねぇ……」
「……じーっ」
エルスリリアが、じーっとこちらを見て来る。どうやら、竜剛鋼の武器が欲しいようだ。
「でも、エルスリリアに合う武器は無いよ?」
エルスリリアが実戦で使う武器はショートソードの双剣だ、しかも肉抜きがしてあって相当に軽いのが特徴的である。それと、副武器として特殊な短弓を備えている。
「それはそうなのだが……むぅ……」
一応、対の剣はあるにはあるのだが左右で長さが違うのだ。
「まぁ、数はあるし、敵も弱そうだし試してもらうか……」
空間収納から数種類の双剣を取り出して並べる、どれも長さや太さが違うので悩み始める。
「では、こちらを使わせてもらおう」
選んだのはレイピアより少し短めで幅広の双剣だ。
「うむ、これがしっくりくるな」
両手で振りながら構えを取っているエルスリリアに声を掛ける。
「もう少し長くなくて良いのかい?」
「あぁ、不思議としっくり来る。まるで、何十年も握っていた様だ……」
「そうか、それなら大丈夫だな」
それから装備を確認して、ダンジョンの内部へ足を踏み入れる。
――パチン
(ん? 今何か……)
何か音がした様な気がするけど……三人共気付いてないみたいだし気のせいかな?
「よし、大丈夫そうだね。異常は無い?」
「あぁ、問題無い」
「問題無いよ~」
「大丈夫ですわ」
全員、特に問題無いようだ。やっぱりさっきのはただの気のせいだったのかな?
「では私に付いて来るといい!」
嬉々として地図を片手に進むエルスリリア、魔力探知をしてみるが敵が全くいない。
「あ、待って。旦那様、あれ大丈夫なの!?」
「うん、いちおう魔力探知してるから。危なかったら声掛けるよ」
「ですが、心配ですわね……」
「まぁね……自然な地形のダンジョンは、足元が特に見づらいからね」
そう言って、エルスリリアを見ると下に落ちて行った。
「ひゃああああ!?」
「「「あーあ(ですわね)」」」
どうやら2メートルくらい下に滑り落ちたようだ。
「おーい、大丈夫か?」
全身草まみれで、スカートの下《醜態》を晒しているエルスリリアに声を掛ける。ちなみに、下はタイツの様な下履きを履いている。
「あ、あぁ……大丈夫だ……」
「手は貸す?」
「ぺっぺっ……大丈夫だ、すぐ戻る」
身を起こしたエルスリリアが、ひとっ跳びで戻って来る。
「すまない、恥ずかしい所を見せた」
「まぁ、色々とな……奏さん、一応エルスリリアに回復魔法かけておいて、見えない所が怪我してる可能性があるから」
土を払うエルスリリアへ回復をかけてもらう、ものの数秒で終るが何か不満気だ。
「そういえばさ、なんで私達はさん付けで、エルスリリアさんは呼び捨てなの?」
「そうですわね、自然と呼んでらっしゃいましたが……怪しいですわね……」
「それは、私がそう呼んで欲しいと言ったからで……」
エルスリリアが申し訳なさそうに言う……。それを押しのけて俺の胸先まで近寄る。
「そういう事では、ない!」「そういう事では、ありませんわ!」
えぇ……どういう事なのさ。
「ずるい!」「ずるいですわ!!」
「えぇ……」
「私達も名前で呼んで下さい!」
「そうそう、出来れば愛情たっぷりに!」
「いや、今はそういう時じゃ……」
「そういう時なんです!」「そういう時なの!」
二人に腕をホールドされる、これじゃあ逃げれない……。
「ん? でも二人共、ネモフィラとミモザって呼ばれてるじゃん?」
エルスリリアが不思議そうに言う、確かに皆が居る前じゃ名前呼びをしてないな。
「「っ!?」」
「えっと……二人の名前は別にあって、エルメガリオス様もカトレアの事〝ネリーニア〟って呼ぶでしょ?」
俺が説明するとポンと手を叩く。
「ふむ、つまりは二人の本当の名前があって、それをさん付け呼んでいると……何で?」
エルスリリアがまた不思議そうに言う、確かに……何で俺そう呼んでるんだ?
「何故なのですか?」「何でなの?」
「…………わかんない? わかんないけど、最初からさん付けで呼んでたよう……な?」
多分クラスメイトだから気後れとか気恥ずかしさがあるんだと思う、今考えると変えるチャンスは結構あったのに……。
「では、理由がないなら今日からさん付けは禁止で」
有無を言わせない圧を感じる、否定する理由も無いし頷く。
「では、本日もよろしくお願いしますわね……旦那様」
「よろしくね、旦那様♪」
「???」
エルスリリアが意味をわかって無さそうなのが幸いであった。
◇◆◇◆
とまぁ、色々とあって階層を上りつつ皆が準備運動を終えた頃。目の前に大きな扉が現れた。
「ここが階層主の扉だよ」
階層主、所謂中ボスである。ここの階層主はオークの集団とメモに書いてある。
「相手はそこまで強くない、ただ数が多いので攻撃を貰わないようにしたいな。毎年何人かここで大怪我する者が居るから注意してほしい」
「わかったよ」
「わかりましたわ」
「俺は、危険になるまで手を出さないから頑張ってくれ。二人の実力ならば楽勝だとおもうからさ」
二人の頭を撫でる、足りないと言われたがそれは勝ってからにして欲しいと宥めるのだった。
奏・恵「「言質もらいました♪」」
作者です!
いやー遂に名前呼びになりましたね……。ちなみに12万字くらいで章切り予定なのであと七話で2章は終わりです。終わるかな?