第30話:襲撃される歓迎会と空の雄
――カーンカーンカーン!!
「ワイバーンだ!!」
その声と共に空を見る、見上げると大きな飛竜の近くに小型の飛竜が飛んでいる。
「ワイバーンって……不味くないですか!?」
空飛ぶ魔物の中でもかなりの危険度で一頭だけであれば〝撃退は〟可能だけど、あれだけの数が居たら間違い無く被害は大きいだろう。
「確かに、危険度はかなり高いな。良い機会だ、ホウショウ殿達に我が国の【グリフィン騎士】達を見てもらおうか」
「ピュィィィィィィ!!」
「「「「「ピュィィィィィィ!!」」」」」
甲高い鳴き声の後に、まるで飛行機の編隊のようにグリフォン騎士が飛んでいく。
「ギャエェェェェェ!!」
近付いて来るグリフォン騎士を追い払うかのように鳴き声を上げるワイバーン、それに相対するかのように近くを飛びながら牽制魔法を放つ。
「凄い……」
恵さんが思わず呟く、周囲からも感嘆の声が上がる理由がわかる。
暫くして追い立てられたワイバーンは住処であろう、聖王国との境にある山へ帰って行った。
「うむ、上出来だな」
エルメガリオス様が満足そうに頷く、街の歓声と共にグリフォン騎士達は大樹の方へ飛んで行った。
「さて、残り数か所回ったら、【グリフィン騎士】の方へ行こうか」
そうして街の端まで行った後は、待っていたルルカ・ルルナの馬車に乗り【グリフィン騎士】の元へ向かった。
◇◆◇◆
「着きました、皆様どうぞ。それと、足元には気をつけてください」
馬車を降りると、足首まで高さのある芝が広がっている。これは慣れないとバランスを崩しそうだ。
「凄いふかふかですわね」
「うん、足とられそう」
「柔らかいですね……馬にも良さそうです」
「ちょっと歩きなれないかも……」
降りてた奏さん、恵さん、セレフィーネ、アラテシア様の四人が芝生の感触を確かめている。
「カトレア、ここは歩き辛そうだし背負うよ」
降りる直前のカトレア言って背中を差し出す。
「ありがとう、多分ここを歩いてたら確実に躓くだろうから助かったよ」
カトレアを背負うと、最後にエルメガリオス様も降りてくる。
「心配したけど、大丈夫そうだね。もし大変になったら魔法でフォローするよ」
「ありがとうございます、でもカトレアは軽いんで大丈夫です」
そう言うと、ぽかぽかと背中を叩かれる。動かれると危ないから大人しくしててほしいけど……。
「そうかそうか、いらない心配だったようだね」
「ホウショウ様はネリーニア姫の豊満な体を堪能したいでは? ねぇ、ルルカ」
「そうですね、確かに背負うのであれば、私達でも憧れるあの胸の感触を堪能できますからね。ねぇ、ルルナ」
駄メイド二人が爆弾を投下する、確かにそれもあるけどさぁ……。
「ホウショウのえっち(ボソッ」
「——!?」
耳元でささやかないで欲しい、いきなりすぎて心臓が爆発するとこだったぞ……。
「今の二人にはグリフォン小屋よりもベッドが必要そうですね。ねぇ、ルルナ」
「いえ、いっその事野外という手もありますね。ねぇ、ルルカ」
二人に茶化されてると、向こうから軽装の騎士が一人走って来た。
「これは国王様、お客人の皆様ようこそいらっしゃいました!」
「やぁ、ルーカス。今日も見事だったよ」
「はい! ありがとうございます!」
思ったよりも若いエルフで、話を聞いてると編隊長らしい。
「それでは皆様、こちらにどうぞ! 足元は不安定ですので気を付けて!」
それからしばらく歩いて案内されたのは大きな二階建ての建物で、2階部分には大きな穴が開いている。ルーカスさんの話によるとあそこからグリフォンが出入りするらしく、タイミング良く別部隊の人達が散歩で飛び立つのが見れた。
「では次に、グリフォン舎の部分を案内しますね」
誘導されて歩いていくと滅茶苦茶デカいキャットタワーがあった。そこにグリフォンが各々好きな場所で休んでいる。
「グリフォンは野生なんですか?」
気になったので質問をする、グリフォン種にも色々と居て基本的には高山や深い森に棲んでいるのだ。性格は獰猛と言う程では無いが攻撃してくるような相手には容赦が無い。人に懐く例は稀に聞くがユグラシアのように大規模に飼育していると聞いたのは初めてだ。
「いえ、今騎士団に居る子達は生まれた時から育成してますね。稀にはぐれのグリフォンが居着いてそのままここの子になる場合もありますね」
気になったのか近づいて来た一頭が顔を摺り寄せて来る、ルーカスさんにアイコンタクトを取ると撫でても良いとの事だ。
「凄い……可愛いかも……」
「へぇ……始めてこんな近くで見ましたけど、結構可愛い顔してますね」
俺達が撫でると「きゅるる♪」と可愛らしく喉を鳴らす。
「そうです! 可愛いんですよ!! こちらに雛が居ますのでどうぞ見て下さい!!」
一カ所だけ屋根のある場所に案内するルーカスさん。なんかさっき撫でたグリフォンが俺の背後について来ている。
「「「「「わぁ~~~!」」」」」
案内された室内で女性陣が黄色い声を上げる、そこに居たのは両手で抱えれるくらいの大きさの赤ちゃんグリフォン達が自由に過ごしている。
「話に聞いてたけど。今年は多産の様だね」
出した手をガシガシと甘噛みされながらエルメガリオス様がにこやかに言う、あれ痛くないのかな?
「はい、例年より多く生まれました! ですが、恐らくグリフォン舎の数が足りなくなりそうでして」
「そういえば、稟議書が来ていたな……うん、この分なら早急に作った方が良いね。稟議書はこちらで通しておくから。どのくらいの規模と改築なのか新しく建てるのかを大工たちと話し合ってくれ」
「はい! ありがとうございます!!」
「あの、ルーカスさん……何でこの子ずっとついて来てるんですか?」
先程からついて来た子がジーッと窓からこちらを見ている。流石に小屋の入り口は狭いので入れないので待っている様だ。
「えぇー、何ででしょう……」
「ふむ……ホウショウ殿、一度ネリーニアを下ろしてから、あのグリフォンの元に行ってもらえるかな?」
エルメガリオス様の指示に従い、カトレアを下ろして外に出るとひょこひょこと俺の元に寄って来る。
「えっと……うわぁ!?」
「ピュィィィィィィ!!」
ひょいっと嘴に捕まえられ背中に投げ飛ばされる、大きく一鳴きすると一気に二階まで飛び上がる。
「ちょ、待って!! まってぇぇぇぇえええええ!?」
そして瞬く間に加速したグリフォンがそのまま外に出る。俺、鞍とか付けて無いんだけど!!
「ピュィィィィィィ♪」
楽しそうに飛ぶグリフォン、一方俺は上下左右に揺さぶられながら必死にグリフォンにしがみつく。
「——————!(止めてぇ!)」
風圧で声が出ない、ものすごい速度で地上の景色が流れる。
「ピュィィィィィィ♪」
一通り曲芸飛行をしたグリフォン、楽しそうに鳴いて今度は森の奥へ飛んでいく。
「うぐっ……何とか慣れて来た……」
相変わらず物凄い速度だが、乗る感覚がつかめて来た。
恐らく5分程飛ぶと、森の一帯に開けた場所が現れた。
「ピュィ♪」
今までとは違う一鳴きをして地面に降りていく。開けた場所に降りると目の前に小さな洞窟の入り口現れた。
「ピュィ♪」
グイグイと押されて洞窟の入り口に追いやられる、これ入って大丈夫なのかな?
「あっ、ちょいちょい!」
俺の心配をよそに俺を連れて来たグリフォンが中に入って行くのだった。
「帰り方わからないし……。追うしか無いか……」
俺は、意を決して洞窟の中に足を踏み入れた。




