第17話:店舗の準備と奥様会議
アインの家から出て、エルヴィール家へ向かう。今日は全員集まって夕食と昨日、アドクレイド様に言われた褒賞式に出る人の話をしようと思うからだ。
「おかえりなさいませ、ホウショウ様、カトレア様」
メイドさんが出迎えてくれて邸内へ入る、備え付けの手洗い場で手を洗い食堂へ向かう。
「では、こちらへ」
「ありがとうございます、エルヴィール元男爵さんは?」
「旦那様は本日、イブキ公爵様とお食事に出かけました」
「そうなんだ、だから爺やさんが居ないのか」
「はい、何かご用事でしたでしょうか?」
「まだ、カトレアと顔合わせして無いからさ。早めにした方が良いと思ってさ」
「そうでしたか、そうですね……お戻りは不明ですので……」
「そうか……昨日も朝帰りだっけ?」
「はい、お恥ずかしながら……」
昨日は話を終えてから俺は早々に帰ったのだが、朝まで王子達と飲んでたらしい……。
「まぁ、仕方ないか。王都に滞在する時間も短いし。イブキ公爵も終わったら魔の森に戻るって言ってたしなぁ……」
こんな機会じゃ無ければ集まれないって、言って笑ってたしな。
「それじゃあ。また今度だね、ありがとう」
メイドさんに礼を言って食堂へ入る。中では三人が談笑をしていた。
「お待たせ、しちゃったかな?」
「大丈夫ですわ、旦那様。ネモフィラさんとミモザさんと今度出すお店のお話をしておりましたので」
応接室から持って来たであろう紙の資料が机の上広げられ、お店の内装や設備について色々と書き込みがされている。
「そうそう、旦那様。お店の性質上汚水が多く出るんだけど。水質浄化のタンクって用意した方が良いかな?」
「うーん……。一応、郊外の処理施設でスライムによる水質調整してるから、基本的には下水流しても大丈夫だと思うんだけど……それに関しては第二王子様に聞いてみるよ」
第一王子様だと適当な事を言って第二王子様が頭を抱える事になりそうだし。
「そうですね……それでしたら事業計画書を書いてプレゼンしていただいた方が良いですわね。セレフィーネさん、プレゼンの方はお願いしてもよろしいでしょうか?」
「……へっ? わ、私ですか!?」
「はい、理由に関してはここでは言えないので、後ほどお伝えする形になるのですが私達が王城に出入りする事は避けたいと思いますので」
そういえば、二人の事は軽くは話してあるのだが。詳細な事は話して無いから、教えないといけないんだよな。
「私でも大丈夫でしょうか?」
「はい、それはもう。みっちりと教え込みますので♪」
凄く大変そうだよなぁ……。
「旦那様もですよ?」
……えっ?
「ええっ!? 俺もなの!?」
「そうですわ、まさか奥方一人に全て任せるのですか?」
「あ、いや……そうだよな……」
これは大変そうだなぁ……。と、苦笑いをしながら資料を片付け始める奏さんを見るのだった。
◇◆◇◆
「という事で、俺達はこの世界の住人ではありません。本当だったら先に伝えるべきだったんですが……すみません」
俺達三人がセレフィーネに頭を下げる、セレフィーネはカトレアに助けを求める目を向けるがカトレアも説明済みの側なので大きく頷いて肯定をする。
「そんな……では、ホウショウ様……いえ、ツバサ様は、いつか元の世界に帰ってしまうのですか?」
「一時的には……かな? 召喚されたクラスメイトを家に帰さないといけないし。それに二人のご両親に対して成り行きとはいえ起きてしまった事の説明をしないといけないからさ。向こうの法律だと、未成年に手を出した俺は犯罪者だからね」
「そんな……カトレアさんはそれで良いのですか!?」
「えぇ、納得しているわ。ツバサが二人に対して責任取って、その筋を通すって決めたのですから。私はその背中を押すだけよ。それに、長年待たされたんですもの、もし数年くらいかかっても、待てない筈が無いわ」
「無論、セレフィーネが納得できなくて婚約の解消をしたいのであれば。俺が元の世界に戻ったタイミングでしてくれて構わない。その際は俺を戦死扱いにでもしてくれれば、俺の口座にあるお金は丸々譲渡される様に手配しておくさ」
(いきなりの事で、セレフィーネも混乱しているだろうし……)
今日はここで切り上げて立ち上がろうとすると、袖を掴まれる。
「ツバサ様。それはツバサ様がやりたい事なのですか? 誰かに任せる事は出来ないのですか!?」
縋るような目で見て来るセレフィーネ、目に溜めた涙《想い》は零れる寸前で踏みとどまっているように見える。
「俺自身、まだ踏ん切りがついて無いんだ。でも、彼等には家族が居る、戻る場所がある。だから彼等を送り届けて俺も、ちゃんと〝家族〟の元に帰って来るつもりだよ」
「私もですわ、異世界に逃げて責任逃れなんてさせないですわ」
「そうだねぇ……。もし逃げても、世界くらい超えてやるわよ」
「まぁ、いつまでも来なかったら、私達が捕まえに行けばいいからね」
皆に掴まれ、椅子に座らせられる。
「そうですわね、もう待つのは嫌ですものね……」
涙を少し溢して顔を上げるセレフィーネ、先程とは違い不敵な笑みを浮かべている。
「旦那様。旦那様は自分の務めを果たしてください。私達はこちらの世界で〝家族の居場所〟を守ろうと思いますわ」
「私も守るわよ。それにこの世界の人はツバサを必要としてる。ツバサの世界の人よりも遥かにね」
そう言って笑う二人に、心が温かくなる。これが家族の温かさなのかと思うと様々な感情が沸き上がってくる。
「ちょ、どうしたのよ!?」
「だ、旦那様!?」
「ど、どうしたの飛翔!?」
「あらあら。想定以上ですね」
「えっ、あれ、おかしいな……」
いつの間にか涙が頬を伝って落ちている、今までこんな事は無かったのに……。
「良いんですよ、泣いて下さっても。セレフィーネさん程ではありませんが今は私の胸を貸してあげますので」
顔が柔らかいものに包まれる、尋常じゃない速度で奏さんに抱きしめられていた。
「あ、ずるい! 次は私!」
「私も、いつでも良いわよ。ツバサは私の胸好きだしねー」
「え、えっと……。私も良いですか?」
こうして俺は彼女達が満足するまで、天国巡りをさせられるのだった。
◇◆◇◆
「えっと……今日の本題なんだけど……」
俺は、アグラカルド様に言われた〝褒賞の儀に連れていく人〟の話になった。
「うーんそれですと。順当に〝正妻〟であるセレフィーネが一番理想ですわよね?」
「ですが、私は元々スレヴァン家ですし、難癖付けられると面倒な気がしますわ」
「でも、私達が王城に行くのは……」
クラスメイト達に見つかる危険性があるし、と続ける恵さん。
「そうよねぇ……かと言って、私は長い時間立つ事は厳しいですし……」
「治します? 私は構いませんが?」
「でも、私。元娼姫よ?」
性奴隷の権利自体はこっちに移譲されてるけど、胸の紋様はそのままだし。恐らくドレスを着ると奴隷紋が露になってしまうんだよな。
「俺としては全員一緒でも良いけど……」
クラスメイトは部屋から出ない様にして貰えれば良いし、王族に目をつけられても二人の事はしらを切れば良いし。
セレフィーネの事は、何か言われたら物理的に黙ってもらえば良いし、カトレアの事も同様にするから問題は無い。
「どこかにいい人材が居ないかしらねぇ……」
女性陣のため息が、浮かんでは消えてくのだった。




