第16話:招待状行脚
翌日、スズランさんとアインにカトレアとの結婚式に出てもらう為、招待状を届けに行く事になった。
「では旦那様、私達はセレフィーネさんの元へ行ってまいります」
「お土産、ちゃんと渡してね~」
奏さんと恵さんは迎えに来たエルヴィール家の馬車に乗って行く、今日は結婚式用のドレスを見るそうだ。ちなみにカトレアのドレスに関しては、アラビアンナイトの皆が贈るしきたりである。
「さてと、俺もカトレアの元に向かわないと……」
自宅から裏通りに入り進む、道中シテュリ婆さんの元に寄って招待状を置いてくる予定だ。
「到着っと……ごめんくださーい」
裏通りから表通りに出て薬局の中に入ると別世界である。入り口の泥落としを使い靴を綺麗にした後、白を基調とした店内に入る。中には調合待ちのお客さんが数名居て、寛いでいる。実はこの店俺が売り上げに悩んでたシテュリ婆さんアドバイスをしてこの形となったのだ。
「なんじゃ、色男か……それでどうしたと言うんじゃ? 精力剤はそこじゃよ」
呆れ顔のシテュリ婆さんが棚を指差す、そこには娼館で使ってる精力剤の原液が置かれていた。
「違いますって……用事は手紙です」
招待状を取り出して手渡す、シテュリ婆さんはまじまじ見て俺に顔を向ける。
「今更結婚式かい……いくら呼べる人間少ないからってワシを当てにせんでくれ」
「ちがいますって……カトレアと結婚式を挙げるんですよ」
その瞬間、目を大きく開き唖然とした顔をする。
「おぬ、お主! 本当か!? 嘘じゃないのか!?」
「はい、ちょっと色々あってカトレアの身請けが解禁されたので、一緒に結婚式をしようと思ったんですよ」
「ふむふむ……えっと……エルヴィール辺境伯? あそこは男爵じゃったはずじゃが……」
「あ、えっと……俺が色々あって、エルヴィール辺境伯になりました」
「………………はっ、訳が分からな過ぎて。気絶したわい……」
「えぇ……倒れないで下さいよ?」
「だ、大丈夫じゃ……と言う事はお主貴族になったのか!?」
「あー、そうなるね……今はあの家に住んでるけど……」
「辺境伯様が、あんな中古の家に……」
唖然として驚いている、あの家意外と住みやすいんだぞ?
「いや、まだ屋敷立てる場所とか決まってないし……」
「そうなのか? 聖王都《この街》なんぞいくらでも屋敷はあるのにのぉ……」
「でも、式典を終えないと大々的に動けませんので。ちなみに結婚式は叙爵式の後ですね」
「そうかいそうかい、じゃあその日は休まないとねぇ~」
「よろしくお願いしますね。それじゃあ、あんまり話してるとお客さん待たせてしまうので俺は行きますね」
「あぁ、気を付けてなぁ~」
シテュリ婆さんに見送られ、アラビアンナイトへ向かうのだった。
◇◆◇◆
――ゴンゴン、――ゴンゴン。
木製の扉をノッカーで叩き来訪を知らせる。すると、すぐにスズランさんが出てくる。
「いらっしゃいホウショウさん、それにカトレアも久しぶりね。さぁ、入って入って」
招き入れられてリビングに通される、そこには暇そうにしているアインが居た。
「こんにちはスズランさん、アイン」「ひさしぶり、アイン、スズラン!?」
カトレアに抱き付くスズランさん、危なそうだけどスズランさんが支えているので大丈夫みたいだ。
「おう、随分といちゃいちゃしてるなぁ。俺達も抱擁しとくか?」
「気持ち悪い事言うなよ……はい、これウチの嫁達からのお土産」
ホイップクリームを使ったケーキを差し出す、この間エルヴィール領に行った際に女性陣がゼラチンを見つけたのだった。ちなみに出発に1日かかった理由でもある。
「なんだこれ……真っ白じゃねーか……しかも冷たい?」
「あぁ、エルヴィール男爵の家で見つけたレシピを再現したらしい。ただすぐに傷むみたいで保存には向かないんだ」
「へぇ……じゃあすぐに食べちまおう。スズラン、ホウショウの嫁が珍しいケーキ持って来たぞ。すぐに食べないと駄目らしいから、食べちまおう」
楽しそうにカトレアと話しているスズランさんに声が掛けられ、持って来たケーキを見る二人、当然その顔には目を見張る程の驚きが出ている。
「これは、普通に切って良いのかしら?」
「大丈夫ですよ、倒れてもご愛嬌です」
家でケーキを切ると、大体倒れるよね……。
「わかったわ……あぁ!?」
結局4つに切った内の2つは倒れてしまったので、男性陣で率先して食べる。
「「「!?」」」
三人とも雷が落ちたみたいな震えをしている、相当に衝撃だった様だ。
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!! 口の中で消えたぞ!?」
「冷たさも相まって雪みたい……」
「これ、美味し過ぎない!? 料理に革命が起きるわよ!?」
そこまでか、確かに味見させてもらった時は、凄く懐かしくて感動したけど。こっちの世界の人はこんな反応になるんだな。
「まぁ、まだ多く生産が出来ないので身内だけが食べれる品という事で……」
「そうなのね。勿体ないわ……」
「まぁでも、こんなものしょっちゅう食べてたら。飽きちまいそうだけどな」
「そうね、特別な日に食べる方が良いわね」
三人がとても美味しそうに頷いている、どうやら満足度はとても高いようだ。
「まぁ、その特別な日に食べる為に試作したんだけどね……」
空間収納から招待状を取り出して二人に手渡す、二人共受け取ると不思議な顔をする。
「エルヴィール辺境伯? 何でお前が?」
「えっと……実は、それ、俺なんだ」
「嘘は休み休み言えよ~何でお前がそんないきなり貴族に。しかも辺境伯だなんて、しかもこんな判子まで作ってさ~」
「すまん、嘘に思えるかもしれなけど。本当の事なんだ」
二人の顔が、段々と強張って行く。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」「————!?」
アインが絶叫を、スズランさんが絶句している。
「まぁその、色々とあってさ、3年前に貴族の依頼で護衛した貴族の娘さんが、エルヴィール領の娘さんでさ。その子と結婚する事になって、そうしたら義父が家督譲ると良い始めて……。それに俺、不本意だけど巷で英雄って呼ばれてるだろ? その功績と、偶然悪い事してた貴族をとっちめた時の功績が認められて辺境伯に押し上げられた……」
「まじか……」
「そんな、お伽噺の様な事ってあるのねぇ……」
「まぁ、そんな所。内容なんだけど、結婚式をやるから来て欲しいんだ、カトレアと結婚するし。その貴族の娘さんや前に来た奏さんと恵さんとも正式に結婚をするから、一気に結婚式をやっちゃおうという事になったんだ」
「「………………」」
そこまで唖然としなくても……。
「なんかもう、驚く情報が多すぎて、驚けないぞ……」
「私も……なんかもうこれ以降は驚けないわ……」
そう言うスズランさんだが、カトレアの本当の事を知ったら絶対驚くだろうな……。
「それと、アイン。今後についてだが……」
俺が真剣な顔をする、今は俺が指名を受けてる事もあって別々に仕事をしているのだが、アインとは未だにパーティーのままだ。
「おう、まさかお前が貴族なるなんてな。やっとお前が認められて嬉しい反面、パーティー解散するのは悲しい事だな……」
貴族の中にも冒険者は居るが基本的に男爵や子爵までで、伯爵以上になると冒険者を辞める人間が殆どだ。
「あーそれは、すまない……。だけど、頼みがあってな……」
アインに向き直り、頭を下げる。
「もし良かったら、エルヴィール領で働かないか?」
「それは、どういう意味でだ? 冒険者としてか騎士団としてか?」
「騎士団の方だ」
「ほう? 何でだ?」
「それは……」
俺はアインにエルヴィール辺境伯という〝特殊な立地〟である以上は必ず必要になる騎士団の説明をする。
「そうか……仕方ない奴だな……」
「良いのか?」
「あぁ、冒険者を取り纏めるなんて仕事、俺の方が得意だもんな」
「ありがとう、助かるよ」
苦笑いをしながら差し出してきた手を握り返す、冒険者使いが上手いアインであればうまく取り纏めてくれるだろう。
「ちゃんと、給料は弾んでくれよ? それと、招待枠にはまだ空きがあるか?」
「あぁ、あるけど……どうするんだ?」
「それじゃあ3日後。ギルドに来てくれ。お前には不味い話じゃないからな」
良くわからないけど、アインの事だし何かしら思惑があるのだろうと思いながら、話に花を咲かせるのだった。




