第7話:冒険者ギルドへ①
「さて、買物に行こうか。私服が制服だけだと目立つからね」
額を袖で拭いながら二人へ声をかける、朝から半日かけて掃除を終えた俺達は買い出しへ向かう為の準備をする。
「あぁ~づがれだぁ~」
「流石に、疲れましたね」
「それで買物終わったら、冒険者ギルドに行こうか。二人の登録してお金稼がないといけないし」
流石に二人の身請け金を払ったのと、生活費稼がないといけないし。それに、二人は向うの世界で生きてたから万が一の事態に対応できるようにしないと。
「ねぇ……やっぱり、その……。冒険者ってやらないと駄目?」
「私達、戦った事とか無いんですが……」
不安そうな顔をする二人、不安がるのもわかるしな。
「不安なのもわかるけど。この世界は日本みたいに安全じゃ無いし、いざという時は身を護る手段も覚えて貰わないと、ギルドじゃそういった講習も受けれるからね」
少しでも簡単な仕事もやってもらわないと、流石に三人の生活じゃ苦しい所がある。
「それに、もし他のクラスメイトが奴隷落ちしてたら助けないといけないし……」
その言葉に、二人共息を呑む。
(二人と仲のいいクラスメイトもいつ奴隷落ちするかわからないし、今回はたまたまの巡り合わせで俺が見つけて、俺が身請けできたっていう運の巡りが良かっただけの事だからな)
「だから、備えておけばいざという時、少額でも前金とかに出来るしね」
前金なんて出来ないけど、大旦那からお金を借りる時とかに二人が仕事をしてれば信用はあるしな。
「あと、いくら俺が1回の大仕事で稼いでも。色々と買い揃えたり、3人分の生活費を負担してたら流石にお金が足りないからね」
「確かに……」
「そうですね……」
「それに、戦う以外にもギルドの指定する薬品の納品とか薬草の採集仕事とかもあるしね」
作業講習に出てれば、訓練生でも一応軽くは報酬貰えるし。真面目にやれば色も付けてくれるし。
「そ、そういえば、冒険者ギルドって大丈夫なんですか? 身元がバレたりとか……」
「大丈夫、心配無いよ。冒険者ギルドは国に属さない各国を跨ぐ独立組織だし、守秘義務もしっかりしてるから。それと俺達はこれから偽名で生活を始めるし」
「偽名……ですか?」
「そういえば、鷹取って娼館の人達から〝ヒヨウ〟とか〝ホウショウ〟って呼ばれてたわね」
「それも偽名だけどね……冒険者での呼び方は〝ホウショウ〟で普段が〝ヒヨウ〟だね。二人もこれから偽名を使っておけば身バレしそうになった時、誤魔化しが効くからね」
後ろめたい気持ちはあったけど、意外と偽名の人は多いのだ、特に娼姫の人達は皆偽名(源氏名)だ。
「で、でも。偽名ってバレませんか!?」
「そうよね? 私達呼び出された時普通にクラスメイト同士で名前出しちゃってたし……」
「あぁ、大丈夫そこは娼館での源氏名をこれからの二人の名前にするから。それに、娼館出だという過去を詮索されたくない人が居るから、名前に関しては案外すんなり受け入れてくれるし」
「そうなんですね、なら安心していいのかな?」
「でも、偽名ってどうやってつけてるの?」
「あー、さっき大旦那から渡された紙あるじゃん? あれを提出する必要があるからそこに書き込めばいい」
大旦那から渡された紙を手元に出す。
「それって鷹取が出して大丈夫なの?」
「あぁ、使いの委任状は貰ってるし。それにあそこの源氏名は俺が付けてるからね」
「へぇ……」
「そうなんですね」
「まぁ、俺の語彙力だと花の名前で偏るって問題があるけどね……」
じいちゃんの家が花き農家で、昔から手伝ったり花は触ってたからポンポン出てくる名前はそれ位なのだ。
「へぇ、花の名前……良いんじゃないの?」
「そうですね、飛翔さ……旦那様がどんなお名前をつけてくれるか楽しみです!」
ニヤニヤと笑う細野さんと目を輝かせる蒼井さん。
情報としては二人の見た目と、簡単な性格しかわかんないし……。
「あんまり深くは二人の事知らないし……見た目的に蒼井さんが〝ネモフィラ〟で細野さんが〝ミモザ〟かな?」
そう言うとキョトンとされる、何か駄目だったのだろうか?
「駄目……だった?」
「いえ、名前を出されてもぱっと出て来なくて。お母さんが育ててた花の中にはあったと思うのですが……」
「そうね、ミモザ……わからないけど飛翔……いえ、ご主人様が決めたならそれでいいんじゃない?」
そう言って受け入れてくれた二人が呼び合う、気に入ってもらえたのなら良かった。
「それじゃあ、買い物に行こうか二人共」
「…………」
「…………」
返事が返ってこない、というかじっとこちらを見ている。
「え、えっと……二人共?」
「二人共なんて呼ぶなんて寂しくない?」
「そうですね、折角旦那様よりお名前を頂いたのに……」
二人して落ち込むふりをする、そういう事か……カトレアも俺がカトレア呼びをしないと機嫌が悪くなったな……。
「悪かった、次からは名前で呼ぶよ。蒼井さん、細野さん」
「えぇ!」
「はい!」
二人に手を繋がれ家の外へ引っぱり出されるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇???side◇
「なんだと!? すでに買われたぁ!?」
「はい、申し訳ございません……昨晩店に出した所、常連様よりお気に召したとの事で……」
目の前の大男が丁寧に頭を下げる、忌々しいがこの見た目だ僕なんて返り討ちに合うだろう。
「ぐぬぅ……相手は!!」
「それはお答えかねます、当店も娼姫を買われたお客様の情報は国令での決まりで、お出しする事は出来ませんので……」
確かに、無用のいざこざを避ける為に決められているが、納得いかない……。
「くやじい……私は貴族だぞ!」
「存じ上げております、ですが相手もかなり高貴な身分の方。ここは引き取りを……」
「ぐっ……僕以上となると……クソッ!」
思わず机を蹴りそうになる……が、見張っている戦闘奴隷の視線が怖いので足を下げる。
「わかった……じゃあ代わりに今日はカトレアに相手をさせろ! この件はコレで引いてやるよ」
降って湧いた幸運だろう……こうでもしないとこんな機会は無い、異世界人は残念だが代わりに最上級の娼姫を頂くとしよう……。
「かしこまりました。おい、カトレアをここに」
そう呼ぶヤツの顔を見ながら、これからの事に思いを馳せるのだった。