第7話:エルヴィール男爵
聖王都出発から二日後の夕方、エルヴィール男爵領へ到着した。
「のどかな所ですね」
「そうだね、馬産が主産業みたいだし、兼ね合いで牧畜もしてるみたいだ」
山の裾まで見える程の平野と、馬の運動場や畜舎が見える。
「んにゃあ……、領主さまの館はどこかにゃぁ……」
「確かに、見えないわね」
「もしかして、あちらですかね?」
一番大きな畜舎の近くに新しめの2階建ての一軒家がある。大きさは我が家と同じくらいだ。
「かもしれないな、とりあえず行ってみようか」
「えぇ」「はい」「んにゃ」
以前来た時は古い家が多かったけど。今はどの家も新しく建て直されている。
◇◆◇◆
馬を走らせ家の前に着くと、凄いマッチョな農夫が牧草を投げ積んでいた。
「ふっ! はっ! はぁぁ!!」
「暑苦しいな」
「暑苦しそうね……」
「暑苦しそうな御方ですね……」
「暑苦しそうにゃ……」
全員の感想が一致する。
「ふぅぅぅん!! ん? 貴殿らは……その馬!!」
俺達が乗って来た馬に駆け寄る、すると馬の方も男性に甘え始める。
「お前達元気だったか!! そうかそうか!!」
この馬が懐いてる、という事は……。
「えっと、貴方がエルヴィール男爵で間違いないですか?」
「ふははは、やめいやめい! こら、舐めるなぁ!? お、おう。そうだ! ワシがエルヴィール領の領主、ダルツバル・エルヴィールだ! こら、今度は噛むなぁ!?」
じゃれ合う馬と男爵、なんか見ていて微笑ましくなる。
◇◆◇◆
それから10分程馬たちにもみくちゃにされた男爵を水魔法で洗う、さっぱりとした男爵と共に家へ入る。
「すまないな! このような狭い家で!」
「いえ、俺の家もこれ位ですので落ち着きます」
「そうかそうか! 国王様はもっと豪華な屋敷を建てようか聞いてきたのだがな、ワシには合わんので断ってしもうたんじゃよ!」
「そ、そうなのですね……」
(なんというか豪快な人だ、というかエルヴィール男爵ってもう70歳になるって聞いてたんだけど……元気過ぎない?)
以前は襲撃された仲間の手当てやらでつきっきりだったし、依頼の完了も先輩冒険者やアインがやってたから、顔は見て無いのだ。
「さて、御客人。用向きは何だ? 少なくともウチの馬に乗ってる以上、関係者だろうからな」
「はい、その前に自己紹介を。私の名前はホウショウ、一応金等級の冒険者をやらせてもらってます」
「私はネモフィラと申しますわ男爵様、ホウショウ様の妻でございます」
そう言って、綺麗なカーテシーで挨拶を。
「私は、ミモザです。ネモフィラと一緒にホウショウの奥さんをやらせてもらってます」
少しぎこちないけど、綺麗なカーテシーで挨拶を。
「私は、サリアにゃ。ホウショウ先生の弟子でネモフィラとミモザの友達にゃ」
なんか、見よう見真似でフラフラなカーテシーで挨拶をしている。
(サリアは冒険者だし良いのでは?)
「それで、こちらに来た用は、エルヴィール男爵夫人とアークフォート王家より手紙を預かってまいりました」
二つの手紙を男爵に手渡す、先に王家からの手紙を読んでから真剣な顔つきで夫人からの手紙を開きじっくりと目を通す。
「そうか……ついに決めたのだな……。子細承知した、今日はもう遅い、女性達は2階に客間とあの子が使っていた部屋があるそちらで休んでくれ」
「ありがとうございます、お言葉に甘えたいと思います」
「ありがとうございます、お言葉に甘えさせてもらいます」
「ありがとうございますにゃあ、助かりましたにゃあ」
男爵は三人が階段を上がるのを見送って、俺に向き直る。
「さて、ホウショウ殿は残ってくれ、少し話がしたい」
「はい」
恐らく受けている依頼の事だろう、護衛をするから話し合わないとな。
「さて……貴殿は酒いける口か?」
「えぇ、いけますが……。まだ依頼が……」
「よいよい、まずは貴殿を酒を飲む方が重要だ」
そう言って、ワインをコップへなみなみと注がれる。
「ほれ、飲め飲め」
手渡されたワインに口を付ける、結構強いな……。
「おぉ、良い飲みっぷりだ」
そう言って、自分の分も注いで飲み始めた。
そうして飲み続けて大分お酒が回ってきた頃、飲み始めから黙っていた男爵が口を開く。
「お主、ワシの息子にならんか?」
「んぐっ!?……ゲホッゲホッ……冗談ですよね!?」
「いいや、本気だ。あの子が見初めたお主ならばこのエルヴィール領を任せられると思ったんじゃよ」
「見初めるって……そんな冗談を……」
「冗談ではない。現にここにお主を寄越している事が理由だ」
男爵は椅子に深く座り、手の中にあるカップを見つめる。
「約3年前だ、あの子が俺の元に来たのは……」
「はい、覚えているというのも。俺がその護衛でしたから」
「そうだったな。それでな、最初は跡継ぎとして親類と結婚させるつもりだったのだが、いかんせんあの子は若すぎた……なんせ歳は15だが、見た目は小枝の様だった」
俺も最初エルヴィール夫人と再会した時は誰かわからなかった。それほどまでに彼女は家で虐げられていたのだ。
「見た瞬間、猛烈な怒りが沸いた。いくら自分の子供とはいえああまで出来るのかと……そしてワシは決めたんじゃ。あの子の親になろうと……」
カップの中を見る目つきは優しい父親の様で、エルメガリオス様と同じ目をしていた。
「だが、どうやら伯爵家はあの子がワシの親類と結婚をする事を許さなかった。いや、元からこの領地を自己の物にするつもりだったのだろう。こちらに向かう途中殺されてしまった、それが2年前じゃ」
「2年前? 2年前って確か、魔物の森の氾濫が起きた時期でしたよね?」
エルヴィール領と魔物の森は結構近い位置にある、この領地が背している山脈を越えた先に魔物の森が存在している。
「そうじゃ、親類が居た村々は魔物に飲み込まれ、壊滅した……辛くも逃げ出して来た僅かな者達がエルヴィール領に住んでいるがな」
「そうだったんですか……」
「あぁ、その後あの子を家に戻す訳にもいかずワシと婚約をしてここに留める事が出来た。幸いにもそのお陰で、スレヴァン家の処罰からは免れたのは良かった事じゃったよ」
そう言って嬉しそうにする男爵、残りのワインを煽ってから俺と視線を合わせくる。
「ここからが本題じゃ、少なくともワシはまだくたばるつもりはないが。良い年じゃからな何があるかわからぬ、それ故に心配事を減らしておきたいのじゃよ」
どう見ても歳相当に見えないゴリゴリのマッチョで、後30年以上は生きそうなんだけどさ……。
「それにあの子と約束した。〝この手紙を届ける人はこの領の後継者に相応しい人である〟その人を探す為に聖王都に行ったんじゃよ。まぁ最初からお主を選ぶつもりだったんだとこの手紙を見てわかったわい」
ニッカリと笑い手紙を何度も愛おしそうに眺める、短い期間かもしれないが家族としてよくやっていたのがわかってしまった。
(二人の、家族としての絆が強くあればあるほど、俺という存在は二人を壊す亀裂になる……)
「すみません、そのお話は一旦保留とさせていただきたいです……」
俺の言葉に、ピクリと眉を上げる。
「なんだと? 良く聞こえなかったぞ?」
何で殺意マシマシでこっち見るのさ!?
「え、えっと……理由は複数あるのですが……」
それ以上の言葉は出せなった、目の前に男爵の拳が迫っていたからだ。
「ウチの娘が可愛くないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
後に飛ぶが、ロッキングチェアのせいか男爵の拳の方が速い。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
男爵の咆哮と共に俺は家の外に殴り飛ばされた。




