第4話:驚きの来訪者
第一王子様のお風呂事件から早数日、クラスメイト達の訓練は今日は休みなのでデートを兼ねて3人で昼食から家に戻ると、我が家の前に一目で上位貴族用とわかる馬車が停まっていた。
「上位貴族用の馬車? でも見た事が無い紋章だな?」
「そうですねぇ……私が知ってる商家の家紋でもありませんわ」
「ごめん、私わかんない……というかこっちに来て長い旦那様が知らないのであれば他国の貴族かも?」
確かに、この国で7~8年冒険者をやってると大体貴族の紋章は頭に入る。知らないのは新興の貴族家だと思うが。ここ数年で叙爵されたのは名馬の産地として保護されたエルヴィール男爵家だけだ。
となると、残りの可能性は、今回の騒動で新興した貴族家か他国の貴族となる。だが数日前のアドクレイド様との話だと褒賞や叙爵云々はまだ決まっていないだろう。
「それはあり得るな……というか、それしか無いかも?」
「兎も角、私とミモザちゃんは裏口から入ってお迎えの準備を致しますわ」
「旦那様は、少しの間時間を稼いでおいてね」
「わかった、頼んだよ」
二人が普段は使わない裏口へ回り宅内へ入っていく、軽く清掃するだろうし5~10分あれば問題無いだろう。
馬車に近づくと御者をしていた青年がこちらを向く、深くフードを被っているのでわからないがクラスメイト達と同い年っぽい感じがする。
御者の青年が小窓から中に呼び掛けている、すると馬車の扉が開き使用人が降りてくる。
(姿は執事服だけど、腰に簡易杖を持ってる。という事は護衛も兼任してるエルフの魔導士か……しかも結構な歳だ……)
壮年のエルフというだけでギルマスよりも歳が上という事がわかる。となると、あの人はエルフというよりハイエルフなのか。
「失礼、貴殿が〝ホウショウ殿〟でお間違いはないであろうか?」
「あ、はい。そうです。貴方は?」
「私、エルフ国—ユグラシア—王家に仕える、執事のロウリスと申します」
ユグラシアって話に聞いた事しか無いけど、この国との同盟を結んでる国だったよな。出入りが厳しくて冒険者の仕事でも行った事無い国だ。
「そう……でしたか……それで、どうしてここへ?」
「はい、ネリーニア様より旦那様のお家がこちらと伺い。我が主君が参られた次第です」
ネリーニアって知らないんだけど。いや、でも俺に名指しで来てるよな? というか、ロウリスさんの主君……って事は王族!?
「わ、わかりました……只今扉を空けますので……平民用の家で狭いのですが大丈夫でしょうか?」
「はい、問題ありません。事前に大きさを確認致しますので入っても?」
大きさを確認? ま、まぁ……王族にしては狭いだろうからチェックは必要か……。
「はい、構いませんよ」
「では、失礼……皆の者ついて来なさい」
ロウリスさんの言葉に、ぞろぞろと馬車から人が降りてくる。というかどう見ても4人乗りくらいのサイズなのに何でこんなに降りてくるのさ!?
「あ、あの……流石にこの人数は……」
「いえ、大丈夫です半分は護衛ですので。では、私も失礼して……」
家の中に入ると、入れ替わりで奏さんと恵さんが出て来た、突然の事で二人も驚いている。
「旦那様、どうしたのこの沢山のエルフの人達!?」
「お掃除も取って代わられてしまいましたわ……」
そして数分でロウリスさんが出てくる。
「お待たせしました、ホウショウ殿、奥方様方、こちらへどうぞ」
ロウリスさんの手引きで我が家に入る、そして驚愕した。
「なんか、床が光ってるんですが……」
「水回りも凄く綺麗に……」
「まるで、新品のようですわね……」
何か見違える程に綺麗になってるんだけど……。
「では、お呼びいたしますね。紅茶係以外は馬車へ」
「「「「「はい!」」」」」
そしてまたぞろぞろと馬車の中に入っていく。魔道具なのだろうけど、見た事無い。
「では、姫様こちらへ」
馬車の中から降りて来たのは滅茶苦茶豪奢なドレスに身を包んだ少女だ。
「貴殿が、ホウショウ殿で相違ないか?」
少し大人びた声で俺の名前を呼ぶ、何て言うか圧倒されてしまい声が出せない。
「なぁ、ロウリス。妾は何か間違いをしてしまったのだろうか?」
「いえ、姫様。姫様のあまりの美しさに声が出ないのでしょう」
「そ、そうなのか……それは良かった……」
「あ、すみません。私めがホウショウでございます。こちらは妻のネモフィラとミモザです」
「よろしくお願いいたしますわ」
「よ、よろしくお願いいたします」
奏さんは流石というか綺麗なカーテシーで挨拶をする、恵さんも綺麗さに見とれていたが同じ様にカーテシーで挨拶をする。
「さて、サプライズも成功いたしました。お後もいらっしゃいますので姫様はこちらへ」
「はい!」
そして次に降りて来たのは、二人組で絶世の美男美女。もう、見なくてもだれかはわかる。
「妾が国王のエルメガリオスだ、先程は娘に付き合っていただき感謝する」
「私は妻のロゼシェリアです、突然すみませんホウショウ様がた」
うん、滅茶苦茶驚きました……。奏さんと恵さんも滅茶苦茶驚いてるもん。
「すみません。ここまで完璧な美しさの人は、見た事がありませんでしたので呆けておりました。私めがホウショウで――」
先程と同じ様に礼をしてから、三人が奥に入っていく。
そしてロウリスさんに促され最後に降りて来たのは、カトレアだった。
「えっと……ごめんホウショウ、厄介事になっちゃった……」
申し訳なさそうに謝るカトレアに苦笑いが隠せない俺だった。
◇◆◇◆
「まずはどこから話すべきかな?」
「えっと……カトレアとエルフの国の王様達が知り合いな所から?」
俺の言葉に奏さんと恵さんが頷く。娼館での仕事で仲良くなった二人も知らないという事は相当な重大な秘密なのだろう。
「えっと、まずは私の〝本当〟の名前から。ネリーニア・ユノネル……今は亡きネリスフィニアという国、その国の王家が最後に残した血筋なの」
知られたくなかった事を言っている様な、悲痛な声で俺へと告げるカトレア。その真実が彼女が誰にも身請けできなかった最大の理由……。
「でも、私は国に居た記憶は無いの。お父さんとお母さんも普通の人だったし、知ったのもアラテシア様がご誕生された時にエルメガリオス様が私の元に来たからなの」
申し訳無さそうな顔で言うカトレア、そんな秘密があったのか……。
「それから暫くして両親が事故で亡くなった後、悪質な奴隷商に商品にされてた所をホウショウが助け出してくれた。その後は、ホウショウも知っての通りよ」
「でも、実質的に身請けが禁止になってたのは何でだったんだ?」
「それは、私が子供を産めたからね。もし、国の転覆を狙う貴族に身請けされて、併呑した国の血筋がいきなり再興してたら厄介な事になるもの」
政治的な圧力だったのか……恐らく、大旦那も知ってたんだろうな。
「知らなったのは俺だけか……」
そう言うと、何か寂しさが込み上げてくるな。
「違うの!! ホウショウはいつもどこか遠くを見ていた、まるで自分の心は居場所はここじゃないどこかにあるような顔をずっとしてた。だから、ホウショウには黙っておこうと決めたの! 私がいつか旅立つあなたの事を縛る鎖にならない様に……」
段々と俯いていくカトレア、次第に彼女の瞳からは涙が零れていた。
(確かに、カトレアと出会った頃は俺が駆け出しで。その時に味わった辛すぎるこの世界の現実から逃げ出したくて、元の世界に戻る事に必死だったからな)
「そういえば、そうだったな……そう思うと、二人に余計な心配をかけちゃったんだな」
(俺も二人に黙ってる事があるし、無意識の内に俺も壁を作ってたんだな……)
「ごめんな、カトレア。今はまだ話せないけど、その内あの時の事を話すよ」
そう言って泣いているカトレアの元に行き抱きしめると、大きな声を上げ泣き始めてしまった。




