第6話:一夜明けて
それから交代で朝風呂に入り身だしなみを整える、その後は大旦那の元へ奴隷契約を切り替える為に向う。
「おはようございますホウショウ様、こちらへどうぞ」
昨晩案内してくれたガルデンがニコニコとしながら大旦那の元に案内してくれる。
「ありがとうガルデン、助かるよ」
「いえ……でも、ホウショウ様がまさか二人も身請けするなんて……」
「あーうん……。ちょっと事情があってね……」
「そうなんですか? でも、それだとカトレアさん怒るだろうなぁ……」
ガルデンが苦笑いをする。
「……何でカトレア?」
「いえ……何でもないです……。おいたわしや……」
何かボソッと言ったけど、何を言ったんだろう。
「では、到着致しました。旦那様、失礼いたします」
再び訪れた応接室、そこで大旦那は昨晩の売上計算をしていた。
「いらっしゃい、三人共少し座っててくれ。ガルデン、三人にお茶を」
「かしこまりました、三人共こちらへどうぞ」
ガルデンが椅子へ案内する、言葉が通じない二人の手を引いて座らせる。
「こちら、酔い覚ましの紅茶です。砂糖か樹蜜はこちらです」
「ありがとう。二人共、酔い覚ましの紅茶だよ、少し苦いから砂糖かシロップを使うと良いよ」
「ありがとう」「ありがとうございます」
二人共、一口飲んで苦かったのか紅茶に砂糖とシロップを混ぜていく。
「では、俺は一旦下がります。扉の前で控えてますので何か用向きがあればこちらのベルを」
呼び鈴を置きドア前に控えるガルデン、それからしばらくして紅茶を飲み干した頃大旦那が立ち上がる。
「すまない、待たせたよ。少々今日はお客が多くてね……」
「そりゃ良かった、繁盛してて」
「あぁ、それに硬貨の計算機。あれも凄く良く役に立ってるよ」
元の世界でバイトの際に使ってた、アナログ硬貨計算機を真似た物を指差す。
「役立ってて何よりだ」
そう言いながら身請けの契約書等を準備していく大旦那。
「ヒヨウ。それで、本当にその二人で良いのか?」
「あぁ」
「お前にはもう少し、華やかな人が良いと思うんだが……」
「いや、良いよ。銀等級冒険者なんて稼ぎは普通くらいだし、あんまりに浪費癖のある女性だとこれからが大変だしな」
「いやまぁ、そうなんだけど……」
「それに、同郷の二人だしな」
「極東だっけ?」
「あぁ」
「すれ違っただけでよくわかったな幼馴染の子供なんだっけ?」
「あぁ、凄く似てるからな」
「それにしても、どうして極東の子がここに来てるんだ?」
「わからないな、まぁ考えられるとしたら例のアレに巻き込まれたんじゃないか?」
「アレって?」
「勇者召喚」
「勇者召喚か……人が巻き込まれたなんて話、聞いた事無いけどな……」
「二人に聞いた話だといつもの転移陣に入ったら飛ばされてたって事らしい」
「それなら……あり得るか……」
極東は点々とした島国でその島々の行き来に転移陣を使ってるとは話に聞く、因みに冒険者ギルドは各支部に小さな箱までなら送れる程の転移陣の技術を使わせてもらっているとの事らしい。
(とは言っても、調べた限りじゃ異世界転移に使えるような代物じゃ無いんだよなぁ)
「まぁいい、これが奴隷契約書だ。源氏名は考えてるのか?」
「いや、まだだ」
「了解、そこは自分で書いてくれ。俺は契約の上書きの準備をする」
そう言って奥の部屋に入っていく、契約や書き換えは店の奥にある決められたスペースでしか出来ないようになっている。
「ねぇ、旦那様。さっき何を話してたの?」
「あぁ、二人の出自についてね。極東の島国、皇神国って呼ばれる所が出身と伝えてるよ。だから出身を聞かれたら皇神国出身と答えてくれればいいよ」
「わかったわ」「わかりました」
「おーい、準備できたぞ~」
大旦那が奥の部屋から顔を出す、それに応え二人を伴って奥の部屋へ向かった。
◇◆◇◆
それから契約変更を終えて娼館を出る、出る時に見送りに来たカトレアが凄い目つきでこっちを見てたけど、どうしてだろうか。
(今度、お礼がてら遊びに行かないと駄目かな……)
甘いものは高級品だけどこうなっては仕方がない、次の仕事の報酬次第ではご機嫌取りに買って近い内に行かねばならないようだ。
「そういえば、今どこに向かってるの?」
制服姿の細野さんが聞いてくる、蒼井さんも気になっている様だ。
「あぁ、自宅だよ。とは言っても使ってない部屋が多くて、二人がこれから住むし掃除はしないといけないけどね」
「お掃除ですか? お手伝いしますね!」
「ちなみに、どのくらい広いの?」
「えっと……6LDKくらいかな? バルコニーとかあるからもうちょい広いと思うけど」
「6LDKにバルコニーって、なんでそんな広い家なのよ……」
頬を引きつらせながら言う細野さん、まぁ言いたい事はわかる。
「えっと、元は俺が建てた家じゃなくて友人の商人一家の家だったんだ。でも、親父さんが昨年腰をやっちゃってな、それで地元の店を継ぐ事にしたんだよ。まぁ広い家だし店舗兼住宅って事で買い手がつかないってのもあって、昔色々助けて貰った恩返しで買い取ったんだ」
「「そうだったのね(ですね)」」
「という事で、二人は自由に部屋を使っても良いんだけど……」
「ほぼ使って無いのね」
「仕方ないですよ、お一人で暮らしてるのですから」
「という訳で、色々あって大変だと思うけど。掃除手伝って下さい……」
そう言うと、細野さんはやれやれと肩を竦めて、蒼井さんは嬉々として頷いてくれた。