第1話:色々とやらかしました。
「覚えてないのですか? 盗賊に襲われた時に、ボロボロの身体で馬に乗ろうとしたところを引き留めたんです。その時に蒼井さんと細野さんの名前を出して、『危ないと』叫んでいたんです」
あの時かぁ……誰かに引き留められたけど、冒険者だと思ってた……。
「それで、私考えたんです……最初に会った時に、クラスメイトの橋爪君が、ホウショウ先生にお二人の事を聞いた際に、すぐさま答えていて。それに、顔も知らない相手の事を、たった1週間で行き先を調べてましたので……」
(や・ら・か・し・た!! そうだよな……俺は二人の事知らないのに、すぐ娼館に売られたと答えてる、冷静に立ち返られると俺の言葉に穴があったのは明白だ……)
真っ直ぐな瞳で見つめられる、ここまで推理されてるとなると半分くらい本当の事を話してあげる方が誤魔化せそうである。通された席が半個室という事もあり、備え付けてある防音の魔道具を使って俺達の声を遮る。
「うぐっ……正直に言おう。あれからすぐに俺の友人で娼館主の協力を得て二人の居場所を突き止めた、それで買い戻す事に成功はしたんだが、二人の売られた先が不味くてな……」
「不味いって……そんなにひどい所だったんですか?」
「いや、最高級娼館といわれる所でね。二人を身請けするのに貯金から有り金、全部出してしまったんだ」
本当は色々とあったけど、大筋で嘘は言ってないので許してほしい。
「……っつ!! じゃあ二人は無事なんですね?」
「あぁ、その後はこっちで冒険者登録して、二人を鍛えている所だよ。帰還方法がわかった際に自分の身くらい守ってもらう必要があるからね」
「そうなんですか……よかったぁ……」
安堵した顔をしている西条さん、普段の訓練を明るく受けてくれてるけど、やっぱり気になっていたみたいだ。
(さて、ここからが本題だ……)
「でも、皆に伝えるのは待って欲しいんだ。さっきも言った通り今の俺は君達が売られても買い戻せるほどのお金は無いんだ、正直今二人を養ってるけど、そこまで余裕は無いしね。それに、城内での訓練は外の訓練よりも危険が少ないし生活費を稼がず衣食住を賄える場所で訓練に集中できる環境は凄く貴重だ」
俺の言葉に、深く頷いてくれる。今の所うまく誤魔化せてる様だ。
「それに、二人が俺の元に居る事、これは王宮側も知らない事だ。これを知られるとあらぬ疑いがかかって皆の講師から外されるかもしれないし、もっと監視や警備が厳しくなるかもしれない。一応国家機密だしね」
そう言うと驚いた顔をされる。そういえば教えて無かったか。
「それと、ここからが重要だ。この世界は死が隣り合わせの世界だ、油断や驕りが死に繋がる。皆の心の中に〝奴隷にされても助けて貰える〟なんて油断に繋がる事を思ってもらいたくない。それにさっきも言ったけど、お金が無いから他の貴族に買われたらそれこそ君たちの世界に帰るチャンスが無くなるよ」
今の所持金ならば、全員買い戻せるだろうけど。異世界人の奴隷を買い揃えるとかそれこそ王宮側にも目を付けられる、となると動き辛くなるし皆を返す事が出来なくなる。
(折角手繰り寄せた日本への手がかりだし、このまま一所に集まっててもらいたいしな)
「だから、この件は〝俺〟と〝西条さん〟だけの秘密だ、いいかい?」
そう言って微笑むと何故か顔を赤くする西条さん。まぁ、扉が無いとは言えオッサンとこんな近い距離だし、運動終わりだから汗臭くて息を止めてそうだしな。
「とまぁ、俺からの提案はこんなもんだ。吞んでくれないと正直困るし、俺だって自分の身が可愛いからな。いざとなったら二人を娼館に売って皆の前から消えるつもりだ」
そうは言うけど、正直はったりである。今クラスメイトにバラされると余計な騒動になるだろうから頷いて欲しいけど……。
「それって、私はホウショウさんの要求を吞むしか無いじゃないですか……」
「そうだね、でもその代わり。叶えられる範疇でならお願いは聞くよ?」
そう言うと、またもや顔を赤くする西条さん。なぜだろう……まぁ、お菓子とかだろうし安くは無いけど、口止め料としてなら仕方ない。
「じゃ、じゃあ……私と『デート』して下さいっ!!」
「へっ? 『デート』?」
何で!? いやいや、そんな素振りなかったじゃん!?
「えっと……あ、そうか! こうしてお菓子を食べに来たいって事か!」
「ち、ちがいます! いや、違わなくも無いんですけど……もっとこう、お出かけしたいなぁとか……二人で会う時間を作って欲しいなぁ……なんて……」
マジのデートである、そんな素振りなかったじゃん!?(二回目)
「その、俺って生憎だけど結婚してるんだけど……」
「えっ……」
何でそんなマジな落ち込みをするんだよ!?
「そ、そうですよね……ホウショウさんみたいなカッコいい人は結婚してて当然ですよね……」
なんか凄く罪悪感が……。
「うぅ……こうなったら皆にバラして……」
「あーわかった……流石に毎回は金銭的に無理だし、週に1回だけ。かつ、恐らく散策とかは許可が下りないからお店でこうして食べるだけになるけど。それで良かったら受けるよ……」
その言葉に、ずびずびと鼻を鳴らしながら顔を上げる。
「良いんですか? 冗談だったのに……」
「冗談で泣かれたら俺は人が信用できないよ。まぁ、奥さんには怒られるだろうけど。なんとかする……」
まぁ、ここならば一線超える事も無いし。
(事後承諾になるけど、三人に話さないとなぁ……)
カトレアは諸々の引き継ぎや準備が終わるまで来れないし、娼館側での大きな送別会をやる予定だから後でになるけど……。
(問題は奏さんと恵さんだよなぁ……)
頭を抱えつつ、喜んでいる西条さんへ再度口封じと釘を刺すのだった。
◇◆◇◆
「あの、ごめん二人共……クラスメイトの1人にバレた……」
夕食の席で俺が頭を下げると、二人共キョトンとした顔になる。
「まぁいつか……」
「バレると思ってましたわ」
「えぇ……そんなに隠し事下手かな?」
これでも冒険者として海千山千の交渉は……、ほとんどアインがやってくれてたんだった。
「うーん、下手じゃないのよ。でも、飛翔の事をよく見てると」
「なんとなくわかっちゃうんですね……」
「確か、よく観察されてたな……」
俺の言葉覚えてた位だし……結構見られてたんだな。
「それで、何がバレたの? あっちの世界の人って事?」
「えっと……二人が俺の元に居るって事」
俺は、バレた経緯と、極力誤魔化した事を伝える、すると二人は、ため息を吐きながらもニヤニヤしている。
「へぇ……飛翔がそう熱い言葉を言ったんだねぇ~」
「なんだか、凄く嬉しいのですが、とても恥ずかしいですわ……」
ニヤニヤとからかおうとしている恵さん、それともじもじしている奏さん、二人の反応が想像と違う。
「えっと……怒らないの?」
「いやね、怒ろうと思ったけど……」
「心から心配してくれた嬉しさのが、勝っちゃってるんです……」
(うーん……よくわからない……。だけどなんか頭の中で警報が鳴っている)
「えっと。もう一つあるんだ、実は……」
交渉の件で〝デート〟を持ち出され、渋々了解した事を伝えると、二人の目つきが鋭くなった。
「へぇ……」
「デートですか……私達もした事無いというのに?」
「た、確かに……。じゃ、じゃあ今度デートしよう!」
そう言うと、二人の目つきが少し柔らかくなる……が、やはり鋭くなる。
「まぁ、それはそれとして……」
「私達の匂いを染み付かせないと駄目ですねこれは……」
身体強化をした二人に腕を組まれ、力任せに振り解く訳にもいかず、そのまま寝室に連れ去られるのだった。