プロローグ:10年目の日常と俺の危機
前半部分は先のお話で、後半部分は現在のお話です。
目の前に立つは聖王国の第一騎士団長、シグルズ・フリート。ファーブニルと呼ばれる竜と人の混血種でありこの国で最強の存在だ。
「えっと……どうしてもやらないと駄目ですか?」
目の前に立つ、壮年の騎士団長に声をかける。
「あぁ、少なくとも王子様達の見ている前、かつ正式な試合だ。それに、国を救ったその力、私も見てみたいと思ったのだ……」
(あぁ、最悪だ……)
「こんなはずじゃなかったのに……」
恨めしそうな顔で第三王子様を見る、彼は非常に申し訳無さそうな顔をしていた。
「やるしか無いか……」
剣を構え直し、呼吸を整える……。
「はぁぁぁぁぁ!!」
全力の全力、限界突破が切れた時の反動なんて気にしない最速の一撃が相手へと吸い込まれていった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇???side◇
「ふぅ……思ったよりも使えなかったな。あの男……」
沢山の書類の前で、私は悪態をつく……今現在処理しているのは、各地方財政の収益と次期国王を承認する書類だ。
「そうでしょうか? 国王様の排除をしただけ上等かと……」
「フン、忌々しい平民出の猿を殺せなかった癖にか? それに、結局他の猿に打ち取られたではないか……」
「やはり第一騎士団長《天星級》を使うべきだったか……」
「流石にそれは無理があると……彼が抜けると魔の森への対処が怪しくなりますので……」
「そういえば、勇者とか言う使い捨て共の育成はどうなった?」
父上は召喚ですら拒否していたが、全く理解が出来ない。我が国の貴重な兵士よりも、使い捨てを呼び出してしまえばいいというのに……。
「はい、今回タルーセルが急いた為。討伐演習が中止となり滞ってしまいました、それにあ奴は盗賊を使い襲撃を仕掛けたそうで。国内の盗賊を処理するまで遠征の中止が決定してしまいました……」
その報告に頭を抱える、狡猾さと野心を持っているから使ったが、想定以上に女への執着が強過ぎたか……。
「所詮、勇者などどいう下賤の血が入りし男、全くもって余計な仕事を増やしてくれた……」
「はい、同時にギルドや娼館でも暴れたせいで、復旧するまでは税収がどうしても低下していまいます」
娼館からの税収が下がるとの報告があったのもそう言う事か……。
「それともう一つ、最高級娼館の最上級娼姫であるネリーニア・ユノネルが身請けされるそうです」
「ユノネル? あぁ、、我が国が併呑した弱小国だったか?」
エルフの国と深い親交があった故に、先々代の国王によって気まぐれに蛮族をけしかけられ滅ぼされかけた国か。その後私が幼き時に国としての体を保てなくなり我が国が併呑したのだったな。
「はい、そちらの姫君になります」
「相手は貴族《人》か? 平民《猿》か?」
「平民でございます、どうやら女としての機能を失ったそうで」
「そうか、ならば使い物にならないな。捨て置け」
「ただ、身請けをした相手が救国の英雄だそうで……」
傍仕えが出したのは、今王都で話題のとある冒険者《猿》の事だ。
「どうでもいいと言ったな? 所詮は猿だ何もできないからな」
「……畏まりました」
「全く……余計な手間を取らせるな、兄上はただでさえ書類などを気にせず物事を決めるから困っているのだ……」
まぁ、少しの間だけだ……目障りであれば何かにかこつけて処分すればいい……。
「父上の様にな……」
高貴なる血は私だけで良いのだから……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇ホウショウside◇
「はい、今日の訓練は終了、柔軟は忘れずにやれよー」
襲撃事件の二日後、俺はクラスメイト達の訓練を再開していた。
「ホウショウ先生つぇぇ……」
「クラス半分でも歯が立たないなんて……」
「そりゃそうだよな、あの盗賊たちをいとも簡単に倒してたし……」
今日の訓練の最期はクラスメイト達との模擬戦、盗賊の襲撃を目の前で見てた彼等は人に攻撃をする事に対してトラウマが出来たと思っていたが、存外と大丈夫なようだ。
(本物の敵意に触れる事で、みんなの意識は変わった感じがあるな)
このまま魔物と戦う時も躊躇しないでくれたら良いんだけどな……。
――ゴーン!――ゴーン!
「よし、鐘も鳴ったし先生も帰るわ」
「先生、少しよろしいですか?」
西条さんが声を掛けて来る、何かあったのかな?
「えっと、何かあった?」
「ここじゃ少し話しづらい事ですので……」
周囲に目配せをする西条さん、聞かれたくない話の様だ。
(とは言ってもここは王城だ、洒落たカフェなんて存在しない)
「そうか。外出して良いかブリゲルド殿に確認してくるから、少し待っててくれ」
「そ、そこまでは……」
「良いって、その内皆をお菓子の食べれるとこに連れてこうと思ってたし。ついでにその許可も取って来るよ」
そう話してブリゲルドの元へ向かう、道中何の話か分からなくて色々と考えてしまう事になったけど……。
◇◆◇◆
「さて、お手をどうぞ」
「は、はい。わぁ……!!」
貴族街の一角にあるカフェへ西条さんを連れて来る、一応ここなら監視もつけやすいとの事で許可を貰う事が出来たのだ。
店内はガラスが多く取り入れられ、店内は自然光で照らされていてそれだけでも高級感が凄い、しかも空調の魔道具が取り入れられていて店内は適温に保たれている。一応ケーキも存在してるのだが生クリームとかは無いのでシフォンケーキの様なものが基本である。
(ただし、滅茶苦茶に高いけどね!)
「とりあえず、俺だと西条さんの好きなものがわからないから注文は任せた。それと皆へのお土産用に選んでくれると嬉しい」
「わ、わかりました……」
可愛らしいゴシックドレスを纏った西条さんに声を掛ける、なんか凄い緊張してるけど、どうしてだろうか?
(そういえば、褒めて無かったな……カトレアにも「女の子が新しい服を着たら褒めるのよ」って言われてたな。緊張してるみたいだし、この後話しやすくする為に、緊張をほぐしておくか……)
「そういえば、西条さん。その服似合ってるね、まるで貴族のお嬢様みたいだよ」
「!?!?!?!?」
ポンと鳴りそうな感じで顔が真っ赤になる。
(あ、あれ? なんか想像と違う? なんか、逆に緊張させちゃった感じが……)
「あのぉ……ご注文よろしいでしょうか?」
「ひゃい!?」「あ、すみませんとりあえず、ケーキと紅茶の合わせを二つお願いします」
「はい、ケーキはどちらの種類に致しますか?」
「えっと、俺はお任せで。西条さんは?」
「えっ、えっと……木苺でお願いします……」
「畏まりました。お後ご注文はありますでしょうか?」
「えっと。持ち帰りで20個ほどお願いしたいのですが。大丈夫ですか?」
「20個!? かかか、確認してきます!!」
そりゃそうだよな20個とか金貨数十枚にもなるし、そんなに注文するのなんて貴族位だもんな。こんな平民の恰好をした冒険者が頼むなんて思っても無いだろう。
それから店長さんらしき人が出て来たので、支払い出来る事を伝えると数が足りないのでクラスメイト達の分は後で王城に届けてくれるそうだ。
「という訳で、ケーキも食べたし。話って?」
俺がなるべく緊張させない様に話を切り出すと、少しの間沈黙していた西条さんが意を決した様に俺を見た。
「ホウショウさん、蒼井さんと細野さんとどういう関係なんですか?」
「へっ?」
今、彼女は何を言った? 何で二人の名前を?
俺が混乱していると、彼女の瞳が俺をしっかりと捉えるのだった。




