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第51話：幕引き

「わかった。二人共、任せたよ」

「えぇ、任せなさい！」「はい、任せて下さい！」

二人との作戦会議を終えた俺は一人リオルへ向かう。操られてるがこれは〝狂化〟と言っていい状態だ。

（厄介なのはタルーセルがあの状態という事だな……）

ネファキュルが最期になっていた状態の高速再生＆魔物化した状態だ、先程吹き飛ばした手も再生されている。

「くそっ……リオルの身体を無茶苦茶に使いやがって！！」

脚は潰れ、腕も片方が千切れかけていてあまりに痛々しい……。

「ごめんな……今、楽にしてやる……」

数合の打ち合いを重ね、痺れを切らしたタルーセルが吠える。

「なぜゴロゼない！　死にぞこないなのに！！　くゾォ！！」

リオルが大振りに構える、剣術や戦いに慣れてないタルーセル故の焦りと油断、その一撃が致命的な隙になる事を知らない。

「今だ！　二人共！！」

大振りの一撃を〝左手〟で受ける、肉と骨が裂け強烈な痛みで脳が危険信号を出す。

「リオル、お前凄い奴だよ……操られたとはいえ最高の弟子だ……」

「ぜん……ぜい……」

リオルの目がこちらをしっかりと捉え、一瞬光を取り戻す。

「だから、そんなお前をこれ以上苦しませない！」

リオルなら〝絶対〟にしない〝油断〟をした攻撃、その攻撃により隙の出来た片手を斬り落とし、剣を空中に置く。

「後は、任せた……恵」

「任されたわ！！　はぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」

恵さんの魔力が魔銀《ミスリル》に行き渡り、剣が煌めいた、その瞬間リオルの首が飛び、繋がってた魔眼の力から解放する。

「んなぁ……僕の最強の駒が……うぎゃああああああああ！？」

強制的に繋がりを切断したからか、タルーセルが絶叫を上げる、潰れた目から血が溢れのたうち回る。

「これで……終わりだぁ！！」

残していた限界超越《奥の手》を使い距離を詰めたタルーセルを〝拾っていたリオルの剣で〟両断する、吹き飛んだ塊がギルトの壁に突き刺さり動きを停止する。

「がはぁ……これで……終わりか……」

連戦で魔力と血を出し過ぎた……気合で立っているが今にも倒れそうだ。

「飛翔さん！！『見えざる生命《いのち》の光輪《こうりん》よ、廻《まわ》れ廻《めぐ》れ。その力は命の環《わ》に白き軌道《みち》を繋ぎ。すべての傷を癒す清らなる雫となれ――天樹の落露(てんじゅのらくろ)！』」

駆け寄って来た奏さんが回復魔法を使う、魔力で編まれた糸が切れてぶら下がった腕を治療していく。

「ありがとう……リオルは？」

「ばっちしですわ、今は治療も終えて息もあります……」

「そうか……よかったぁ……」

思わずへたり込みそうになる所を、奏さんが支えてくれる。

「すみません、わたしも魔力が限界で……」

「助かったよ、奏さんが居なかったらこの作戦が成功しなかったから」

「何よー、それだと私がいらないみたいじゃない～」

その言葉と共に、もう片方の肩が軽くなる。頬を膨らませた恵さんが拗ねたように言ってくるが、倒れないようにしっかりと支えてくれている。

「そんな事無いよ、この土壇場で恵さんの力が覚醒したからこうして大切なものを失わずに終えられたんだ、それこそ二人が居なかったら俺は沢山のものを失ってたからね」

思わず二人を抱きしめようとしてバランスを崩す、恵さんも踏ん張れなかったのかそのまま倒れ込む。

「「きゃあ！？」」「うわぁぁ！？」

「ちょっとー飛翔、重いわよー」

「ご、ごめん……すぐにどくから……っと！？」

立ち上がろうとした瞬間、奏さんに引かれ二人を押し倒す形になる。

「そんな、夜とはいえ戦いが終わってすぐには〝大胆〟ですね……」

「い、いや……流石にそんな事は！？　野外だし！！」

「ふふ……」「あはは……」

狼狽える俺に、二人が笑い出す。今思うと、この二人が来てから笑う事が沢山増えたな。

「全く……からかわないでくれよ……ふふっ……」

どこかおかしくなり、三人で笑い合う。気付けば空も明るくなってきた。

「さて……皆を起こして片付けしちゃおう」

その瞬間、ぞわりと総毛立つ感覚がした。

「まさか……」

二人は気づかないようだったが、悪寒がした方へ振り向くと身体を再生したタルーセルが逃げ去るのが見えた。

「アイツ……まだ生きて……あぐっ！！」

「飛翔！」「飛翔さん！」

限界突破の反動が来た……全身に痛みが走り動きが停まる。

「くそ……タルーセルの奴、まだ生きてやがる……」

「えっ！？」「なんですって！？」

「奏、無理矢理で良いから治療魔法をかけてくれ……俺が追いかけないと……」

「無理よ、それなら私が……」

恵さんが走り出そうとする中、手を強く握り引き留める。

「駄目だ、恵さんは地理に詳しくないし。向かった方角は王城だ……」

「でも、飛翔のその身体じゃ……」

「ふふっ……ここは私の出番の様だね……」

ボロボロになったギルマスがこちらにやって来る、ギルマスも戦ったのか所々破れたり出血した跡がある。

「ホウショウ、君にこれを……」

空間収納《アイテムボックス》から小さな小瓶を取り出す。

「ギルマス、これは一体……」

「本物のエリクサーだよ。２００年物だけど本物の勇者が作ったものさ」

それって凄く希少なんじゃ。それに、ギルマスだって酷い傷なのに……。

「心配そうな顔をしないでくれ、これは勇者に最適化されたもので。君のような子達の為に作られたんだ」

そう言うギルマスは慈しむ様な目で俺を見て微笑んでいる。

「君の素性は君の師匠から教えて貰ってたんだ、俺と同じ〝異世界人〟だからもしも何かあれば助けてあげて欲しいって」

「そう、だったんですね……」

今はどこに居るのかも分からないし、厳しい師匠だったけど……。

「今度会ったらお礼を言わないとですね……」

「そうだね、彼の喜ぶ顔が目に浮かぶさ。さぁ、飲んでくれたまえ」

ギルマスから手渡される小瓶を取ろうとするが、上手く力が入らない。

「もう、仕方ないですわね旦那様は……」

「「……！？」」

横から小瓶を取った奏さんが口に含み、口移しをしてきた。

「あぁ～ずっるい！」

「はい。恵ちゃんも」

残り半分程入った小瓶を手渡され、流れるような動作で口移しをして来る恵さん。

「んんっ！？」

二人から口移しをされたエリクサーによって、魔力が溢れて来る。

「これなら、行けそうだ」

「私《わたくし》も皆さんの治療を十二分に出来そうです」

奏さんもエリクサーのお陰で元気になった様だ。

「飛翔、これを……飛翔の剣とギルマスが渡してくれたアミュレットに私の力を込めたわ持って行って」

恐らく、魔法を破壊する恵さんの魔力を付与されたのだろう、これなら確実に止めを刺せるはずだ。

「ありがとう、行ってくるよ」

「ぶるるる……」

目の前に現れた白い大きな影、先程帰したはずの馬が待ってましたとばかりに、視線を向けて来る。

「ホウショウさん！！」

「エルヴィール夫人！　それに爺やさん達も！！」

「何やら、その子が私達に来て欲しそうだったので、追いかけてきました！」

少ない兵士達を連れてエルヴィール夫人がやってきてくれた、どうやらこの子が呼んで来てくれた様だ。

「そうだったんですね……ありがとうな」

「ぶるるる！」

鼻を摺り寄せて頬摺りして来る、そのまま馬に乗り皆の方を向く。

「行ってくる！！」

皆の返答を待つ前に、走り出す。どうせ帰って来るのだからこれだけで十分だ。

◇◆◇◆

それから、城まで一気に街を駆け抜ける、夜明けの時間で人が少ないのが幸いしてかものの数分でたどり着いた。

「これは……酷い……」

城門は破壊され酷い有様だ……瓦礫となった城門を器用に飛び越え王城内へ入り込む。

「ちょ！？　さすがに不味いってぇ！？」

止めようとしたが階段を駆け上がり廊下を駆けていく、すれ違う兵士がぎょっとするが意にも介さずこの子は走り抜ける。

「仕方ない……後で怒られてやるから任せた！」

分かったとばかりに速度を上げる、そして壊された城壁と扉と倒れた兵士達が見えて来た。

「あそこだな！　ありがとう！！」

部屋に飛び込むと、タルーセルが王を捕らえようとしていた。

「タルーセル！　お前の狙いは俺じゃないのか！！」

「グガが？　ホウジょう？　グハハ！？　ギゃハはハ！！　ボグはあだマガいイからな！！　お前をジョくせヅごろずよリも、俺が王になりお前をジョ刑し女をアヅめればいイのだぁァぁぁ！！」

その言葉と共に、王が串刺しにされる。駆けつけてきた兵士達が悲痛な声を上げる。

「ギャハハハ！！　ボグが！！　ぼグがこのグニの王だああ唖亜ああああああ！？」

握り潰された王が窓から捨てられ、気色の悪いぎょろぎょろとした目がこちらを向く。

「救えない奴だな……」

打ち過ぎた薬のせいなのか、はたまた叶わない夢想を見たのか知らないが緩慢になった触手を避け、隙だらけの身体へ剣を滑り込ませる。

「ぺひゅ……？　あれレ？　何でボくの身体ガ？」

「もう終わりだよ……消え去れ」

恵さんの魔力によって絶たれた身体が崩壊していく、後には元のタルーセルの首が転がっていた。

「これで、やっと終わったな……」

後処理は兵士達に任せ、俺はギルドへ戻るのだった。