第50話:タルーセルとリオル
◇タルーセルside◇
「ふふふ……これで忌々しいホウショウともおさらばだ」
僕が考え出した最高の戦術は、異世界人のガキ共と向かう討伐訓練、その最中に盗賊を使い夜襲をかける事。そして護衛の騎士は全員こちらの味方、都合よく全員を洗脳する事が出来た。
「しかし僕も運がいい……聖王国の騎士団が殆ど出払うとは……」
ネファキュルの件は致命的だったが、偶然にも事が上手く運んだ、まさか騎士団が各地の抵抗貴族へ向かってくれたお陰で僕が動きやすくなった。
「それに、土壇場で得たこの【傀儡の魔眼】のお陰で、ネファキュルに更には第三騎士団長が手に入るとはな!!」
それにネファキュルが渡してきたこのクスリを使えば第三騎士団長は人を超えた存在になるらしい。
「これがあればあの忌々しい国王をも抹殺する事が可能……さすればこの国はわが手に……」
思わず笑みが零れてしまう。
「さぁ……そろそろ僕も僕の性奴隷《花嫁》を迎えに行かないと!」
にふふ~結婚式だもんなぁ~タキシードを着ないとなぁ~。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇ネモフィラside◇
「うにゃぁぁあ!?」
「サリアさん!!」
私は飛んで来たサリアさんをキャッチして傷を治療する、複数の切り傷を縫合する様に魔力を伸ばし傷を一瞬で塞いでいく、向かって行ったギルドマスターさんを含む冒険者の皆さんは全員返り討ちにされてしまった。
「ありがとうにゃネモフィラ。アイツ、強すぎるにゃぁ……」
「そうですねサリアさん……それにしても……」
「くぷぷ、ついでに子猫ちゃんも居るかぁ~さっき捕まえたエルフと一緒に、僕のお嫁ちゃんにしてあげりゅ♪」
「「「アイツキモ過ぎる(ますわ・にゃ)!!」」」
昔、映画で見た様な異星人を彷彿させる膨らんだ体、目は飛び出てぎょろぎょろとしている。
「なんだとぉ!! 僕がキモイ!? この至高の身体のどこがキモイのだ! リオル! 殺さない程度に痛めつけなさい!!」
「うがぁぁぅ!!」
「にゃにゃにゃ……ぎゃう!?」
「はぁぁ!! ネモフィラ、逃げて!!」
殴り飛ばされ、ゴロゴロと転がり気絶するサリアさん。すかさずカバーに入った奏ちゃんが攻撃を防ぐ
「ミモザちゃん……駄目だよ!!」
「逃げるの!! 異変が起きてるなら旦那様が戻って来る! だから異常事態を知らせて!!」
「きゅぷぷ、だからぁ! ホウショウはもうこの世にはいないっつーのォ!!」
「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大振りの一撃、戦闘経験の少ない私でもわかる……あの一撃は受けたら不味いという事が。
「恵ちゃん!! 駄目ぇ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇ホウショウside◇
「はぁ……はぁ……はぁ……」
騒然となっていた城門を金等級のギルド証と聖勲章で強引に通してもらう。
「ぶるるる……ぶるるる……」
「ごめんな、もう少しだから!」
野営地から王都まで2時間、身体強化を与えながら全速力で駆けて貰った為か、この子ももう限界だ……。
(あの角を曲がれば、ギルド前の大通りだ!)
曲がった瞬間、閃光が走り魔力が吹き荒れた。
「一体なんだ!?」
強化した視界で暴風の中心地を見る、リオルの攻撃を恵さんが必死に食い止めている。
「ありがとうな、ここからは危険だから、後はご主人様の元に行くんだぞ」
乗って来た馬の尻を叩く、独りでに走り出した馬は貴族街の方へ向かって行った。
「まずは、あれを止めないとな!」
身体強化して一気に距離を詰める、リオルを蹴り飛ばし恵さんを抱える。
「んなぁ!? 貴様どうしてここに!!」
振り返ると、以前娼館前で問題を起こしかけた、見覚えのある顔の貴族が居た。
「タルーセル……お前が、お前がこれをやったのか!!」
俺の言葉に顔を赤くしたタルーセルが吠える。
「何故ここに居る!! ネファキュルは!? まさか殺したの――ぃぎゅぶ!?」
「こっちが質問してるんだ!! お前の質問は聞いてねぇ!!」
思わず殴り飛ばしていまい、ぶよんぶよんと音を立てて転がっていく。
「お前ぇ!! 高貴な僕をななな、殴りやがったな!!」
「高貴だが何だがしらねぇが、今のお前はモンスターだぞ」
「なんだとぉ!? まぁ良い……貴様も手駒にしてやる【傀儡の魔眼】ホウショウ、貴様は我が下僕となれ!!」
タルーセルの目から出た魔力が俺を包むが……特に何も起きない。
「やった! やったぞ!! 遂に憎いホウショウを潰した!! ぶぎひひひひいぃぃぃぃ!?」
思わず殴り飛ばしてしまった(二度目)
「ななな、なじぇ!? なじぇ発動しない!!」
「知らないよ」
「たたっ、助けろ〝リオル〟!!」
タルーセルの目が再度光る、すると倒れて居たリオルが吊るされた人形のように起き上がる。
「がぁぁぁぁぁ!!」
「クソッ! リオル、お前!!」
「がぁぁぁがぁぁぁぁぁぁ!!」
まるで狂戦士の様に暴れながら剣を振り回すリオル。暴れてるとはいえ流石は第三騎士団長、太刀筋が凄く綺麗だ。
「ぐぬぬ、なぜ殺せない!! リオル、もっと力を出せ!!」
「ぎゃああああああああ!!」
筋肉がブチブチと音を立てながら剣を振るう、身体強化に加えこの膂力は異常だ。
「いい加減! 目を覚ませ!!」
「ぎゅっふ……」
大振りを誘い、回避してから思い切り殴りつける、吹き飛んだリオルだが立ち上がれない、どうやら大事な腱が千切れている様だ。
「その魔眼とやらがリオルを操ってるんだな……」
タルーセルに向き直る、魔力的なつながりがあるのなら魔法の発動元を破壊するのが一番だ。
「だからどうした!! 貴様が死ぬことには変わりない!!」
タルーセルが注射器を自分に打つ、中身はネファキュルが持っていた物と同じな様で、タルーセルの魔力が膨れ上がる。
「ぐぅぅ……魔力が強くなればそれだけ操る相手も強くなるって事か……」
「がぁぁぁァ!!」
「ぐはっ……」
リオルの拳が入る、意識が持っていかれそうな位の一撃で視界がチカチカする。
「流石、第三騎士団長だな!!」
「ぎぎゃあぁぁ!!」
「はぁ!!」
剣の攻撃は剣、拳の攻撃は拳、脚の攻撃は脚で、互いに打ち合い防ぎ、斬り合っていく。
「リオルぅぅぅぅ!!」
「がぁぁぁぁ!!」
甲高い音がして虹色の火花が散る、魔銀同士の鍔迫り合いで互いの顔が照らされる。
(クソッ、さっき使った限界超越《奥の手》のせいで魔力が上手く流せない!!)
こうなったらもう一度無理やりにでも限界超越《奥の手》を使うしか無いか。
「ぴょほ!? リオル、折角をクスリをやったというのに貴様ぁぁぁ!!」
「うるせえ!!」
以前馬車暴走事件の時に持っていた暗器を投げつける、今思うとこの塗られた薬物ももネファキュルが作ったものだろう。
「ぎゃああああああ!? 腕がぁ! 僕の腕がぁ!!」
左手首から先が吹き飛んだタルーセルがゴロゴロと転がり悲鳴を上げる。
「ぐぎゃっ……あがががが……」
「リオル!」
頭を押さえ呻き出すリオル、タルーセルにダメージを与えたから傀儡の魔眼が切れかかってる?
「飛翔ぁ!!」「飛翔さんっ!!」
駆け寄って来た二人を受け止める、無事でよかった……。
「飛翔! 聞いて!!」「飛翔さん! 聞いて下さい!!」
「ふ、二人して喋られても! 聞き取れない!!」
「そ、そうね……」「そうですね……」
仲いいな! とりあえず恵さんから促す。
「あのね、多分だけど私の力。わかったの」
「力?」
「うん、奏みたいな凄い力」
「そうなのか、聞いても良いか?」
「えぇ、もしかしたらリオルを助けられるかもしれない……」
「私もです、恵ちゃんの力が私の推測通りでしたら。作戦があります!」
「わかった、でもまずはっ!! 避けないとなっ!」
復帰したリオルの攻撃を二人を抱え避けていく、先程と違い精彩を欠いている。
「二人共、手短にな!」
「「はいっ!!」」




