第48話:夜襲
「さて、食材も積み終えたし出発しようか」
「「「「「おお~!!」」」」」
ハウリングベアの肉を処理し終えた後、今夜の野営地を目指して出発する。
「流石ですねホウショウさんは」
「えぇ、あそこまで最小限の攻撃で仕留めるなんて私達じゃ出来ないわ」
「魔法も凄い綺麗でしたし、威力も凄かったです!」
冒険者達は解体途中に初めて見た時の様に声をかけてくる。と思ったけど、依頼の殆どがアインとだし、護衛依頼で魔物は追っ払ってるせいで、他の冒険者に一人での戦闘シーンを見せるのは中々ないもんな。
「皆も、ちゃんと対策できればあれくらい出来るだろ?」
「いえいえ、俺達は一人で全部は出来ませんよ」
「そうです、ハウリングベアの正面に立つのだって結構怖いんですから!」
「それに、動きながら短縮の詠唱であの威力。本当に凄いです!」
「いやいや、剣技も素晴らしいだろ。あのハウリングベアの足を一撃で切り落とすなんて武器が良くても出来ないよ」
普段タンク役をやっている冒険者が力説する、俺も足の腱を切るだけを狙ったんだけどね、綺麗に斬れたのは驚きだった。
「ホウショウさん、それって魔銀ですか?」
「あぁ、ちょっと昔に機会があって魔銀が手に入ったからねその時に作ってもらったんだ」
あくまで第三王子様から貰った事は伏せて適当に入手理由を答える。
「凄い……あれだけ戦ったのに血が付いて無い」
「そりゃ、拭ってるんだからしないだろ。すみませんホウショウさん」
魔術師の子が不思議そうに剣を見て来る。確かにこの剣、返り血が殆ど出ないし、血油が付かないんだよね。昔見た魔銀のナイフはここまで綺麗じゃなかったもんな。
「まぁ、名工のドワーフが作ったからね。普段使いには向かないけど大物を倒す時とか公の場に出る時には使える良い剣だよ」
「確かに、細工も素晴らしいですね……あっ、こちら終りました。血抜きも済んでるので美味しく食べれますよ」
若干白っぽくなった肉だが、しっかりと血抜きが済んだ証拠なので問題は無い。
「ありがとう、布と縄を出すから馬に括りつけよう」
空間収納から、布と縄を取り出して巻いて行く、後はそれを数個繋げて馬に乗せれば問題無いだろう。
「さて……それじゃあ俺はあの子達の様子を見て来るよ」
グロッキーになった皆が遠い目をしている、討伐のステップとして肉の解体を見せたけど、刺激が強かったみたいだ。
「お坊ちゃま達ですね……まぁ最初は仕方ないですよ。俺も駄目でしたし……」
「俺もだよ、まぁ2回目には慣れたけど……。騎士の人が帰って来たら呼んでね」
「了解しました!」
解体現場から少し離れたところにクラスメイト達は居た、中には顔を青くしている者も居る。
「皆、どうだった……と言っても気分が悪そうだね」
「「「「「…………」」」」」
「質問良いかな? 君達はどうして気分が悪くなったんだい?」
俺の質問に、顔を上げる子達。肝心なのは戦闘を見てなのか解体現場を見てなのかだ。
「それじゃあ、戦闘で気分が悪くなった人」
誰も手をあげない、これは予想外だ。
「じゃあ、解体……肉になる方が駄目だった人」
ほぼ全員だ。根本的に両方大丈夫だった人も居るけど、それは置いといて。
「解体は慣れてもらうしかないかな? うん、頑張れ」
そう言うと、嫌そうな顔をする皆。慣れない内は嫌だろうな。
「さて、それじゃあ。実戦を見て聞きたい事がある人は?」
顔を青くしたクラスメイトの藤本君が手を挙げる。
「はい、藤本君」
「先生は、戦いが怖くないんですか?」
恐怖が混じった目で俺を見て来る、まぁ初めて見た魔物があれじゃ滅茶苦茶怖いだろうな。
「そりゃ怖いよ、だって自分の倍……は無いけどあんなに大きな魔物だよ? 攻撃受けたら痛いし死ぬかもしれないし。常に恐怖と隣り合わせだよ」
今回みたいに攻撃パターンがわかってる敵ならいざ知らず、未知の敵とか常にひやひやして戦ってるし。
「じゃ、じゃあどうやって恐怖を乗り越えてるんですか?」
「簡単だよ、後悔したくないから。君達の世界でも害獣に人が襲われて喰われたなんて事件あるでしょ? もし逃げて、それで被害が出たらさ。ずーっと自分があの時倒さなかったからだ、見逃したからだって思っちゃう、それで心が壊れそうになるんだ」
俺は一度だけあった、新人の頃自分が倒せなかった魔物から逃げ帰った先の集落、救援を呼んだ先輩冒険者が来る夜明けまで。入り込んだ家の片隅で村の住民が襲われ食い殺される様子を聞いていた事がある。あの時の悲鳴や魔物に食われる人々の音は未だに思い返せるほど耳にこびりついている。
「だから、そんな後悔を無くすために、戦う事の恐怖に慣れたんだ。まぁでも、恐怖って一番重要な感覚だから無くさない様にね、実際戦う所を見て気持ち悪くなった人は居ないでしょ?」
俺の言葉に一同頷く。
「うん、だったら大丈夫。君達は恐怖に打ち勝てるよ」
「ホウショウ殿!!」
話を区切った所で分隊長の声が聞こえてくる、どうやら農家への分配も終わった様だ。
「それじゃあ、再出発だ。時間食われちゃったけど、夕方には野営地に着くから頑張ろう!」
その後は、道中魔物とも会わず、幾人かの行商人と会う位でスムーズに野営地に到着した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「…………敵襲か」
夜警の交代で休んでいた最中、瞑っていた目を開く、音を聞くにこれは……。
「お前達、裏切りか……」
鎧を纏った騎士たち、がこちらを見て驚く。一人の騎士の下には分隊長が血にまみれて倒れている。
「く、クソなんで起きてる!!」
「しらねぇ! 休んでたんじゃないのか?」
「まぁ良い、こっちの人数のが遥かに多いんだ! やっちまえ!!」
――ピーッ!――ピーッ!――ピーッ!
笛を鳴らすと、闇から次々と盗賊たちが現れる。
「敵襲だ!! 全員、戦闘準備!! 冒険者達は子供を守れ!! 子供達は馬車に逃げ込め!!」
騒然となる、野営地。襲い掛かって来る騎士たちを泣き別れにして、状況を確認する。
最近できるようになった魔力感知で調べると。うっすらと感じる敵の数は約50人、俺達を取り囲むつもりだったのか冒険者達の方には敵がいない。
「敵は正面、だいたい50人程だ!!」
「ご、50ですか!?」
「何て数なの……」
「皆、起きろ起きろ!鎧着けて馬車に乗り込め!!」
冒険者の皆がクラスメイト達に指示を出してくれる、今の内に俺は向かって来る連中を倒さないとな。
「はあっ!」
「ぎゃう!?」
「きえええええい」
「甘い!!」
「死ねぇ!!」
「お前がな!!」
突っ込んでくるだけの騎士を切り捨てる、魔銀の剣のお陰で柔らかい物を斬るように鎧ごと斬っていける。
「クソが!! 魔術師隊、あの冒険者を狙い打て!!」
魔力の光が見える、折角暗闇なのに位置がバレバレじゃ無いか。
「はぁっ! 『我が手に現れ敵を貫け——氷槍乱舞!!』」
50cmくらいの氷の槍を作り出して投げつける、身体強化で速度の上がった槍は詠唱中の敵ごと木に縫い付けられる。
「クソ、何だアイツ!!」
「なんて強さだ……」
「誰か、アイツを殺せ!!」
檄を飛ばす、盗賊団の首魁、アイツ殺せば指揮系統は壊れるか?
「悪いな、どいてくれ」
敵を斬りながら死体を踏んで跳躍する、そのまま馬に乗ってる首魁の首を斬り落とす。
「ひぃぃぃ!?」
「ば、バケモンだ!!」
「たす、たすけ、ぎゃあ!?」
「逃がすかよ、盗賊なんて人の命や財産を散々奪ったんだ、自分の番が来たと思って諦めろよ」
「じゃあ、次は君の番だねぇ!!」
フードを被った男が、俺の前にいきなり飛び出して攻撃を防いできた。




