第47話:実戦を見せる
聖王都を出発して3時間、馬の休息の為に街道脇に馬車を止めて休憩を開始する。
「ホウショウさん、この馬スゲーですよ!」
「そうね、今まで乗った馬とは全然違うわ」
「流石ですね、エルヴィール男爵領の馬は」
冒険者の皆が喜びながら馬を操っている、騎士たちは呆れた目で見ているが、冒険者が滅多に馬に乗らない事を知っているので黙っていてくれてる。
「ほらほら、今は馬の休息なのに走らせたら駄目だろ。降りて手入れをしてあげな」
冒険者に指示を出してから騎士側の分隊長に声をかける。
「すみません、燥いじゃって……」
「構いませんよ、エルヴィール男爵領の馬に乗れば、走り出したい気持ちはわかりますから」
ニコニコと笑う分隊長、話を聞くと分隊長も馬が好きとの事である。
「さて、調子が悪くなってる人は居ない?」
最初の馬車に呼びかける、板バネはあるけど根本的に道が悪いからな。
「あーはい……大丈夫です……」
明らかに大丈夫じゃ無さそうな声が帰って来る、中を覗くと顔を顰めている子が居る。
「まさか、酔った?」
俺の言葉にオタク三人衆の1人、小林君が頷く。
「大丈夫じゃないじゃないか……ほら一旦降りて」
手を貸して地面に下ろす、そのまま少し離れた所に座らせて休ませる。
「ヤバかったら出して良いからな、俺は他に調子が悪い人が居ないか見て来るから」
「……っつ(こくこく)」
頷いてる間に他の馬車を確認していく、運悪く調子が悪くなってたのは小林君だけでそれ以外は大丈夫そうだった。
「とりあえず。これ、酔い覚まし用の薬」
緑色の丸薬を手渡す、くっっっっそ苦いけど効果は良いらしい。
「ありがとうございます……苦ぁぁぁ!?」
あまりの苦さに悶える小林君。後は、酔いづらい御者台に乗せとけば大丈夫かな? 代わりに尻は痛くなるが。
そしてそれから休息を終えて出発する。一応今日の野営予定地までおおよそ半分なのでこのまま順調にいけば問題無いだろう。
「しかし、王都近郊の穀倉地帯は相変わらずに広いなぁ……」
小高い丘まで来ると、四方八方に畑が広がる、道はあるのだが小さく見えるので物凄く広いのがわかる。街道脇には小麦が栽培され1.5キロくらい奥の方に向かうとトウモロコシが栽培されてる、たまにトウモロコシ畑の背の高さから魔物が居たりするので依頼を受けた冒険者か駐在している騎士が間引きや哨戒をするのだ。
「ん? あれは……」
よく見ると遠くでトウモロコシ畑が揺れている、ここから見える距離であの揺れだと大型の獣か魔物だろう。
「普通こんなとこに来ないだろ。分隊長に知らせて見て来るか……」
馬を走らせ、分隊長の元に向かう。すると分隊長も兵士と何かを話し合いっていた。
「分隊長殿、良いですか?」
「ホウショウ殿、やはり気づかれましたか……」
「えぇ、あの揺れと影が気になりますよね?」
気まずそうな顔をしている分隊長へ返す、ここ最近の王都のグダグダで発見が遅れたのだろう、駐在や哨戒は騎士や兵士が主に行う仕事だし、今から冒険者に駆除依頼となると王都に引き返さないといけない。
「恐らく、熊型の魔物だろう。ここら辺だとハウリングベアかキラーベアのどちらかだ」
「……うーん、意外と厄介ですね。青銅級じゃ人数は居るし。銀等級を呼んで来るとなると逃げられかねない……」
「そうです、誰か一人を伝令と見張り役に置いて行こうと思いましたが。こちらの仕事の方が重要ですから、悩ましい事です」
だろうな、まぁ一匹とは考えづらいし、かといって王都まで寄られても困る。
「そうですね……討伐訓練には向かない相手ですし。ここはサクッと片付けてきます」
「良いのか?」
「はい、皆にも戦闘というものを見てもらう良い機会ですし。すみませんが小麦畑の中は馬で走っても?」
「あぁ、構わない。農家への補償はこちらで賄おう」
「ありがとうございます、それじゃあ皆を外に出しますか……」
◇◆◇◆
それから全員で馬車の外に出て貰い説明を始める。
「えっとね、今からあそこに居る魔物を倒してくる。皆には遠いだろうけど身体強化を使えば見えるからさ」
「「「「「えぇ……」」」」」
さらっと言うと、唖然とされた。そういえばこの距離だもんな、こっちに来たばかりの皆じゃ普通には見えないのか。
「じゃあ行ってくるね、ちゃんと見とくんだよ~」
馬を走らせ一気に進む、近くまで来たところで馬から降りて徒歩で進んで行く。
「やっぱりハウリングベアか」
大きさ3メートル越え、近づけば耳が出ているのが丸わかりだ。
(少し、血の匂いもするか……野生生物を食ってるのであれば良いけど、近隣の住民とかだったら目も当てられないな)
魔銀の剣を構え、魔法の準備をする。気配は魔物のみ、まずは視界を確保しないとな……。
「『風よ、その力で障害を切り掃え!——旋風!』」
「グギャアァァァァ!?」
鮮血が飛び散り、ハウリングベアが悲鳴を上げる、あまり農作物に被害を出さないようにした結果浅く傷がついただけだ。
「おーおーこれはこれは」
沢山食べたのだろう、でっぷりと大きく膨れた巨体がこちらに向き直る。
「これ以上は被害が深刻になるからな、悪いがここで倒させてもらうよ!」
「グゥ……ガァァァァァァァァァ!!」
「遅い!」
ハウリングベアと言う名はこの魔獣が使う風魔法から来ている、吸い込んだ息に魔力を乗せ砲弾の様に口から吐きだす。当たった相手は骨が折れたり鼓膜が破れたりとかなりのダメージを負う、予備動作があるのだがそれを知らない冒険者が受けてしまうのだ。
そんな攻撃だが直線的なので見切れれば避けるのは簡単だ。
「悪いな! まずは動けなくなってもらうぞ!」
身体強化を発動し一気に背後に回り込む、ハウリングベアは背後に回れば攻撃が殆ど来ない、振り回す腕に当たらなければあまり怖くはない。
「はぁっ!」
吸い込まれるように魔銀の剣がハウリングベアのアキレス腱……どころか足を両断する。
「グギャァァウゥ!?」
「凄いな。魔力込めないでもこれだけの切れ味とは……」
恐らく鍛冶師の腕もいいのだろう俺の剣よりも数倍は綺麗に切れてしまう。
「よっと……次は!」
倒れ込むハウリングベアに追撃を与え片肘から先を切り落とすと、悲鳴を上げのたうち回る。
「さて……『荒ぶる土塊よ、鋭き豪槍となりて敵を貫け――ストーンランス!』」
土で作った槍を降らせる、残った手足を貫き、ハウリングベアの動きが完全に止まる。
「最後は、止め!」
魔力を注いだ魔銀の剣で頸を切り落とす、これで討伐は完了だ。
「後は、周囲にいな……居ないか」
隠れられそうな場所、奥からこちらに食べ進めてたので、通った道が開けている。
「本当によく食ったな……それとこれはゴブリンの骨と猪の頭か……」
両方とも燃やして砕いてから土に埋める、これならば畑の肥料になってくれるだろう。
「さて、後はこいつだけど……どうするか……」
ハウリングベアの毛皮はそこそこ良い値段になる、とは言ってもこの大きさは邪魔なのでそのまま捨てるのも気が引ける。
「分隊長に聞くか。もしいらないとなれば肥料にしちゃえば良いし」
「ぶるるるっ!」
いつの間にか先程乗っていた馬が近寄っていた、迎えに来てくれたのだろう。
「ありがとうな、それじゃ頼んだぞ」
馬に跨り首を軽くたたいて合図を出す、この子はこれで言う事を聞いてくれる頭の良い子なのだ。
それから分隊長の元へ戻り、報告すると。毛皮は近隣農家へ被害の補填として、肉は今夜の食事になる事が決まったのだった。




