第46話:魔法訓練最終日・討伐訓練の朝
「さて、今日の訓練終わり、明日からは討伐遠征だ。とは言っても現地までは、馬車で向かう事になる。道中は王家から護衛が出るから問題無いよ」
午前中の訓練を終えた所で休憩に入る、へとへとになった皆を介抱しつつ話を始める。
「先生、騎士の方は、何人同行してくれるんですか?」
最近、積極的に質問をくれる西条さんが、今日もまた質問をくれる。
「えっと騎士団騎士が7名、御者が3名だね。後は、回復術師が5名来てくれるよ」
「そ、それだけなんですか?」
「あー最近、騎士団はとっても忙しくてね……。主に俺のせいで……(ボソッ」
数々の調査でネファキュルの裏帳簿が見つかった事により、色んな貴族の悪事が明るみになる事態になってしまった。結果、少なくはない貴族《バカ共》が領地に逃げ帰り、抵抗を続けているせいで。騎士団から派遣できる人数が分隊くらいしか残っていないと謝られた。
「というわけで2組は騎士の人達に同行してもらって。残り1組と回復術師5名の馬車を俺と俺が雇った冒険者7名で護衛する事になったんだ」
費用については、国王から謝罪の意を込めてもらってるので問題は無い。
「そうだったんですね……それなら安心ですね」
「うん、まぁ20人も居ると殆どの魔物が寄って来ないから、訓練の時は同行しないけどね」
俺がにこやかに梯子を外すと、引き攣った顔になる。
「因みに冒険者は麓の村に残してくるから、もっと減るよ」
あ、目が死んだ。
「大丈夫、大丈夫今の君達ならあの地域の魔物には、気後れをしたり油断しない限りは苦戦しないよ」
皆の強さは一番下の人で青銅級中位くらい、上は銀等級下位に手が届くかって位だし今回出てくる敵もゴブリンや、コボルトが主だ。むしろ熊とか出てきた方のが厄介だ。
――ゴーン!――ゴーン!
「おっ、じゃあ今日はここまで。みんな、ちゃんと休憩を取る事!」
「「「「「はーい!」」」」」
皆が起き上がり、戻っていく。訓練の手抜きはしてないけどこれ位は余裕になって来た様だ。
「さてと、俺はっと……」
端っこで待っているブリゲルドの元へ向かう、今日はこれから第三王子様と話があるのだ。
「やぁホウショウ殿、今日もお疲れ様だな」
「いえいえ、皆が優秀なんであまり苦労はしてませんよ」
「そうなのか? いや、交代とはいえ全員の相手をしているんだ、まったく冗談まで上手いとはな」
あははと笑うブリゲルド、いや冗談じゃないんだけどね。
開放してもらった勇者の力も、威圧事件以降に訓練をしてある程度制御できる様になったし、以前の自分より遥かに戦えるようになっている
「っと、じゃあ私ここまでだ、ミレディ殿が来るまでこちらで休んでくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
今日は以前案内された客間よりも城の奥に近い部分である、調度品以外の造りは一緒みたいなので先にシャワーを浴びておこう。
◇◆◇◆
――コンコン。
シャワーを浴びて髪を乾かしたあたりでノックの音が飛び込んで来た。
「ミレディさんですか?」
「はい~、そうでございます~お顔のお手入れをと思いまして~」
良かった、前回の様に服を剝ぎ取られる心配は無さそうだ。
「わかりました、どうぞ」
パンツとシャツを着てから答えると、音も無く扉が開きミレディさんが入って来た。
「湯浴みと~お着替えが終わった様でしたので~やってまいりました~」
「……」
(覗いてたの? ねぇ、見られたの!?)
「いえいえ~覗いてはおりませんよ~、以前の時間を参考にさせていただきました~」
ニッコリと笑うミレディさん、絶対覗かれてた気がするけど無駄だろうな……。
「その方が賢明ですよ~では、お髭の方整えさせていただきますね~」
シュパパと聞こえると髭が綺麗な形に整えられる、凸凹してた部分も綺麗になっているし何故か深剃りもされている。
「ありがとうございます、では服を着ちゃいますね」
「あ、お待ちください~服はこちらをどうぞ~」
ミレディさんが服を出す、以前の物と違い深い藍色の騎士服だ。
「これは……」
「はい~以前差し上げた後に、公の場で着ていたのがこの服でしたので~。第三王子様が、新たに用意して下さいました~」
「そ、そうですか……」
よく見ると、ふんだんに金糸の刺繍や金のボタンが付いている、一体いくらになるか想像もつかない……。
「凄く高そうなのですが……」
「はい~、恐らく金貨数十枚でしょうね~」
「なっ……金貨数十枚!?」
なんか凄すぎて、唖然としてしまう……。
「そう言うホウショウさんも~、この間の報奨金で沢山貰っているじゃないですか~」
「あ、はい。そうですね……」
そういえば、家計は二人に任せてるから残額がいくらあるかわからないや。まぁ、二人の事は信用してるし、問題無いでしょ。
「ではでは~、こちらに着替えていただきまして~。終わりましたら、第三王子様の元にご案内いたしますね~」
手渡された服へ恐る恐る着替えるのだった。
◇◆◇◆
「さて、今日来てもらったのは他でもない。ツバサさんにはこれを渡しておこうと思ってね」
さも当然のことのように名前で呼んでくる(諦めた)第三王子様が、壁に掛けたあった剣を取り外し、鞘から抜き出す。
「良い剣ですね……」
「うん、これはね特注で作ってもらった、魔銀の剣だよ」
ニコニコと笑う第三王子様、魔銀というのはドワーフが特定の金属を加工する際にできる屑である。だがその屑を再度温め溶かす際に性質が変化して軽くなり、魔力を通しやすく変質する。そして、その特性もある為か、かなり貴重なものでもある。
「凄いですね……それは第三王子様の剣ですか?」
何か帯剣するには長い気がするな……。
「ううん! これはツバサさんのです!」
「へっ?」
「だから、この剣はツバサさん用に作りました!」
ニコニコと笑いながら剣を鞘に納め差し出してくる、躊躇っていると手を握られ剣を掴まされる。
「い、いやいや。この様な貴重な物いただけません!」
「持ってて下さい。いずれ必要になりますから」
真剣な顔をしている、普段から着けている眼帯の下で何かを見たのだろう。
「わかりました、謹んで頂戴いたします。それと一つ、今回の討伐訓練、皆には怪我はありませんか?」
「うん、君の友達には怪我は無いよ……」
頷いてくれたその言葉を信じよう、時には予想外の事もあるので第三王子様の言葉は過信しないでおく。
「さて、そろそろ次の勇者の力、解放できるけどどうする?」
「……大丈夫です。今日開放されても、今日明日で使いこなせない力じゃ、味方を危険に晒しかねませんので……」
「そう言うと思った……帰って来たら新しい力を解放しよう」
第三王子様の手に包まれ、手渡された剣に力が籠る、長さといい重さといい普段使っている剣と全く同じと言っていいほどの造りだ。
「ありがとうございます。皆は無事に帰って来るように努めます」
「うん、気を付けてね」
「はい!」
下賜された剣を吊り一礼をする、早速帰って使い心地を確かめないとな。
◇◆◇◆
翌朝、ギルドの前に馬車が4台停まる、そこに護衛の騎士と冒険者たちが集まる。
「皆さん、今日はありがとうございます、金等級冒険者のホウショウです。皆さんには以前説明した通り、貴族子女のモンスター討伐訓練任務の護衛を依頼しました。場所はここから歩きで2日の雪見山です」
俺が確認の意味を込めて説明をすると冒険者と騎士が大きく頷く、クラスメイト達は顔が強張っている。
「それと、騎士団の皆様が馬ですので、冒険者用の馬も用意してもらいました。エルヴィール男爵領の馬です」
俺が繋がれた馬を指差すと、冒険者達から驚きの声が上がる。
「それでは、騎士の先導する馬車2台が前を、その後に冒険者が背後を固める馬車2台の形で進みます、異常があれば皆さん渡した笛を吹いて下さい」
「「「「「はっ!」」」」」「「「「「応!」」」」」
騎士が敬礼を、冒険者が声を揃えて上げる。
「では、貴族子女の皆様と回復術師の皆さんは馬車へ。騎士と冒険者の方は馬を用意して下さい!」
俺の号令で皆が慌ただしく動き出す、遠くで娼姫の変装をした蒼井さんと恵さんがギルマスとサリアに護衛されてこっちを見ている。
アイコンタクトをしていると準備が出来た様だ。
「では全員騎乗! 出発する!!」
「「「「「はっ!」」」」」「「「「「応!」」」」」
馬が歩き出し、馬車が進みだし、全員で門へ向かっていく。




