第45話:腹を括りました。
「という事があったんだ……」
夕食後のまったりタイムでソファーに寛ぎながら、今日あった事を話す。
「あー、確かにあの時の飛翔の殺気怖かったもんね……」
うんうんと頷く恵さん、隣でもたれ掛かっている蒼井さんも同意している、俺いつ二人の前で殺気なんて放った?
「その顔は、忘れているわね……」
「ですわねぇ、約1週間前位にギルドマスター様とのお話の際ですわ」
ギルマスとの会話……会話…………。
「あっ……そうだった……。つい二人が標的にされたって事で、怒っちゃった時のか」
思い出すと、二人が大きく頷く。
「怒っていただけたのは嬉しいのですが。正直、肝が冷えてしまいましたわ」
「ヤの付く自由業の人とか、半グレとかの怒鳴り声とかよりも怖かったわよ……」
ハハハと焦点の合わない目で笑う恵さん。そこまで怖がらせてしまったのか、反省しなきゃな……。
「でも、良いと思いますわ。旦那様が本気という事も伝わりますし、あれだけ殺気に当てられたら魔物の怖さなんて吹き飛んでしまいますわ」
「そうそう……とは言っても、私達も魔物なんて見た事無いけどね」
「あー、そうだな。二人も魔物討伐の訓練をしないとなぁ……」
予想している送還魔法が入手できる場所が場所なので魔物との戦闘は体験しておかなくてはいけない。
「そうよねぇ……」
「出来るでしょうか……」
「うーん……わからない。生き物を殺すという感触は手に残るし最初はキツイと思う」
自分の手を見る、この世界に来て魔物も獣も人だって殺してきた。全部合わせりゃ千は殺してる。
「でも、やらないと! 飛翔の力になるって決めたし」
「私もです、旦那様……飛翔さんを家族に紹介しないと!」
「家族? あぁ、そりゃ皆の親御さんとは会うか……」
地球に帰ったら皆の親御さんに説明しないととか考えていたら、蒼井さんが首を振る。
「いえ、結婚の挨拶ですよ?」
「………………??」
(今なんて言った? 今なんて言ったぁ!?)
いやいや、二人を助ける為に色々やっちゃったけど(中略)二人同時に結婚なんて許されないでしょ。
「もしもーし旦那様?」
「あー、これは慣れない事が起きて脳がパンクしてるか、妄想に浸ってるかね、以前の奏がよくなってたやつ」
「わ、私こんな姿になっていたのですか!?」
「うん、そう。長い時は20分位帰ってこなかったり」
「20分……改めて認識してしまいますと、とてもお恥ずかしいですわね……」
「うーん、帰って来るに時間ありそうだし、今の内にお風呂行こうか」
「旦那様は、このままでもいいのですか?」
「大丈夫じゃない? 家の中だし、外じゃないから変に転んだりもしないだろうし」
「そうですか……では、旦那様お先お風呂いただきますね」
◇◆◇◆
「けっ……こん……?」
「あ、帰って来た」
「旦那様、遅いですわ」
二人が頬を膨らませている。というか、どうしていつの間に寝室に?
「旦那様が帰って来ませんでしたので、お先にお風呂をいただいてしまいましたわ」
「どうする? お風呂入る? 一応帰って来てからシャワーは浴びてるわよね?」
「あ、あぁ……もしかしてかなり時間経ってる?」
時計が無いのでわからないが、二人がお風呂から出ているという事は結構経っているのだろう。
「二人が気にならなきゃ、明日の朝にしようかな」
そう言うと、二人が鼻を鳴らす、しばらく嗅がれて特に問題無さそうな顔をしている。
「大丈夫よ」「大丈夫ですわ」
「それじゃあ、明日の朝にしよう。それじゃあ夜も遅いし……」
布団を被ろうとしたら捲られた、どうやら逃がしてくれないようだ。
「それで、結論は出たのかしら?」
「私の質問、お答えいただけますわよね?」
な、なんか二人の後に阿修羅みたいな、歴史の教科書に載ってた一対の像が見えるんだけど!?
「あ、はい……えっと、結婚につきましては、日本だとこの歳の差は流石に不味いと思います。ですが、ちゃんと責任は取るのと、二人の親御さんにはちゃんと謝罪をして、自首しようと思います」
俺の中ではもう既に未成年淫行の犯罪者というので結論が出ている、という訳で日本に戻ったら諸々の責任は取って、その後こっちの世界に帰って来ようと思う。
「「……はぁーーーーー」」
両隣から長いため息が出た、凄い長い溜息だ。
「ねぇ、奏。やっぱり、碌な事考えて無かったね……」
「そうですわね、恵ちゃん。仕方ありません、次の作戦を決行しましょう」
羽交い絞めにされ、蒼井さんが服に手を掛ける。
「ちょっと待って! 何しようとしてるの!?」
「いえ、旦那様が、変な勘違いをしていますので……」
「いっその事、既成事実作ろうかって話になってさ」
(既成事実? それって!?)
「というわけで、カトレア様直伝の技、試させていただきますわ」
「カトレア直伝って……」
つい先日の記憶と情景が思い出される、あれは不味い……。
「ちょ、待って! わかった、ちゃんと話し合おう!」
「では、二人共お嫁さんにしていただけますか?」
「うぐぅ…… ちょい待って!」
隙あらば手を伸ばしてくる蒼井さんを止める。
「わ、わかった。こっちの世界じゃ二人共お嫁さんにする! 日本に帰ったらちゃんと二人のご両親と話して、最適な方法を見つけるから!」
俺の悲鳴にも似た声を聞いた蒼井さんが俺の背後に居る恵さんとアイコンタクトしている。
「わかったわ、とりあえず今は及第点としておくわ」
「ですので、逃げないで下さいね……旦那様」
「はい……」
こうして、俺は異世界で結婚する事になってしまったみたいだ。
---------------------------------
「それはそれとして、夜のお勤め改め、夫婦の睦言を致しますわ」
「えっ?」
「そうね、奏が先で良いわよ。次は私が」
「えっ?」
「そう言う事ですので、末永くよろしくお願いいたしますわ〝旦那様〟」
「そう言う事だから、これからもよろしくね〝旦那様〟」
二人の満足そうな顔が近づいて来た。




