第43話:魔法訓練・初日
「さて、それじゃあまずは魔法を使いたくてうずうずしている君達に幾つか注意点がある。もし破るようなら今後は魔法の訓練をさせないからな」
訓練場に戻りいの一番に言った俺の言葉に息を呑み頷く、一通り全員と目を合わせてから口を開く。
「まず、魔法っていうのは武器や刃物と一緒で身を守ったり、生活に使ったりと便利だが人を殺せるとても危険なものだと意識して欲しい」
「火・水・土・風よ、焼き・潰し・砕き・切り裂け」
立ててあった的にそれぞれの属性の攻撃をぶつける、火で燃やし、水で圧し潰し、土で砕き、風でバラバラにする。
「今のは的に向けたが、人に向ければ簡単に命を奪える。だがな、裏を返せばしっかりと扱えれば便利だし、誰かの命を助けれるからな」
息を呑み頷く者、唖然としながら自分の手を見つめる者が多数の中、目を伏せて耳を塞いでいる子が一人。
先程測定で4属性に適性が現れた水無瀬さんだ。前の時も顔を伏せてたんだよな。
「皆に聞きたい、君達の世界で包丁は禁止されているか? 水無瀬さん、どうなのかな?」
俺に当てられた事を隣の子に教えられこちらに向く。
「いえ、禁止されてません……」
「じゃあ、包丁を使って殺人が起きたら誰が悪い?」
「……っつ。包丁を使って人を殺めてしまった人です」
「そうだね。皆は凄く優しいから、今後生きていく上で包丁を人に向ける事は無いだろう、魔法も同じで本来は人に向けないものだ、まぁ回復魔法とか例外はあるけどね」
「私も……回復魔法だったら良かったのに……」
そうポツリと呟く水無瀬さん、言いたい事はわかる、だから俺もこう教えるしかない。
「だったら、殺さなきゃ良い。人を傷付けなきゃ良い。火なら囲い、土なら壁を、水なら足元を掬い、風なら武器を壊すんだ。『――風針の破突』」
風魔法で的の中心に穴を開ける、良く盗賊とかに出くわした際に不意打ちで武器を壊す技だ。まぁ小さい穴を開けるから膝や腕の関節を砕いちゃうんだけどね。
「訓練すればこれ位ならすぐにでも出来る、君は4属性に適性があるんだから。それに、攻撃する力も強いが、同時に守る力も強い、守る事に特化すればそれは凄く強い力になるだろう。だからその力を恐れないで、その力は優しいものだから」
やっと目が合った、今までは傷付けるだけの力と〝思い込んでいた〟みたいだけど、今はその思い込みも晴れたようだ。
「とは言っても、攻撃魔法の練習は大事だ。まずは魔力を放出するという事が重要だからね」
「は、はい! ホウショウさん!!」
力強く頷いてくれる、他の皆に視線を移してみる、今の会話から思い思いの考えが出た様だ。
「まぁ、これからやるのは身体強化だけどね」
そう言うと皆がずっこける、まぁ散々属性魔法の話してて身体強化だしね。
「いやいや、ちゃんと説明したじゃん。身体強化は魔法の基礎だって。魔力を体に巡らせる、それを自在に操る、そして最後には魔力を想像で変化させる」
身体強化を使い魔力を体全体に行き渡らせる、そこから右手に集めて……。
(今回は火球で行こうか……)
野球ボール位の火の玉を生み出す、そこに魔力注いでバスケットボール位の大きさに変化させる。
「ざっと、こんな感じ。それと、俺は火の適性が高いからこんな事も出来る……」
火の玉から細長く蛇の様に変化させる、この世界で出会った蛇型モンスターのボイズン・バイパーを思い出す、【毒・毒蛇】と言う名前のせいで妙に印象に残ってるんだよな。
「行ってこい」
するすると岩の的に近づきぐるぐると巻き付く、暫くすると岩が溶け始める。
「これ以上は不味いな。解除」
解除して炎を消す、的は溶岩みたいにドロドロに溶けていた。
「とまぁ、想像力が試されるけど頑張ればこんな感じだから。さあ、まずは身体強化から魔法を放出する練習だ」
パンパンと手を叩き訓練を始める、不満は無さそうだけど拍子抜けって感じの顔をしてるな。
「まぁ、いつまで気が抜けるかな?」
今後起こる事を想像しつつ見守るのだった。
◇◆◇◆
「先生! また倒れました!」
「はいはーい、これで5人目か」
倒れてしまった女子、伊波さんを抱え上げて他の女子達が寝ている所に降ろす。
「それにしても、皆かんばってるなぁ……」
俺の想定だと10人は魔力切れで倒れる想定だったけど、これなら大丈夫そうだ。
――ゴーンゴーン!
「おっ、訓練終了の鐘か。よし皆、今日は終わりだ。明日は魔力回復もあるから昼以降の訓練になるぞ」
俺の号令でへたり込む残っていた皆、今の段階で魔法が出来たのは二人、先程の水無瀬さんと野球部だった菊池君だけだ。惜しいのは何人かいたけど形になるのは明日以降だな。
「よし、それじゃあ協力して皆の部屋まで運ぼうか」
借りて来た担架を指差して笑顔を向けると、ゾンビの様な呻き声と悲鳴が出てくるだけであった。




