第39話:ギルマスからの経過報告とエルヴィール男爵宅へ
――コンコン。
「はーい、どうぞー」
ギルマスの声を聞いてから扉を開ける、中に入ると紅茶の香りがフワッと鼻腔に届く。
「やぁ三人共、思ってたよりも早かったね、座りなよ」
中に通される、ミラさんも一緒に居るようだ。
「二人共、紅茶に樹蜜は入れるかい? ホウショウは2杯で良かったよね?」
「覚えてるんですか……」
「まぁね~」
笑いながら手早く紅茶を用意してくれる、二人の横には小さな蜜入れが置いてある。
「さて、まずは掛けてくれ」
促され座った所で、ギルマスがこちらを見て真剣な顔になる。
「さて、一つ君達に報告があるんだ。ネファキュルの事についてだ」
その言葉に俺達が息を呑む。
「皆もある程度は知ってると思うけど、彼は今裁判を待つ形で幽閉されている。どうやら国内外の貴族や聖王国の公爵家まで関わっているらしく想定以上に大きな問題となっている様だ」
大きく息を吐きながら紅茶を飲む、面倒を見ていた者が犯罪者になって気持ちも重いだろうにこうして情報を伝えてくれる。
「それとホウショウ、君が狙われた理由なんだがとある貴族が関わっている様だ」
「貴族ですか……相手は?」
「すまない、どこの貴族か教えてくれなかったよ、彼が言うには別の人間を4~5回通して依頼に来ていたらしいし。その代わりに狙った原因は教えてくれたよ」
ギルマスの視線が二人を向く。
「まさか、二人が?」
「あぁ、どうやら娼館で手を出す前に身請けされた事が気に食わなかったらしい。君を殺せば契約は強制解除だしね、そうすれば攫うなり再度娼姫に落とすなり出来るからね」
ギルマスの言葉に普段は抑えている感情が鎌首をもたげる。
「……片っ端から殺すか」
驚くほどに冷たく低い声が出た、蒼井さんと恵さんが驚いた顔でこちらを見て来る。
「こらこら、焦らない。どこの貴族かはわからないけどネファキュルに依頼する程だ、国の方でも追ってるだろうし、殺すのは裁判の後の方がいいよ。勝手に殺したら国から目を付けられるし、余計な嫌疑をかけられるし」
「うぐっ……それは困りますね……」
ギルマスに頭を優しく撫でられる、行き過ぎた子供を諭すように。
「大丈夫さ、ちゃんと〝正式〟な方法で舞台は整えてあげるからさ」
黒い笑みを浮かべるギルマス、どうやら珍しく怒っているようだ。
「うん、この件はこっちでも調べておくよ。それとこっちが本題なんだけど……」
そう言って、ギルマスは呼び寄せた理由を話し始めるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、訓練後にエルヴィール男爵夫人の元に向かう事に、午前中に男爵家の方には伝令を出しているのでギルド前には馬車が待っていた。
「あ、爺やさん」
「ホウショウ殿、お待ちしておりました」
「すみません、遅れてしまいましたか?」
「いえ、夕暮れの鐘が鳴る時間と聞いてましたので待ってはおりません、ですのでお気遣いなく。ささっ、こちらへ」
馬車に乗ると、蒼井さん・恵さん・ミラさん・サリアが既に乗っていた。
「「「「「…………」」」」」
じっと4人の目がこちらを見つめる、なんだろうこの地雷原でブレイクダンスしてる感覚は……。
「ホウショウ殿、どうかいたしましたか?」
爺やさんに声をかけられる、いつまでも入り口に居たら出発出来ないので一番近い蒼井さんの隣に座る。
「やりましたわ(ボソッ」
蒼井さんが小さくガッツポーズをする、何か俺がどこに座るかの賭けでもしてたのだろうか。
そんな事を考えていると馬車が動き出し、ものの10分程でエルヴィール男爵家へ到着した。
「お待たせしました、こちらへどうぞ」
爺やとメイドさんの案内で館の内部に通される、その道中で女性陣と俺が分けられる。
「皆様、お疲れの様子ですので。先にお風呂をご利用ください」
以前通された使用人用じゃない、お客様用のお風呂である。
「もしよろしければ、そちらの髪洗い剤を〝是非〟ともご利用下さい」
「あ、ありがとうございます」
言われた通りシャワーで髪を濡らす、先程言われた髪洗い剤の瓶を取ると、これは……。
「液体シャンプーだよな……」
少し硬めだが粘性のある液体がボトル内を動く、香油で香りづけされているのか良い香りだ。
「いやいや、この世界で初めて見たぞ……」
この世界の洗髪料は固形石鹸を粉石鹸にしたものが主流だ、安い物も高い物も基本的に粉石鹼を使っている。
「こっちは、リンスかな? とりあえず、使ってみるか……」
シャンプーで髪を洗いリンスを使う、シャンプーの泡立ちは微妙だけど粉よりも洗いやすい。ちなみに蒼井さんと恵さんが基本二人でお風呂に入るのは粉石鹼だと洗い辛いからだ。
「いやぁ、凄いですね……買って帰れないかな?」
「お気に召した様で何よりです、帰りにお渡しさせていただきますね」
風呂上がりに髪を乾燥していると爺やが現れ、慣れた手つきで髪をセットしてくれる。
「お待たせしました、手入れは終了です。女性の皆様はまだお風呂ですので、お先に奥様とお話を……」
綺麗な服に着替えた俺は、エルヴィール夫人の元へ通された。




