第4話:売られたクラスメイト・中
「それで、ここからが本題なんだけど。君達の身請け金を聞いてきたんだけどね……特別に相場より安くしてくれるんだって」
「でかした鷹取!! クラスじゃ冴えなかったけど最高よ!!」
バシバシと叩いて来る細野さん、その態度の大きさに少しイラっとする。
(まぁ、立場を自覚して欲しいから、先に金額だけ伝えるか……)
「えっと……それでも君達は一人金貨500枚、合わせて白金貨1枚なんだよ。そしてそれは俺の三年分の稼ぎだ」
「三年……」
「それって……どうなの?」
「まぁ、俺のランクが銀等級……上から三番目なんだけど。それの三年分だから白金貨1枚……大体日本の感覚で1億円くらい? そこまでの大金を日本で手に入れた事無いからよくわかんないけど」
これでも俺は上澄みなのでかなり貰ってる方だ。
「い、いちおく……」
「なによそれ……」
「多分、二人の召喚者が王家の人間だろうからなぁ……それと、今の俺が持っている財産は白金貨1枚、これだけあれば数年は冒険者やらなくても生活できる。だから支払うか悩んでるんだ」
正直それだけの金額があればこの店2週間は貸し切れるし、豪遊さえしなければ仕事しないで5年は暮らせるからなぁ……。
「悩んでるって……助けてくれないの、クラスメイトなのに!?」
「いや、助けたいけとは思ってるけど、クラスメイトに対してこれを強要する事になるのはちょっと……」
「「へっ?」」
明後日の方向を見ながら気まずそうに頬を掻く俺にポカンとした顔をする二人、これから先は非難の嵐になるかもしれないな。
「二人は今、性奴隷という区分じゃん? それでこの世界は魔法が存在してて奴隷の契約は魔法を用いられるんだ。一応胸元に魔法陣みたいな印が出てるから判ると思う」
普段からネクタイを緩めていて胸元が空いてる細野さんに俺と蒼井さんの視線が向けられる。
「さらっと魔法があるとか言ってるけど、これがそうなのね……って鷹取、じろじろ見ないで欲しいんだけど……」
「あぁ、すまん……。それで、性奴隷の契約って複雑で、その譲渡契約の渡し方は殊更特殊でね……」
視線を逸らしつつ濁して言うと、勘のいい細野さんはどうやらわかった様だ。
「つまりアンタと1発もしくは、それに準じた事をやらないといけないって感じ?」
「えぇっ!?」
疑いの目を向ける細野さんと内容に驚き、顔を更に赤くする蒼井さん。
「そうなるかな。説明すると、娼館からの性奴隷の身請けは、一度娼館の主と逃走防止の奴隷契約をしてるから、それの上書きの為に性行為をして、主人となる人から渡された魔力を体内に保持した状態じゃないと主人の書き換えが出来ないんだ」
「体内に渡された魔力って、まさか?」
「あーうん、想像通りの物です」
「つまり新しい契約者の精液を中に出した状態なの!?」
「ふぇぇぇ!?」
「だから言い出しにくかったんだ……」
細野さんの顔が険しくなる、蒼井さんは何かブツブツ言い始めてる。
気まずそうな俺と、睨む様な細野さん。気まずい空気が部屋を支配する。
「それってどうにもならないの? 鷹取はこの娼館の大旦那とも仲が良いんでしょ?」
「えっと、それは値切るより無理かな。性奴隷の扱いについてはこの国と周辺国の法律で決められてて、売買情報もしっかり記録されるんだ」
「それは……何で? 普通の奴隷売買だと記録されないの?」
「そうだね、記録がされるのは犯罪奴隷と性奴隷だけなんだ。犯罪奴隷は逃がしたりすると大問題だし。性奴隷は動く金額が大きい分不正なお金の動きだったりに使われてたんだ。それで登録された各々の娼館の記録を国とギルドで情報を管理と共有されてるんだ。まぁ、不法娼館を潰す為だったり、税金の納めもしっかり管理してるからね。あとは、娼館で働く人って曰く付きの娼姫も多いからさ……」
貴族の娘だったり、敗戦国の元王族だったり、その子供だったりと亡国の貴族が売られた王家の分家筋の性奴隷を買って擁立して反乱を仕掛けたり。
「それでなくても娼姫なんてただでさえ問題を起こす可能性があるから、国も娼館側も慎重になるんだよ」
娼館で働くなんて言ってしまえば色恋営業であるから、稀に勘違いする人も出て来るのだ。
「あーパパ活女子にガチ恋して、BSSで殺人事件とかあるものね……」
「後は、入れ込み過ぎた貴族が領地を勝手に他国に切り売りしたりとか……」
故に娼館の帳簿は国も目を光らせているのだ。
「と、いう訳でもし俺が助けても良いなら。嫌だろうけど犬に嚙まれたと思ってくれれば」
俺が尻すぼみになりながら言う、細野さんはしばらく考え込むと顔を上げた。
「それじゃあ、さっさとやりましょう」
ポイポイと服を脱ぐ、細野さん。手馴れた手つきで下着姿になる。
「へっ? ちょ!?」
「ほら鷹取も脱ぎなよ、さっさとやっちゃおう」
「いや、でも……嫌じゃないの?」
「うーん、嫌か嫌じゃないかと言われれば微妙に嫌だけど。不特定多数の男性に抱かれるのはもっと嫌だし。娼館で過ごすよりも鷹取と一緒に居た方が将来性がありそうだしね」
「良いのか? おっさんだけど」
「良いも何も、私の彼氏も鷹取と同じくらいの歳だし。脂ぎったオッサンを相手にさせられるよりは数倍マシだし。それだったら顔の良いアンタに抱かれてる方が良いわ」
そう言いながら最後の一枚を脱ぐ細野さん、なんというか年下の裸を見るのは慣れてるけど、クラスメイトのとなると妙な気恥ずかしさがある。
「それは喜んでいいのかな? というか細野さんは彼氏いるんだ」
清楚風にしててもギャルっぽいし、いかにもな見た目で遊んでそうだし。
「なに? 処女厨なの?」
「違うよ!?」
「じゃあ良いじゃない。さっさと済ませましょうよ」
あっけらかんと言うその姿にこちらが狼狽えてしまう。
「あ、その前にシャワー浴びてくるよ、仕事終わりだから臭うだろうし」
「シャワーあるの!?」
目を輝かせる、召喚されてからお風呂には入って無いのかな?
「あぁ、それと湯船もあるよ」
「それなら私も浴びたいわ! 一緒に浴びましょう?」
「へっ? 一緒に!?」
「えぇ、こっちの世界の物なんて、使い方わかんないし。身請けしてもらうんだから少しはアピールしないとね」
「気にしないで良いんだけどなぁ……」
身請けするって決めたし。
「ほら、行くわよ! こっちで良いのかしら?」
そう言って生まれたままの細野さんに手を引かれ、備え付けの浴室へ入るのだった。