閑話①:娼館の仕事初日<ミモザ視点>
◇今話はホウショウが娼館に二人を預けた初日のお話です※34話直後◇
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◇細野side◇
「ここがお二人に割り与えられた部屋です。一応食材なども置けるように大旦那さまから保冷庫は預っておりますのでそちらを使用して下さい」
私達を送ってくれた凄く大柄な男性がニコリと微笑む、飛翔に紹介された時はガルデンさんと言ってたわね。
「ありがとうございまス、ガルデンさン」
「荷物モ、ありがとうございまス」
私達の拙い言葉に紳士的な笑みを浮かべお辞儀をする。
「いえいえ、恩人の奥さんですから。丁重に対応させていただきます」
――コンコン。
誰だろう、大旦那さんかな?
「はイ、どうゾ」
「失礼しますわ」
私の返答に入って来たのは赤紫色の髪に銀の瞳を持った女性である、以前どこかで見たような……。
「貴方達がホウショウの……」
(この人ホウショウを知って……いやこの娼館の人は皆大なり小なり飛翔と関係あったわね……)
「カ、カトレアさん、確かにそうですが今は……」
「えぇ、わかっているわ、二人共付いてきなさい……」
〝カトレアさん〟って飛翔が話してた……恐らく、嫌な事になるかもしれない
わね……。
(だとしても、私達がこの世界で生きていくには、いつかぶつかる問題だったし仕方ないわね)
奏を見ると少し震えている……彼女も昔、同性からの悪意に晒されてたのを思い出していまったのだろう……。
「大丈夫、何かあったら私が助けるから……」
きっと飛翔なら問答無用で助けるだろうし。
それから娼館と併設された建物の中を歩き、見覚えのある扉の目に立つ。
――コンコン。
「私よ、二人を連れて来たわ」
「あぁ、入って良いよ~」
部屋に入ると大旦那さんと、恐らく娼館の、トップクラスの人達であろう娼姫達がそこに居た、俗に言う男の夢と言われるような光景が広がっている。というか、なんかもう色々と凄いんだけど……、奏なんて顔真っ赤にしてるし。
「大丈夫よ、貴女達には危害を加えないわ。まずは座って頂戴」
カトレアさんに促されてソファーに座らせられる、すると目の前に紅茶が出される。出してきた少女も瑠璃色の瞳に銀髪で可愛らしい姿である。
「どうぞ、樹蜜はいりますか?」
「あ、ありがとうございまス。いただけると嬉しいでス」
「わ、私モ、良いでしょうカ?」
あ、圧が凄い……視線が私達に集中してる……。
「はぁ……皆、二人が怯えてますわ……色々と言いたいでしょうがまずは一息つかせてあげましょう」
カトレアさんの言葉で空気が少し和らぐ、やっぱり私達の事はあまり良いように思われていないのかも……。
「さてさて、まずは自己紹介をした方が良いね。私からしよう、私はリヒテラッシュ=ヴィルゲイナー、この娼館『アラビアンナイト』の店主にして〝大旦那〟と呼ばれているよ」
大旦那さんがそう言ってカトレアさんに促す、カトレアさんは少し不満そうにこちらへ視線を向ける。
「私はカトレア、一応この娼館で最上級娼姫をさせて貰っているわ、それと同時に娼姫達の取り纏めもしているの、どうぞよろしく」
粛々と言った感じで自己紹介を終えて次に回す、それから約15人程の最上級娼姫達の自己紹介を受ける。皆、それぞれ特筆すべき特徴があり男性が入れ込むのもわかってしまう。
「さて、残すは君達二人だ……」
大旦那さんに促され席を立つ。
「わ、私はミモザでス、この度大旦那様の紹介デ、相談役としテ、お手伝いをさせていただくことになりましタ、よろしくお願いいたしまス!」
練習していた自己紹介を言い終え、席に座り、奏を促す。しっかりと立ち上がった奏は、意外と堂々としている。
「わ、私はネモフィラでス、この度大旦那様の紹介デ、皆様にお菓子作りを教えに来ましタ、どうぞよろしくお願いいたしまス!」
奏がお辞儀をして座ると間髪入れずにカトレアさんが口を開く。
「大旦那、もういいでしょうか? 恐らく皆さん待ちきれない様ですし……」
「仕方ないですね……これから二人はお仕事ですので、無理はさせない様にして下さいよ」
「わかったわ、それじゃあ……」
カトレアさんが机を叩く、身を乗り出して私達に詰め寄る。
「さあ、聞かせて頂戴!」
若干の焦りを含んだ言葉が飛んで来る……。
「えっト……何をですカ?」
「ホウショウとのなれそ……生活よ!」
「私は、ホウショウさんが活躍したとこ聞きたーい」
「私は好きな食べ物とか? 普段何食べてるのとか?」
「わ、私は、夜の生活を……えへへっ……」
次々に飛んで来る飛翔に関しての質問、奏の方へ視線を向けると目をぱちくりとさせている。
「え、えっト……彼ヲ、ホウショウヲ、取られた怨みとかハ?」
身構えてた答えと違い過ぎて、思わず口から零れてしまう。するとカトレアさんは大きく息を吐く。
「怨みが無いといえば、正直ありまくりよ? でも、私の境遇が、私の血が、彼を束縛させられないの……」
その言葉を呟くカトレアさんは、凄く辛そうな顔をしていた。
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