第37話:説教臭くて駄目だなぁ……。
「はい、じゃあ今日も砂時計走を最後にやって終わりにするぞ」
「「「「「はい!」」」」」
身体強化を教えて3日、完璧とまではいかないが。皆、問題無く扱えるようになっている。
「凄いな皆、全員短い砂時計が落ち切る前に走りきれてるぞ」
肩で息をしている皆を見て声をかけると、嬉しそうな反応が帰って来る。
「だけど、これからが本番だ。今は皆〝走りきる事〟を目標としてるからな。これからは走りきった後の戦闘を視野に入れて訓練をしていくぞ」
「戦闘……」
誰かがぽつりと呟く、戦闘となると命を奪う行為に直結している。今は城の内側での訓練で命の危機は無いが、外に出るとどうしてもその〝覚悟〟が必要となる。
(討伐訓練に向かう前に、一回くらい討伐を見せておくべきかな?)
俺の時は殺さなきゃ喰われて死ぬって感じだったし、覚悟も何も無かったし。この世界の人間は否が応でも幼少期に生き物の命を奪う事について対面する。
「ふぅ……皆に話しておく事がある。この世界には魔物が居て、その魔物は皆が嫌だと言っても殺しに来る。殺さなきゃ殺される、皆は自分の世界に帰りたいと思っているんだから何としても生き延びないといけない。その為に向かって来る魔物には躊躇うな、迷うな、魔物の我儘に付き合うな」
皆を見回す、いきなり命のやり取り云々言われてもピンとは来ないだろう。
(少し早いけど、今後の事を伝えておくか……)
「何故いきなりこんな話をしたかと言うと、その内君達には討伐の訓練をしに行ってもらう事になる」
「「「「「…………」」」」」
息を呑む声が聞こえ、困惑している表情の者もいる。
「その時までに覚悟を決めないと、隷属でも何でもして無理矢理に戦わせられるかもしれないぞ。君達は元来戦う為に呼び出されたんだから、戦えない者は要らないと言われてしまうぞ」
ことばもだいぶ通じて喋れるようになってきた、こちらの生活に慣れてきた頃だし気が抜け過ぎないように釘を刺しとかないとな。
「召喚者の意図はわからないが、俺が受けた依頼は君達がこちらの言葉を話せるようになるのと、モンスターと戦えるようになる事だ。その為には無理矢理にでも戦わせて慣れさせるつもりでもある」
やりたくはないけど、弱い魔物くらいは倒せるようになってもらわないといけないし。どうしても無理な人は命令という形で心理的な負担を和らげてあげないと。
「とは言っても、いきなり今日明日に命を奪う事に抵抗はあるかもしれない、実際俺だって昔は躊躇ったよ。それにまだ時間はある、聞きたい事や相談したい事があるなら聞きに来てくれ。まだ1週間以上はあるからさ」
「なんで、ホウショウ先生はそこまでしてくれるんですか?」
西条さんが聞いてくる、何でと言われてもなぁ……。
「いくつか理由はあるけど、まず一つ目は俺の為だ。俺は冒険者として高い依頼の成功率を誇っている、それでいて上から3番目の等級まで昇った、達成できなければそれだけ名も経歴も傷つく、それは将来受ける依頼達成の信用問題にもなるからな」
一息入れて、次の理由を考えながら話し始める。
「次に、君達の為だ。この世界は一歩城の外に出れば死ぬ危険が一気に跳ね上がる。街の中ですら、路地裏の汚い仕事をやってる奴や物取りに襲われるかもしれない、身に覚えのない暗殺者に命を狙われたりする、そんな時に相手を殺す事を躊躇ってしまうと簡単に命を落とす。実際俺も死にかけたしな」
苦笑いをしつつ言う、俺が大怪我をしていた事は伝わってたので、皆に心配そうな顔をされる。
「そして最後に……。これ以上弟子が死ぬところを見たくないんだ……。昔に俺は君達と同じ様に駆け出しの面倒を見る事になり、約1年半くらいの間かな? ギルドで教官をやっていた。その時はもう少し緩くやってたんだけどね、沢山の弟子が死んだよ。最初は魔物の恐ろしさを教えるのが甘くて、次に魔物に油断をしない事を教えるのが甘くてね」
何度か失敗を繰り返し、その度に落ち込んで。リオルたちの面倒を見る頃には厳しくしていたけど、死亡者も全体の1割まで抑えれていた。それでも死ぬ奴はいたけどな。
「だから君達には少し……いや、かなり残酷で厳しい人だと思われるかもしれないが、君達を戦場で死なせない為に、どこまでも汚いことはやるつもりだ」
もう、十分な位に一人語りをしてしまったな、歳を重ねる度に説教臭くなるのはどうしたもんかね……。
「とりあえず、こんな感じで良いかな? と言う事であと1週間ちょっと頑張ろうか」
言葉は帰ってこなかったけど何人かしっかりと頷いてくれた事が嬉しかった。




