第35話:クラスメイトと魔法教練①
娼館を去った後、ギルドでミラさんに二人の事を伝え、幾つかギルドの魔法講義・教練の資料を借りて来た。
「皆久しぶり、元気……では無さそうだね……」
「「「「「…………」」」」」
うーむ、死屍累々である、特に報告は受けてないけど、リオルの訓練は相当にきつかったのだろう、俺が来て少し嬉しそうな顔をしている。
「まぁ、今日は基礎訓練の後は魔法の教練に入るからね。いつもよりは楽になるよ」
俺の言葉に、生気が戻って来る。
「さて、それじゃあ基礎訓練の開始! さぁ、走った!」
まるでゾンビの様な声を上げながら走り出す、リオルのキツイしごきを受けた割に皆姿勢を崩さずしっかりと走れている。
「ふむ、リオルはちゃんと教えていた様だな。それと、なんとなくだが、数人は魔力を纏わせて走ってるな」
特にずる賢いというかなんというか、クラスメイトのオタク3人衆は周囲よりも強く身体強化もどきを使ってる。
「馬鹿正直に走ってる人も居るなぁ……」
大まかに分けると、運動部や体力のある奴は普通に走って。文化部や帰宅部はなんとか負担を減らそうと身体強化もどきを使ってる。
「まずは使ってる奴等に話を聞くか……」
そろそろ準備運動のランニングも終わり、素振りに入るだろう、その前に……。
「小林、林堂、堂橋、こっちに」
俺が呼び止めると、三人がマズいといった顔をする。
「その様な顔をするならズルをするんじゃない。それと身体強化の使い所を間違えてるから今のままだと走るのには意味が無いぞ」
「「「えっ?」」」
間抜けな声が聞こえた、恐らく怒られたり釘を刺される事は考えてただろうが、アドバイスをされるとは思わなかった様だ。
「丁度いい、皆にも教えよう。走る時の身体強化だが主に3つ、背中と肺と脚だ。特にこれから軽装でも鎧を着けることになったり、剣を背負う事になれば重要になって来る」
これは俺がリオルに教えた事で、単身走り回る事も多い冒険者では長く走れるかが重要になって来る事がある。それ故に背筋は伸ばし視点は高く、肺を強化して長時間の運動を可にする、脚は無論走るのに使うからだ。
「だから、足にだけ魔力を集中しても地面への蹴りが強くなるだけで、走るのがキツイ事には変わらないからな」
「はい……」
「ありがとうございます……」
「気をつけます」
三人に笑いかけつつ肩を叩く、使い所が微妙とはいえ身体強化みたいな基礎魔法は使えば使う程便利になる、悪い傾向では無いからな。
「それと、素振りの時に身体強化は使わない事。肩や腕が外れても知らんぞ」
俺の言葉にフリーズする皆、先に釘を刺しておかないと不味そうだしな。
「という事で、素振り開始!」
◇◆◇◆
「よし、それじゃあ昼食を食べた後は身体強化の訓練にしようか」
「「「「「はーい……」」」」」
「少しは見れる様になりましたな」
後から声をかけられる、振り返ると微笑んでいる騎士が居た。
「ブリゲルド殿、お久しぶりです」
「ホウショウ殿、貴殿の褒賞式、格好良かったです」
「ありがとうございます、見られていたとはお恥ずかしい……」
ガチガチに緊張してたからなぁ……記憶から消したい……。
「いやいや、何を言いますか、様になっておりましたぞ。第三王子も陰から見ておりましたが満足そうでした」
「第三王子もですか……あれ? つまりブリゲルド殿と一緒に居られたのですか?」
「あぁ、これでも王宮警備騎士の端くれであるからな。王族の身辺警護も私の仕事だからな」
「王宮警備騎士って、かなり優秀じゃないですか……」
「なに、年季と小手先の技術で選ばれているだけさ。騎士団の行軍などにも付いて行けないからな」
そう言って笑うブリゲルド、全然そうは見えないけど……。
「それで、第三王子に面会をしたいと聞いてな、差し支えなければ耳に入れていい話か先に聞いておきたいのだ」
「わかりました。相談ごとの前に、今後の訓練方針の報告を。これから1週間程、魔法の教練を主体にしようと思います。それから剣士組と魔法組に分かれて訓練をしたいと思っております」
「ふむ、ホウショウ殿が言うのであれば、それで良いかと」
「それでと言っては、一つご相談がありまして」
「ふむ、どういった事だろうか?」
「はい、彼等の成長次第ですが。2週間程の教練の後。魔物討伐の訓練をさせたいと思います」
「ふむ……場所は? 王都近郊は冒険者と衛兵の巡回でかなり数が空ないが……」
「はい、丁度その時私の方に指名依頼が入っておりまして、ここから二日ほど北西に行った場所にある山になります」
「ふむ、確かそこであれば騎士訓練学校でも行く場所の様だし、危険も少ないから問題は無さそうか。第三王子の返答次第だがそこであれば許可は出るだろう。私の方でも騎士団に声をかけて護衛の選出を行おう」
「ありがとうございます。すみません無理を言ってしまい」
「いやいや、ホウショウ殿の実力は周知の事実であるからな。第三騎士団の団長を育てたというのも納得だ。各人の成長をしっかり見ておられる」
「仕事ですので、受け持った以上は死なない様に鍛えたいと思いますよ」
俺の言葉に、ブリゲルドは軽く目を見張り笑い出すのだった。




