第3話:売られたクラスメイト・上
「緊張するな……」
俺は今、大旦那との交渉を終え、顔見知りのボーイの案内で一等級の部屋へ歩いている。
「えぇ!? あの、カトレアさん相手でも緊張しないホウショウさんが緊張!?」
「おい、俺を何だと思ってるんだよ……」
そう言うと、ボーイは少し悩んで答える。
「この娼館の裏の主」
「お前、それ大旦那の前で言うなよ? 怒られるぞ」
「いえ、大旦那様が言ってるので!」
「マジかよ……」
従業員に何を教え込んでるんだアイツ……。
「ここです。と、言ってもホウショウさんは勝手知ったる場所ですけどね」
「だからと言って歩いてると他の客と会う可能性があるからな、お前の鈴が無いと自由には歩けないルールにしてるんだからさ」
ここに来る客も冒険者や商人、一般人から貴族まで様々だ。それ故にお客さんを通す廊下で他の客と鉢合わせるのは問題になりかねないのである。
「そうでしたね、ではごゆっくり~」
そう笑顔を残して去って行く、目の前にある豪奢な扉を引き中へ入る。
「「――っつ!?」」
二人の少女が広い部屋の中こちらを見ている、それも怯えた様な表情だ。
(えっと……まずは……防音の魔道具を起動して……)
入り口の近くにある防音の魔道具を起動する、娼館の廊下を歩いても他の部屋の嬌声が聞こえないのはこれが理由だ。
(うぅ……心が重い。それに、まずは相手の緊張を解かないとな……)
警戒してる二人を横目に鎧を脱ぎ部屋の一番遠い隅に置く、ついでに俺の重い気持ちも一緒に置いてしまいたい。
「ひっ……!」
大人しそうな少女が小さい悲鳴を上げる、確かに男が入って来ていきなり鎧を脱いだら恐怖が勝るだろうな。
「だ、大丈夫だからね奏……」
派手めな少女はこちらを睨み口を開く、睨んではいるけどこちらへの恐怖が勝っている様だ。
「な、何しようっての!!」
(上手く声が出るかな? 何せ約10年ぶりの日本語だ……)
「あーあぁー、警戒しないでいいよ」
「えっ?」
「日本語!?」
二人の驚く顔を横目に、備え付けのソファーへ座る。
「えっと……久しぶりに日本語喋るから、変な言葉になりそうだけど我慢してね」
そう言ってぎこちない笑みを浮かべる、何だろうクラスメイト相手だからなのか笑顔が固くなる……。
「えっと……蒼井 奏さんと細野 恵さんだよね?」
記憶の中のクラスメイトの名前と顔を一致させながら喋ると、二人の顔が驚愕に変わる。
「ど、どうして私達の名前を!?」
「だ、誰なんです!?」
「あー信じて貰えないかもしれないけど、俺は二人と同じクラスメイトの鷹取 飛翔だよ」
「鷹取って……あのクラスの端っこでいつもぼーっとしてたあの冴えない鷹取!?」
やめてくれ、陰キャにはその言葉はキツイ所がある……。
「えぇ!? で、でもどうして!?」
この姿が信じられないのだろう、まぁおじさんだしなぁ……。
「あー話すと長くなるから簡単に言うけど……、皆より先にこの世界に飛ばされたんだよ。そこで10年生活して今は27歳になったんだ」
「そ、そうなんだ……」
「それで、鷹取は何でここに?」
「あーえっと……君達が奴隷商に連れられて行くのが見えたから……」
「えっ……」
「奴隷商……」
奴隷商という言葉に、売られた事を理解した二人の顔が段々と青くなる。
「それで、二人が連れて来られたここの大旦那さんと知り合いだったから、交渉をしたんだ……」
俺の歯切れが悪い言葉に、細野さんの顔が明るくなる。
「じゃ、じゃあ私達を助けに来てくれたの!?」
「えっと……それはそうなんだけど……」
どうにもこの事を告げるのは歯切れが悪い。
「まさか……出来ないの?」
「そう言う訳じゃ、無いんだけど……」
暗くなる二人の顔、状況につけ込む様な事になるから、非常に口が重い……。
「何よ、はっきし言いなさいよ」
「わかった……心の準備をしたいから、本題の前にこの世界の奴隷について説明させてほしいんだ」
「えぇ……」「はい……」
大きく深呼吸をする俺、少し硬くなる俺の顔に二人が息を呑む。
「まず、この世界には奴隷の種類が4つあるんだ。一つは犯罪奴隷、つまり犯罪者の更生の為に設けられる奴隷。二つ目が戦闘奴隷、主に借金が返せなくなった冒険者がなるんだ、これは商人や貴族が警備や警護の為に購入する奴隷なんだ」
水差しからコップに水を注ぎ一口飲み話を続ける。
「そして三つ目が侍従奴隷、これは口減らしや戦争孤児等がなる奴隷で小学生くらいから大人まで居るんだ。そして最後が性奴隷、娼館で働いてたり個人や貴族でも所有している人がいる奴隷なんだ、男性女性共に需要があって法律上12以上じゃないとなれないんだ。薄々感づいてるかもしれないけど、ここは娼館なんだ」
「じゃあ……私達って……」
「性奴隷なの?」
「うん……そうなるね」
俺の言葉に再び崖から突き落とされた様な顔になる二人。
「そんな……」
「嘘でしょ……」
「えっと、それでね……今は俺が二人に話をする為に、この店の大旦那さんに頼んで一時的に店には出さない様にしてるんだ」
「じゃ、じゃあ! その大旦那さんに言って私達を性奴隷から解放してよ!」
流石にそれは無理な話だろう、この店だって二人を押し付けられたという事はかなりのお金は払ってる。俺が頼み込んだところで絶対に首を縦には振らないだろう。
「いくらなんでも無理だ、それに無理に連れ出したら犯罪だしね」
「じゃあ……私達ここで身体を売らないといけないの……」
「い、嫌です!」
「あーうん、それなんだけど……この世界でも身請けというのが出来るから。どうにかする事は出来なくも無い……かな?」
「や、やった!」
「そ、それじゃあ!」
俺の言葉に二人の顔が明るくなる、とは言ってもここからが本題で俺が躊躇している事だ。