第29話:褒賞・中
翌日、昼前に二人をギルドに送った後、王城への道を歩く。一応今回は招待との事で式典が行われる夕刻前に来てくれとの事だったが、何があるかわからないので昼前に向かう事にしたのだ。
「まぁ、厄介払いされそうなら皆の所に顔を出せばいいか……」
と、行き当たりばったりな事を考えながら歩くが、やけに人が多い。
「いや、やたら人が多いな……」
昼前だし、昼食で出る人はまだ動かない筈……何でこんなに多いんだ?
「裏通りを歩くのは……やめよう……」
一応前回第三王子様からいただいた着替えは空間収納収納に入ってるけど、王城へ入るのに平服が汚れてると止められそうなんだよな。
「仕方ない、貴族街回りでいくか……」
遠回りになるが仕方ない、裏通りや準スラム街を通るよりはマシか。
人の流れの少ない王都の入り口の方へ向かい貴族街へ向かう、この王都は王城と教会に2点を中心に広がっている。区画割りは王城の近くは身分の高い貴族街でそこから扇状に身分が下がって区画が作られている。ちなみに我が家は住宅兼店舗なので区分としては平民用の商業区に当たる、なので貴族街とは真反対だ。
王都の入り口に到着すると早速貴族街へ進む、道中かなりの馬車の数が多く何度か轢かれそうになりながら進んで行く。
「なんか馬車が多いんだけど……何でだろう?」
何かあるとしたら……まさか俺の褒賞式に?
「やばい……胃が痛くなってきた……」
王城に近づく度に痛くなる胃を抑えながら歩いていると悲鳴が聞こえた。
「だ、だれかぁ!!!」
声の方を向くと暴走する2頭立ての箱馬車、1頭の恐怖が移ったのか2頭とも興奮状態だ。しかも暴れ馬車が行く先は沢山の馬車が並んでいる場所だ、このまま衝突すると混乱が起き酷い事故になるだろう。
「このままじゃ……不味いな!」
身体強化を発動して馬に駆け寄り剣を出す。
「はぁっ!」
馬と馬車の金具を斬り落とし双方を切り離す、それから地面に飛び降り、馬の手綱を引きつつ馬車を減速させる。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
全力で踏ん張る、重さもあり馬車はなんとか減速していくけど馬に思い切り引かれる。
「すみません、馬車の中の人何かに掴まれますか!? 止まれないので前輪の一部を壊します」
「は、はい!」
「奥様! 掴まって下さい!」
中に問いかけると女性の声がした、もう大丈夫かな?
「行きます!」
「「はい!!」」
「はぁっ!!」
馬車の前輪を斬り飛ばすと体勢が崩れ前のめりに倒れ込む、車体が悲鳴を上げつつ地面に後を残し停止する。
「後は馬だけかっ! クソッ!!」
勢いが殺せなく、並ぶ馬車の最後列にぶつかる直前、手綱を引き馬車の列から遠ざける、だがそのまま近くの塀に走り衝突する。
倒れる馬に潰されない様に避けて飛び降りる、貴族の家の塀へ突撃したので一部始終を見ていた人や警備兵が集まって来る。
「大丈夫か!?」
「はい……いつつ……」
起き上がり、砂埃を払う、流石に思い切り転がってしまったので一旦家に帰らないと駄目か……。
「ブルルッルル!!」
大きな声を上げる暴れる馬を見ると臀部に何か刺さっている。
「これは……針?」
人差し指くらいの大きな針を抜くと次第に大人しくなる馬。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
軽装の騎士鎧を纏った人達が走って来る、馬車の列整理とかをしていた騎士の方々だ。
「えっと、俺は大丈夫ですが。あちらの馬車を無理矢理に止めてしまったので怪我人が居るかもしれないです」
というか、緊急事態とはいえ貴族に怪我させたのマズくね?
冷静になればなるほど冷や汗が流れ始める。
「わかりました、乗っている方が無事か確認致しますので一緒に来てもらえますか?」
「はい……」
一緒に馬車本体の方へ向かうと、先に向かっていた兵士の方が扉を開ける、降りて来たのは俺と同い年位のメイドさんと、凄く綺麗な紫髪の女性が降りて来た。
(紫髪の貴族……どこかで見たような……)
それに、こんな美人ならば記憶に残ってるはずだから、知らないんだけど……。
「すみません、第二騎士団の者ですが、そちらの紋章はエルヴィール男爵家とお見受けしますが、大丈夫でしたでしょうか?」
「ありがとうございます、私もメイドも怪我無く無事です」
「それは良かったです! こちらの男性はお見知りでしょうか?」
騎士団の彼が俺を見る、釣られて俺に視線を移した女性と目が合う。
「もしかして、ホウショウさんでいらっしゃいますでしょうか?」
「ええと……そうですが……」
「ありがとうございます、また助けていただいたのですね。騎士さん、彼の事は私が知っております、私達を助けていただいた冒険者の方です」
「そうでしたか! こちらの馬車の事故につきましてはこちらで検分しても大丈夫でしょうか?」
「えぇ、当主代理として正確な調査を頼みます」
「それと、こちらが馬に刺さっておりました。恐らく暴れた原因はこれかと思われます」
「針ですか……馬の治療に使うものにしては細すぎますわね……」
「何か塗られてますね……こちらは我々でお預かりしても?」
「お……私は大丈夫です」
「私も構いませんわ」
するとそこでやっと追い付いてきた老齢な御者の男性が、胸を押さえながら肩で息をする。
「奥様……はぁはぁ……すみません……はぁはぁ……突然馬が……はぁはぁ……」
「爺や、無理はしないで下さい。こちらのホウショウさんが助けて下さいましたので皆無事です」
「ありがとうございます、見ておりました。颯爽と現れ、止めれないと判断なされると最善手を取られたその御慧眼に感謝してもしきれません」
そう言って深く頭を下げる、エルヴィール夫人とこの人が居れば何かあっても問題無さそうだな。
「お褒め下さりありがとうございます、ですがああして馬車は壊してしまい馬も怪我をさせてしまいました。特に馬は、代えがたい程の名馬とお見受けしたので……すみません」
確かエルヴィール男爵領は馬産で王家に領地を貰った家で名馬の産出地だ、しかも夫人が乗る馬車を牽くとなると一級の名馬だろう。
「良いのです、馬車は代えが利きますし。それに私、回復魔法の使い手でもありますので」
そう言って、柔らかく微笑むのだった。




