第26話:心
ぐしゃぐしゃに泣きながら気持ちを吐露していく細野さん、見た事無い彼女の姿に思わず抱きしめてしまった。
「なん……で……」
「それ以上言っちゃうと、細野さんが帰ってこれなくなっちゃうと思って。それに、勝手な事を言うと、俺が二人を大切の思うのも、みんなを救うのも全部俺のエゴで自己満足なんだ」
「どうして……」
「俺には両親が居ないからね……10年前に事故で二人共居なくなっちゃったんだ。だから皆には親御さんのとこに戻って欲しいんだ……」
それにこの世界で親が子供の死に目に会えない光景は何度も見てる、そんな光景をたくさん見てると少しでも希望がある皆には無事に帰ってもらいたい。
「それにさ、向こうの世界がどうなってるかわからないけど、皆には帰る場所があるからさ……」
「私には……そんなところ……」
細野さんの家庭の事はわからないけどきっと心配してるだろう。
「もし無かったら、俺が面倒を見るよ、居場所になるよ。前に言ってた南の国にでも移住しようか……」
「そうね……飛翔の言う事、信じてみるわ……」
「あぁ、信じてくれ」
◇◆◇◆
それから細野さんが落ち着くまで暫く抱き合っていると、スンスンと臭いを嗅がれる。
「それよりも……結構臭うわね……」
「そういえば、汗拭いただけだったな……」
「そろそろ奏も帰って……」
細野さんが扉を見る、つられて俺も向くと顔を真っ赤にした蒼井さんがそこに居た。
「あ、後はごゆっくりぃ~」
「あっちょ!? 奏!!」
すーっとフェードアウトしていく、蒼井さんを追いかける細野さん、長くなるだろうし先に風呂入って来るか……。
「じゃあ細野さん俺先に風呂入って来るよ」
細野さんに声をかけて風呂場へ向かう、二人の騒ぎ合う声がっぽいものが聞こえるが反応すると火に油状態なので、華麗にスルーするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんか色々と家族サービスをした翌日、今日の予定である騎士団詰所に行く前にアインの家へ、昨日のお礼とお詫びを伝えに行くつもりだ。
「うーん……手土産、どうしようか……」
「手土産ねぇ……まぁ、そういうのは奏のが詳しいから……任せた!」
そう言って蒼井さんへパスを出す細野さん、確か蒼井さんってなんか良いとこのお嬢様って噂、聞いたことあるな。
「そうなの?」
「あっ、一応……義父が会社の取締役をやってまして。その関係で色々な方とお会いする機会もあるのです。その際にお渡しする様な手土産等は義母がいつも手配をしてます、最近はそのお手伝いを少々やっておりますので……でも、そこまで得意という訳では……」
「いや、助かるよ。男同士だとお酒とかになっちゃうし。女性の、ましてや今回は夫婦だからね、手伝ってもらった方が良いと思うんだ」
そう、頬を掻きながら言うと、蒼井さんが大きく頷いた。
「では、微力ながら精一杯選ばさせていただきますね」
何とも心強い答えを貰い、買い出しへ出発するした。
◇◆◇◆
「しかし、手土産ですか……」
「うん、やっぱりお菓子のが良いのかな?」
「そうですね……アインさんの奥様はお酒とか飲まれます?」
「飲むね、特に赤ワインが好きかな? 逆にエールとかウイスキーとかの穀物酒は嫌いかな? あっ、でもブランデーも嫌いだったな」
「そうなんですね……でしたらチョコレートはありますか? 以前カカオの実は見たのですが……」
「チョコレートかぁ……あるけど、お店で売られてるのは苦いものが多いよ?」
お砂糖が高級品なのもあるんだけど、この世界の保存食にはカカオパウダーが使われているから売られているチョコも苦いものが多かったりする。
「むしろ好都合ですね、好みはありますが売られている赤ワインを見ると苦めの方が合いますから」
「そうなのか……」
「はい、市場で見るブドウの品種は黒ブドウが多いので……」
「知らなかった……」
「私は未成年で飲めませんので、義父《父》や輸入業者さんの聞きかじりですけどね」
「有難いよ、そうか……赤ワインにチョコレートか……」
大旦那に売り込んでも良さそうだな、高級品のワインに高級品の砂糖をたくさん使ったチョコレートこれは良い売上が確保できそうだ。
「どうかしました?」
「あぁ、ちょっと商売に良いかなぁと思ってね。娼館に良さそうなアイディアは大旦那が買い取ってくれるからさ」
「へぇ……でも、そうなると娼館に行かないといけないのよね?」
「遊んで来るんですか?」
なんか二人の温度が下がる、いやいや流石に奥さんいるのに娼館で遊ぶなんて……。
「まぁ、娼館に行かせなきゃいい訳だし……搾り取りますか……」
「私頑張っちゃいますよ!」
なんか二人から凄いオーラを感じる!? 道行く人も何だとばかりに見て来る。
「あーそれならウチに来て試してもらおうかな? そうすれば行かなくて済むし……」
正解がわからないが、そう答えると二人共笑顔に戻る。
「それでしたら、少し余分に材料を買ってお菓子でも作りましょう」
「あっ、良いわねぇ……ガトーショコラとか良さそう」
そういえば、1年生の頃細野さんから貰ったな……クラス全員に対しての配布だけど。
「そうと決まれば、旦那様。一度帰ってチョコを加工しましょう!」
「こっちのチョコレートの出来次第だけど、作ったお菓子のが喜ばれそうね」
二人に腕を引かれ、食材を買いに向かうのだった。




