第24話:日常へ戻る
昨晩は死にかけたり、蒼井さんの覚醒が起きたり、リオルが突撃して来たり、第三騎士団の副団長さんに謝られたりとなんか色々あった。
「うん、魔力の流れも上々だね。これならもう動いても大丈夫だよ」
「ありがとうございます、先生」
上級治療士(回復術師と薬師を合わせた職業で街のお医者さん的な人)のマルセス先生が、体の異常を検知する魔道具を置いて微笑む。
「しかし、びっくりしたよ。朝起きたら使いが来てて、話を聞くとホウショウが暗殺者に殺されかけたと聞いてベッドから転げ落ちたよ」
「あはは……応急処置が良かったのと大きな血管を避けたのが良かったみたいですね。後はギルマスがエルフの秘薬を使ってくれたのも大きいですが……」
蒼井さんの回復魔法のお陰だが、口裏合わせとしてエルフの秘薬であるエリクサーを使用してくれたという事にした。
「ホウショウには借りもあるからね、そのお返しをさせて貰っただけだよ」
同伴してくれてるギルマスも笑って流してくれる。
「でもまぁ、数日は安静にする事。それじゃあ」
「「「はい、ありがとうございました」」」
先生を見送りギルマスも出て行く、俺の襲撃事件の事はもう城に伝えられていて3日程休みを貰える事になった。
「それじゃあ、帰ろうか」
休みを貰ったとは言え、明日には城の騎士団詰所まで調書を作りに行くことになってるんだけどね。
――く~ぅ……。
どこからかお腹の鳴る音がした、二人は昨日から食が通らなかったらしいので、当然だろう。
「腹減ったなぁ……俺、昨日の昼飯以降何も食べてないや……」
「そ、そうですね! お昼ご飯食べに行きましょう!」
「そうねぇ……旦那様は病み上がりだけど、お肉に行きましょうか」
「肉かぁ……年だからちょっと重いけど、昨日大量に出血してるし食べておくか」
(それに、食べれる所を二人に見せれば心配も減らせるだろうし)
食べやすいメニューを出してくれる所を考えながら飲食街に足を向けるのだった。
◇◆◇◆
それから食事を終えて少しフラフラと城下を見て回る、とは言ってもこの街の観光スポットなんて王城を外から見るくらいしか無いんだよね。
「流石にお城には近づきたくないですね……」
「召喚について知ってる人は少ないだろうけど、もし知ってる人が居たらまずいわ」
「うん、とは言っても後はお店を見て回る位しか……そんなに今手持ちがそんなに無いから、高いのは買えないけど……」
今回のネファキュル捕縛の件でかなりの報奨金が出るみたいで有難いのだが、それは調書を作りに行く際に手続きをする事になっているし、受け渡しはギルドの口座経由だから今の手持ちはそんなに無い。
「えーしんがーい、私達そんなになんでもかんでも買ってとは言わないわよ。それに、服なんてアクセサリーより高いとは思わなかったし」
「そうです、今はちゃんとこの世界の物価について学びましたし。それにお台所を受け持ってますので節約はしますよ」
頬を膨らませる細野さん、と意気込んでいるポーズをする蒼井さんのこちらの世界に居ないタイプの美少女な事もあり道行く男性が振り返る。
「そうか、それは心強いな。頼りにしてるよ」
正直な所、生活能力について、特に食事と家計の管理は俺よりも二人のが優れている。というのも今まで独り身の俺は、任務でない日帰りの任務の時は出店や酒場で食べている。
(後はたまーに郊外まで赴いて生育調査ついでのキャンプで狩りしてたからなぁ……)
つまりお金は溜めてたけど、何にいくら使ってるとかの家計簿的なヤツはつけてなかったのだ。
「といわけで、ショッピングデートに行きましょう!」
「ウィンドウショッピングですけどね」
二人が俺の隣に来て腕を組んで歩く、それから夕方の鐘が鳴るまでウィンドウショッピングに耽るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇悪徳貴族side◇
「やったか!?」
部屋に入り込んだ男に慌てて駆け寄る、本日はあの憎き男を殺す日だ。
「途中邪魔が入りましたが、あの男は〝死神〟の攻撃により致命傷を受け、更には毒も受けました」
「そうか!! やったぞ!!」
思わず喜びの声を上げる、あの最上級の暗殺者にかかれば金等級も目じゃ無いわい!!
「ですが……、問題がありまして……」
気まずそうな男の声、僕はそれにイライラしながら声を上げる。
「はぁぁ? まさか、仕留め損ねたって訳じゃないだろ?」
「邪魔は入りましたが、ギルドに運び込まれる所まで確認いたしました。その後駆け付けた治療術師達が即帰る所も確認済みです」
その報告に僕は十全な気持ちになる、何が問題だ!!
「何も無いだろう? 何かあるのか!?」
「はい、〝死神〟ですがホウショウという冒険者と相打ちになり、騎士団に捕縛されました」
「はっ? うそん?」
思わず変な声が出た、それよりも〝生きたまま〟騎士団に捕まるのは不味い……。
「クソッたれ! どこの騎士団だ!」
「恐らく第三騎士団かと……」
それを聞いて冷や汗が止まらない……。
「クソックソッ!! あの第三騎士団だと!?」
後ろ盾は武名名高いイブキ公爵だ、しかもあの騎士団は金を積んでも首を縦に振らない変わり者の集団だ。
「何とかならないか? 牢に忍び込んで〝死神〟を逃がすとか?」
「難しいかと……地下牢の入り口は一つ、更に固めるのは第三騎士団。騎士団全体のレベルも最低銀等級はあります……」
その分析に僕は椅子に項垂れながら座り込む、考えを巡らせるが打開案は出てこなかった。