第23話:ネモフィラの魔法
それからミラさんに連れて来られたギルマスは、俺を見て嬉しそうな顔をした。
「やぁ、ホウショウ。元気そうで良かったよ」
「いやいや、死にかけてましたので元気じゃないですよ」
起き上がってはいるけど細野さんに支えてもらってる状態だ。
「あはは、そうだったねごめんごめん。でも短時間でそこまで回復してるのは驚異的だよ。多分、ホウショウ自身の力だけでも無さそうだしね」
ギルマスがちらりと蒼井さんを見る、確か彼女の適性って回復魔法だけど……。
「少し、昔話をしようか……。私がまだ、ほんの100歳位の頃の話なんだがね……」
そう言って語り出すギルマス、というか100歳って……200年以上昔じゃないか……。
「その時はまだこの国の首都が魔の森の奥深くに存在していたんだ」
「魔の森?」
「って何だっけ?」
蒼井さんと細野さんが首を傾げる、そういえば地図はチラッとしかみせて無かったな。
「えっと、魔物の中でも相当に強い進化種や超越種が存在する森の事よ。北の方にあって、昔この国の首都は魔の森の中にあったのよ」
ミラさんが説明をしてくれる、というか二人共こっちの言葉をけっこう理解出来るようになって来たんだな。
「思い出しました、ありがとうございますミラさん」
「話を戻そうか、私は旧王都でギルド職員として働いていたんだ。その際に見た事があるんだけど勇者の中には特異な回復魔法を使う子が居てね、君も知ってるけど回復術師の祖と呼ばれる子だよ」
回復術師の祖、フィディスは過去召喚された勇者の1人で回復魔法に特化してた、それだけじゃ無く、研究を行い回復術というものに変化させた。それを普及させて回復術師という職を確立したといわれている。
「その回復魔法が彼女の使う魔法に似ているって事ですか?」
「そうだね、完全にとは言わないけど。彼女の使う回復魔法は自身の魔力を分け与えて肉体の足りない部分を補完する物だったんだ」
「足りない部分を補完……それって大量に出血した俺の血も補完してるって事ですか?」
「そうだね、殆どの血を喪失した君が生きているという事は、恐らく勇者フィディスの回復魔法だ。これは公にすると君にとって非常に不味い事になるだろう、気をつけてくれよ。それと、ミランダは公言しない様に」
「はい、というかギルマスって勇者と知り合いだったんですね……」
「ははっ、昔の事だよ。それに旧王都の厄災以降は僕は自国の防衛戦に参加してたから、勇者達とは散り散りになってしまったからね」
そこまで言われて回らない頭で一つの可能性に気付く。
以前第三王子様からもらった資料だと、建国史の一部で旧王都が陥落してすぐに勇者召喚を行い、魔の森の侵攻を撃退していたとなっていたはずだ。その時にフィディスも召喚されたと記されていたが、今のギルマスの話を聞くと旧王都の厄災前に召喚されてた事になる。
(もしかしたら旧王都に送還魔法の手がかりがあるのか?)
だとしてもここから旧王都まではかなりの距離がある。
(となると、クラスメイト達と協力して奪還をしないと駄目か)
「まぁ、僕からの忠告はそれだけさ。ネモフィラ君が望めば僕の知る範囲でフィディスの治療魔法について教えてあげるからね。じゃあホウショウ、数日はここ使っていいからね~」
そうにこやかに言って上機嫌なギルマスは出て行った。
「それじゃあ私も今日は帰ります、夜間警備は置いてますので変な事しない様にね」
そう言ってジト目をしたミラさんも出て行く。
「さて、それじゃあ私が様子を見てるから。奏は先に寝て良いわよ、一回倒れるくらい魔法使って本調子じゃないでしょ?」
「ありがとう恵ちゃん……くぅ……」
ベッドに倒れ込みすぐに寝息を立てる、確かに魔力切れってスイッチ切れみたいになるもんな。そんな寝落ちした蒼井さんの服を緩めて布団をかける細野さん。
「細野さんは寝なくて大丈夫、ずっと起きてたでしょ?」
時計を見るともう深夜だった、さっきまでその原因を作ってブッ倒れてた俺が言うのはアレだが、心配ではある。
「大丈夫、奏が寝てる間私も寝てたから。それに私、夜遅くまで起きてるの得意だから」
そう言って自嘲気味に笑う、何かあったんだろうか。
「そっか、じゃあ俺寝すぎて眠くないから話し相手になってくれよ」
そう言って笑うと、やれやれといった感じで椅子をこちらに向き直すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇第三騎士団副団長side◇
「団長!? 待って下さい!!」
城の外壁から飛び降りた団長を追って身体強化を発動させて飛び降りる。
(全くあの団長は! どうしたっていうんだ!!)
いつもの巡回途中、冒険者同士の喧嘩が発生したと連絡が来た。第一報まではいつもの事と放っておいたのだが、第二報が入ると団長が血相を変えて飛び出した。
全力で屋根上を跳ぶ団長を追いかける、いつの間にか留置場を飛び越え聖都ギルドの方へ進んで行く。
「団長! 一体どうしたというんですか!?」
「先生が!」
「先生? そういえば……」
(数日前に団長が恩師に出会ったと言ってたな……というか、戦闘狂の団長が師と仰ぐって、どんな人だ?)
そんな事を考えていると、入り口をぶち破ってギルドの中に入っていく。
「団ちょぉぉぉ!?」
入り口に降り立つ、吹き飛ばされた扉と夜勤の職員が腰を抜かして座り込んで居た。
「すまない! 修繕費用は第三騎士団が支払う!」
真っ直ぐ走って行った先は奥の医務室の一つだ、いくつもあるのに正確に判るのは流石団長だろう。
「団長!流石に寝てるかもれなっ……あぁ、もう!!」
部屋に飛び込んだ団長は、ベッドに飛び込んでいた、隣に居た少女が目を白黒させている。
「ぐえっ……じぬぅ……」
「あぁ団長! 駄目です!!」
(冒険者とはいえ怪我人だ、止めないと不味い)
「先生! 勝負しよう!!」
団長の空気が読めない言葉で、感動的な場面がすっ飛んで行った……。