第20話:帰還魔法の真実
――ゴーン・ゴーン・ゴーン
「よし! 今日の訓練終了!」
夕刻の鐘が鳴り訓練終了の掛け声をすると、走っていたクラスメイト達は座り込み肩で息をする。
「だいぶ体力が続くようになって来たな……」
訓練開始から1週間、言葉の方はまずまずだけど体力の方はしっかりついて来ている。
(始めと終わりのランニングも5キロは超えたし、しっかりと素振りも出来てきたし、そろそろいいかな)
勇者の力とでもいうのか、成長は凄く早い。
(俺の時は力が封印されてたって事もあったけど、凄いなぁ……)
これなら次のステップへ進んでも良さそうだ。
「さて、息を整えながらでも良いから聞いて欲しい。そろそろ皆には〝魔法〟を覚えて貰おうと思う」
そう言うと疲労困憊な皆の目に少しだけ精気が宿る。
「ホウショウ先生! それって火を出したりとか水を出したり出来るようなやつですか!?」
「うーん、それは2段階目かな。まずは身体強化からだ」
「身体強化ですか?」
「あぁ、これが使えると全体的な身体能力が上がるからね」
見せた方が早いと思い身体強化を発動させてその場でジャンプする、すると2メートル程飛んだ姿に皆が驚いた声を上げる。
「それと、身体強化は全身に魔力を通わせるからね、出来る様になってから応用すると元々備わっている属性の魔法が使いやすくなるよ」
身体強化を維持しつつ右手から炎、左手から水を出す。
「「「「「おぉ~!!」」」」」
「せんせ~、さっき〝元々備わっている属性〟って言ってましたが。魔法って適性があるんですか?」
クラスメイトの……西条さんだ、彼女が手を挙げて聞いてくる。
「あぁ、あるよ。まずは適性の所から説明しようか、適性というのは他より成長が早かったり当人と親和性があって魔法の発動がしやすい事をまとめてそう称しているんだ」
用意してもらった黒板に絵を描きながら説明をする。
「ちなみに俺は火と風に強い適性があってね、それ以外の適性は無かったんだ」
「あれ? でも先生はさっき水を出してたましたよね?」
「あぁ、それなんだけど適性が無い属性でも修練をすれば平均くらいまでは上がりはするんだ、だから皆も頑張って欲しいな」
「「「「「はい!」」」」」
皆がしっかりと頷いてくれる、少しやる気が無い人たちもいるがそわそわしている、未知の魔法というものに惹かれるところはあるみたいだ。
「それで、これからの皆次第だが……帰還魔法について話しておこう」
俺の言葉に目を見開くクラスメイト達。
「結論から先に言うと。俺が調べた範囲で今現在、〝この国〟には帰還魔法が書かれた文献は存在しない」
「嘘……」
「そんな……」
俺の言葉に怒ったり絶望をした顔をするクラスメイトの皆、女子の中には泣き出す子も居る。
「あー、皆……話は最後まで聞いてくれ。俺は〝今現在〟と言ったんだ」
暫く落ち着くまで待ってからそう言うと、大人しくなった数人の生徒が顔を上げる。
「昔は帰還魔法……送還魔法と言うのだけど、それがあったみたいなんだ。それに今も極東地域では召喚魔法が日常的な移動方法としてに使われている。それに学術都市じゃ様々な魔法の研究も行われているからね、もしかしたらそこに行けば見つかるかもしれない」
「じゃ、じゃあ……その学術都市や極東に向かえば……」
「無理だ」
「どうしてですか!?」
「それは君達が〝話にならない程〟弱いからだ」
少し圧をかけながら俺は言葉を発する、それに気圧されて皆が言葉を口を噤む。
「前にも言ったけどここから極東まで馬車で半年以上かかる。それに、少し聞いただけで俺は詳しくは知らないが召喚だってコストはとてつもなく。国はそんな存在を易々と逃がしてくれないだろう、それに街道や山道を進めば獣や夜盗、魔物や魔獣だって出てくる」
一旦区切りクラスメイトを見回す、察しが良いのか俺の言葉に顔を青くする人も居る。
「現に君達の仲間は二人、用済みとして娼館へ売られている。使えないと判断されたら真っ先に奴隷落ちと言われたのはそういう事だ」
蒼井さんと細野さんが娼館に売られたと聞いて、不安が広がっていく。
「ふぅ……何も脅かしたい訳じゃないが、そう聞こえるだろうな。君達が強くなればここから逃げ出す事も、帰還魔法を求めて旅をする事も叶うかもしれない。だから、君達は少しでも強くならなきゃいけないんだ」
その言葉に顔を下げる者も居れば、どうしたらいいのか不安そうに周囲へ目配せする者も居る。顔を上げている者が5人にも満たないのは仕方のない事だろう。
「今は、強くなる事とこの世界で生きる為に国の言葉を身に着けて欲しい。頑張るのは苦痛だろうけど、いざ事態が動き出した時に置いて行かれない様にしないといけないから……。それじゃあ、今日は終わり、ちゃんと手の治療と休んでおくように……お疲れ様」
言葉を終わらせ立ち上がる、言葉を選んだつもりだけど……。
「やっぱり俺、言葉は上手く無いなぁ……」
これで良かったのかと思いながら、ギルドへ向かうのだった。