第18話:第三王子-アラテシア-③
「勇者の力? 何ですかそれ?」
突如第三王子に言われたが、俺は特に思い当たる節は無かったりする。
「うん、勇者召喚ってのは膨大な魔力を使い異世界人を召喚して、召喚者に多大な力を付与するんだ。君達の世界でもあるファンタジー小説みたいな感じにね」
チート能力みたいなものか、そんなものが昔にあればこっちでの生活が少しは楽になっただろうなぁ……。
「それと、一つ勘違いがあるよ。ホウショウ殿は10年前にこっちの世界に落とされて来たと思ってるけど、それは間違いで。本来はホウショウ殿を含めたクラスメイト達が10年前にここに召喚されるはずだった」
「えっ?」
「でも君は一人で召喚された、つまり10年前の召喚は途中まで成功してたんだ。でも、召喚に使用した魔力ですら君一人をここに呼びよせるには至らなかったんだ」
「でも、私は至って平凡で、そんな特別な能力なんて……」
チート能力も無い、空間収納に関してはこの世界じゃ珍しいだけなので、勇者の力と言われてもピンとこない。
「その顔はピンと来てないみたいだね」
「はい、空間収納があるくらいで。正直な所、最初は剣すら振るうのに苦労してましたし」
「うん、それは視たよ~。それでね、ホウショウ殿の力は封印がかかってるみたいなんだ」
「封印……それはいったい……」
「うん、それだけの魔力を消費した召喚は本来、呼び出される時に能力に応じて身体は強くなるはずだったんだ、でもホウショウ殿の召喚はそこまで至らなかった。しかも付与された魔力は凄く不安定でね、暴走して身体が傷付けない様にその力を自分の力で封印していたんだ」
「そうだったんですか、もし封印が無かったら?」
「うーん……爆散? ホウショウ殿の世界での漫画で過剰にエネルギーを吸収した敵が自爆するとかあるじゃん? あんな感じになるよ」
そう言われると思い当たるキャラがいくつかいる、思い返すとぞっとするな……封印されててよかった……。
「確かに、でも今も封印されてるって事は耐えられないんじゃ?」
「そうだね、流石に一気に開放すると不味いから、今のホウショウ殿に合わせた段階を踏めば全開放が可能だよ。まずは今日一つ開放するから数日かけてそれに慣れて欲しいな」
「わかりました、頑張ってみます」
「それじゃあ、すこし無理矢理にこじ開けるから頑張ってね」
「へっ?」
ガシッとミレディさんに拘束される、そして第三王子が、瞳が俺を覗き込む。
「あがっ……」
全身に悪寒が走り身体に力が籠り戦闘態勢に入る、先程感じた大きな魔力が俺の中に入り込んでくる。
「ぐぅ……もう少し……もう少し……見えた!」
その言葉の瞬間、俺の中で何かが外れた……心臓が跳ね上り送り出された魔力が体を巡る。
「——っつ!? はぁはぁ……」
「落ち着かれましたか……」
大きく息を吐いて俺を解放するミレディさん、相当暴れたのかいつの間にか額に大粒の汗をかいている。
「どうかな? ホウショウ殿」
覗き込んでくる第三王子、瞳から感じる威圧感が弱まってる?
「自分じゃわかりませんが……変わったんですかね?」
「うん、前よりも強くなってるよ。多分だけど馴染めば金剛級に届くくらいまで強くなってるはず」
「そんなにですか……」
「そうだね、ミレディの時より魔力が持ってかれた感覚があったし」
そう言って笑うアラテシア様、本人も少し顔が青いし無理をしてくれたんだろう。
「って、ミレディさんって召喚勇者なんですか!?」
「いえ~、私は召喚勇者の子孫でございます~。勇者の力は子々孫々受け継がれているらしいので~。お付きになった後に実験台になりました~」
「そうだったんですね……」
「ふぅ……疲れちゃった……」
そう言って自分の席に落ち着くアラテシア様、汗を拭い一息つくとふにゃりと笑う。
「まだ話したい事はあるけど良い時間だし、そろそろ〝奥さん〟を迎えに行ってあげないとね。ミレディ送ってあげて」
壁掛け時計が指差される、確かにそろそろ食堂も閉まってしまう時間だ。
「かしこまりました~、ホウショウ様こちらへどうぞ~」
「わかりました。アラテシア様、今日はありがとうございました、おかげで思っていたよりも遥かにいい方向に進みました」
「よかった。それにホウショウ殿の信頼を得られてよかったよ」
今日一番の笑顔を向けられて、少し心臓が跳ねる。男子とはいえ凄く女の子っぽい美形なので頬が熱くなる。
(俺、男色趣味は無いんだけどなぁ……)
「ありがとうございます、これから頑張りましょう」
そう言って部屋を後にする、それからはミレディさんの案内で城外へ向うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇アラテシアside◇
「アラテシア様、お加減はどうですか~?」
ホウショウさんとの話の後、疲れた体で湯船に浸かる僕の髪をマッサージしながらミレディが聞いてくる。
「うん、凄く良いよ~いつもありがとうね~」
「いえいえ~、それに、アラテシア様の願いが叶いそうで良かったです~」
「うん、長い事憧れてた願いが近くに来たんだ、嬉しいことこの上ないよ」
「いえいえ~、そっちでは無いですよ~」
「へっ?」
「ふふふ~」
ニコニコと笑うミレディが少しいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「——っつ!? 僕変じゃなかった?」
「はい~、大丈夫ですよ~」
「良かった……」
そう言って天井を見上げる、瞼を閉じるとホウショウ殿を通して視た数多の未来を思い出す。
「運命は動き出した、あの二人も合流出来た。後は幾つもの未来の分岐点を彼が乗り越えるだけ。待っててね……やっとここまで来たんだ、必ず辿り着いてみせるよ」
やっと尻尾を掴んだ、未来への思いを馳せながらミレディに身を任せていく。